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六話 新しきを知る
五
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日が落ち始めた頃にココロは目を覚ます。のそりと布団から這い出ていき、思い出したように日記にクックとやったステップやジャンプのことを書き記す。
大事なことだもんね。いっぱい色んなことできるようになったらうれしいし、きっとクックさんもうれしいよね
「ドリルもやらなきゃ」
日記をしまい、今度はランドセルから連絡帳と漢字ドリル、計算ドリルを取り出す。連絡帳を出したのはドリルを進める範囲を確認する為である。
「そうだ、ハンコもらわなきゃ。伯母さん帰ってるかな」
連絡帳を持って一階へ降りていくと肉が焼けるいい匂いが漂ってくる。ジューと音も聴こえてきて、料理中なことが分かる。リビングに入ってキッチンを見ると予想通り伯母が料理をしていた。
「伯母さん、お帰り」
「ただいま。お夕飯もう少しでできるわよ」
「いいにおい。おゆうはん、なに?」
「生姜焼きよ」
「ただいまー」
伯父がそう言ってリビングに入ってくる。
ココロは目を丸くして不思議そうな顔で伯父を見ている。
「お帰りなさい」
「お帰り……伯父さんもお出かけしてたの?」
「うん。さっき書いてたやつを出しに行ってただけだけどね。あースッゲーいい匂い! 生姜焼き?」
「そうよ」
「本当だ、とてもいい匂いがするな」
祖父もリビングに合流する。テーブルには豪華な食事が並べられていて、それはとてもキラキラと眩しく輝いて見えた。
うわぁあ……! たくさんおかずがならんでる
のすごいや……伯母さんすごい!
「ココロちゃん、豚汁持っていってくれる?」
「あっうんっ」
伯母から豚汁が盛られたお椀を受け取りそれぞれの席に置いていく。次はご飯の器を並べて、食事の準備が整うと伯母が席に着き、食前恒例の挨拶をして食べ始めた。テーブルにはご飯、豚汁、豚の生姜焼き、パプリカサラダ、きんぴらごぼうが並んでいる。ボリューミーなことは確かだが、どれも美味しくて箸が進む。
「ああ~飯が進む、マジ美味いっ!」
「亜希子さんのご飯はいつも美味しいね」
「お粗末様です」
「伯母さんのごはん、おいしい」
「ありがとう」
今日の献立に苦手な食べ物が無いとはいえ、どれを食べても美味しい、もっと食べたいとさえ思える。
「にしても亜希子ちゃんさぁ、マジで胡麻好きだよね。それ生姜焼きっていうか胡麻焼きじゃん」
三人の生姜焼きは豚肉に生姜醤油というオーソドックスなものだが、伯母の生姜焼きだけ胡麻が全面にまぶしてある。
「私のはこれでいいのよ。胡麻は食感も香りも良くて美容にだって効果あるんだから」
からかっているような伯父の態度にムキになることもなく、伯母は平然として食事をしている。
伯母さんはゴマがすきなんだ。ゴマもめずらしい……おじいちゃんは大豆で、伯父さんはプロテイン。プロテインもよくわかんないし、みんなめずらしいものがすきなのかな?
そうだ、伯母さんにもきいてみよう
「ねえ、伯母さんのおしごとはなに?」
「美容師よ」
「えっ。伯母さんもびようしさんなの?」
「そうそ。夫婦そろって美容師なの。すごいっしょ」
「別に凄いことはないわよ。大して珍しくもないし」
「すごい……」
謙遜しているのか本当に大したことはないと思っているのか定かではないが、少なくともココロには大したことで、二人を尊敬の眼差しで見ている。
二人ともびようしさんなんてカッコイイ……
「ココロは将来何になりたいんだ?」
「……わたしは……」
祖父と二人きりならこともなげに答えられるのだが、大人三人に囲まれて注目されると恥ずかしくなって言葉が続かない。数秒の間を空けてからおずおずと口を開く。
「……えっとね……おりょうり作ったり、あとママがおようふくすきだから、おようふく作るのとかやってみたい」
「へえ~じゃあ料理人とかかな?」
「パティシエなんかもアリだな」
「服作るならパタンナーだけど、一からデザイン考えたいならデザイナーよね」
将来の夢を話すなんて学校の授業で話した一年以来だが、自分のことを誰かに話すというのは気恥ずかしいものだ。だが親身になって聞いてくれるのは有難いことで、まだ小さいながらココロもその有難みを感じていた。
「コケーッ」
「ピギョーッ」
太郎丸さん……クックさん……
「……ピヨさんとかかわるおしごともいいかも。ペットショップとか、どうぶつのおいしゃさんとか」
鳴く二羽のピヨを見ていたらその選択肢も良いと思える。ピヨが大好きで、日常だけではなく仕事でも関われたらそれはとても嬉しくて理想的なことかもしれない。
「まだ小学二年生だからな。これから色んなことを経験して勉強して、ココロがなりたいものになれるといいな」
「うん」
今の……今日会ったおばあちゃんも言ってた。《けいけん》って、とっても大事なことなんだね
「そうだ、料理したいなら亜希子ちゃんに習えば? 亜希子ちゃんの料理美味いしさ」
「え……いいの?」
「いいわよ」
伯母の顔を見ると柔らかい微笑みを向けてくれる。今までで一番優しい微笑みに胸の奥が温かくなってくる。すごく温かくて、それでいて中心が少しだけチリッと焼けるみたく痛さもある。
ママみたい……ママじゃないのに……どうしてこんなこと思うんだろう……?
