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八話 気持ちのズレの訪れ
四
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ガコン
「あれ?」
家の扉を開けようとしたが鍵がロックされて開けられなかった。家には伯父と伯母が仕事でいなくても祖父がいて、玄関の扉には普段鍵が掛けられていない。しかし今日は鍵が掛けられている。予め持っていた鍵で開けて家に入り、祖父がいると思われる和室へ赴いた。
「おじいちゃん?」
和室にもリビングにも庭にもいない。何かあった時はテーブルにメモを残すようにするという天海家のルールを思い出してテーブルの上へ視線を移すと、メモ用紙が置かれているのを発見した。
『ココロへ たろうまるとさんぽに行ってきます』
「なんだ、おさんぽに行ってるんだ」
メモの文面を読んで安堵し、すっと肩の力が抜ける。
家に誰もいないことが普通だったのに、最近は誰かがいることが普通になっていた。たった数ヶ月でこの生活に馴染んだものだ。
だから今のこのーーあまりにも家の中が静かな状況は懐かくて、ひどく落ち着かなかった。
……へんなの。いまは楽しいし、ちょっとまってたらおじいちゃんも太郎丸さんも帰ってきてくれる。伯父さんと伯母さんだって。
ーーーーなのに 。
「ママとパパは……どうして帰ってきてくれないの……?」
ぽろっと口から溢れた本音。それはまるで水流を堰き止めていたダムが決壊したようだった。胸の内を真っ直ぐな負の感情が激しく巡り暗い底に淀んでいく。
感情のままに身を任せて階段を駆け上がり、自室へ入ると背負っていたランドセルを定位置に放り投げた。
「ピギョギョッ!?」
ランドセルの定位置の横にはクックがいるケージが置いてある。その中でうとうとしていたクックは、ランドセルが床に落ちる音に驚きハッキリと覚醒して鳴き声を上げた。そしてココロがいることに気付くと更に鳴き続ける。
一方ココロはクックの鳴き声に耳を貸さず、外出用のショルダーバッグを手にして適当に物を入れては肩に掛けた。
「クックさん行こう」
「ピ、ピギョ?」
クックをカゴに移すこともせずにケージを持って階段を降りていった。靴を穿き外に出て家の扉に鍵を掛ける。
「ピィッピィーッ」
ココロのただならぬ雰囲気を察したのかクックは鳴き続けているが声は届かない。まるで両親と離れた空港の時と似た状況だ。
あの時よりも精神的に成長したココロだが、逆戻りしたように表情は硬くどこかを真っ直ぐに見ている。広がる曇り空を。ただ遠くを見ている。 ケージを置き、そしてそっと両手の指を組み合わせて祈りを捧げている。
「ピィッ、ピギョォーッ」
「クックさんしずかにしてて。出かけるだけだから」
声質は淡々としている。胸の前でケージを抱えて歩き出し家を後にした。
「あらココロちゃん、こんにちは」
「……こんにちは」
家の前の通りで通常型の進化ピヨを連れた女性とすれ違い話しかけられる。初めて太郎丸と散歩した時に出会った女性で、伯母と仲の良い近所付き合いのある人だ。
最近は人見知りせず話せるようになったのだが、今日は素っ気なく挨拶を返すだけでさっさと道を進んでいく。
その女性もこれといって気に留めることなく別の方向へ歩いていった。
「あれ?」
家の扉を開けようとしたが鍵がロックされて開けられなかった。家には伯父と伯母が仕事でいなくても祖父がいて、玄関の扉には普段鍵が掛けられていない。しかし今日は鍵が掛けられている。予め持っていた鍵で開けて家に入り、祖父がいると思われる和室へ赴いた。
「おじいちゃん?」
和室にもリビングにも庭にもいない。何かあった時はテーブルにメモを残すようにするという天海家のルールを思い出してテーブルの上へ視線を移すと、メモ用紙が置かれているのを発見した。
『ココロへ たろうまるとさんぽに行ってきます』
「なんだ、おさんぽに行ってるんだ」
メモの文面を読んで安堵し、すっと肩の力が抜ける。
家に誰もいないことが普通だったのに、最近は誰かがいることが普通になっていた。たった数ヶ月でこの生活に馴染んだものだ。
だから今のこのーーあまりにも家の中が静かな状況は懐かくて、ひどく落ち着かなかった。
……へんなの。いまは楽しいし、ちょっとまってたらおじいちゃんも太郎丸さんも帰ってきてくれる。伯父さんと伯母さんだって。
ーーーーなのに 。
「ママとパパは……どうして帰ってきてくれないの……?」
ぽろっと口から溢れた本音。それはまるで水流を堰き止めていたダムが決壊したようだった。胸の内を真っ直ぐな負の感情が激しく巡り暗い底に淀んでいく。
感情のままに身を任せて階段を駆け上がり、自室へ入ると背負っていたランドセルを定位置に放り投げた。
「ピギョギョッ!?」
ランドセルの定位置の横にはクックがいるケージが置いてある。その中でうとうとしていたクックは、ランドセルが床に落ちる音に驚きハッキリと覚醒して鳴き声を上げた。そしてココロがいることに気付くと更に鳴き続ける。
一方ココロはクックの鳴き声に耳を貸さず、外出用のショルダーバッグを手にして適当に物を入れては肩に掛けた。
「クックさん行こう」
「ピ、ピギョ?」
クックをカゴに移すこともせずにケージを持って階段を降りていった。靴を穿き外に出て家の扉に鍵を掛ける。
「ピィッピィーッ」
ココロのただならぬ雰囲気を察したのかクックは鳴き続けているが声は届かない。まるで両親と離れた空港の時と似た状況だ。
あの時よりも精神的に成長したココロだが、逆戻りしたように表情は硬くどこかを真っ直ぐに見ている。広がる曇り空を。ただ遠くを見ている。 ケージを置き、そしてそっと両手の指を組み合わせて祈りを捧げている。
「ピィッ、ピギョォーッ」
「クックさんしずかにしてて。出かけるだけだから」
声質は淡々としている。胸の前でケージを抱えて歩き出し家を後にした。
「あらココロちゃん、こんにちは」
「……こんにちは」
家の前の通りで通常型の進化ピヨを連れた女性とすれ違い話しかけられる。初めて太郎丸と散歩した時に出会った女性で、伯母と仲の良い近所付き合いのある人だ。
最近は人見知りせず話せるようになったのだが、今日は素っ気なく挨拶を返すだけでさっさと道を進んでいく。
その女性もこれといって気に留めることなく別の方向へ歩いていった。
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