大事なことだもんね。いっぱい色んなことできるようになったらうれしいし、きっとクックさんもうれしいよね
「ドリルもやらなきゃ」
日記をしまい、今度はランドセルから連絡帳と漢字ドリル、計算ドリルを取り出す。連絡帳を出したのはドリルを進める範囲を確認する為である。
「そうだ、ハンコもらわなきゃ。伯母さん帰ってるかな」
連絡帳を持って一階へ降りていくと肉が焼けるいい匂いが漂ってくる。ジューと音も聴こえてきて、料理中なことが分かる。リビングに入ってキッチンを見ると予想通り伯母が料理をしていた。
「伯母さん、お帰り」
「ただいま。お夕飯もう少しでできるわよ」
「いいにおい。おゆうはん、なに?」
「生姜焼きよ」
「ただいまー」
伯父がそう言ってリビングに入ってくる。
ココロは目を丸くして不思議そうな顔で伯父を見ている。
「お帰りなさい」
「お帰り……伯父さんもお出かけしてたの?」
「うん。さっき書いてたやつを出しに行ってただけだけどね。あースッゲーいい匂い! 生姜焼き?」
「そうよ」
「本当だ、とてもいい匂いがするな」
祖父もリビングに合流する。テーブルには豪華な食事が並べられていて、それはとてもキラキラと眩しく輝いて見えた。
うわぁあ……! たくさんおかずがならんでる
のすごいや……伯母さんすごい!
「ココロちゃん、豚汁持っていってくれる?」
「あっうんっ」
伯母から豚汁が盛られたお椀を受け取りそれぞれの席に置いていく。次はご飯の器を並べて、食事の準備が整うと伯母が席に着き、食前恒例の挨拶をして食べ始めた。テーブルにはご飯、豚汁、豚の生姜焼き、パプリカサラダ、きんぴらごぼうが並んでいる。ボリューミーなことは確かだが、どれも美味しくて箸が進む。
「ああ~飯が進む、マジ美味いっ!」
「亜希子さんのご飯はいつも美味しいね」
「お粗末様です」
「伯母さんのごはん、おいしい」
「ありがとう」
今日の献立に苦手な食べ物が無いとはいえ、どれを食べても美味しい、もっと食べたいとさえ思える。
「にしても亜希子ちゃんさぁ、マジで胡麻好きだよね。それ生姜焼きっていうか胡麻焼きじゃん」
三人の生姜焼きは豚肉に生姜醤油というオーソドックスなものだが、伯母の生姜焼きだけ胡麻が全面にまぶしてある。
「私のはこれでいいのよ。胡麻は食感も香りも良くて美容にだって効果あるんだから」
からかっているような伯父の態度にムキになることもなく、伯母は平然として食事をしている。
伯母さんはゴマがすきなんだ。ゴマもめずらしい……おじいちゃんは大豆で、伯父さんはプロテイン。プロテインもよくわかんないし、みんなめずらしいものがすきなのかな?
そうだ、伯母さんにもきいてみよう
「ねえ、伯母さんのおしごとはなに?」
「美容師よ」
「えっ。伯母さんもびようしさんなの?」
「そうそ。夫婦そろって美容師なの。すごいっしょ」
「別に凄いことはないわよ。大して珍しくもないし」
「すごい……」
謙遜しているのか本当に大したことはないと思っているのか定かではないが、少なくともココロには大したことで、二人を尊敬の眼差しで見ている。
二人ともびようしさんなんてカッコイイ……
「ココロは将来何になりたいんだ?」
「……わたしは……」
祖父と二人きりならこともなげに答えられるのだが、大人三人に囲まれて注目されると恥ずかしくなって言葉が続かない。数秒の間を空けてからおずおずと口を開く。
「……えっとね……おりょうり作ったり、あとママがおようふくすきだから、おようふく作るのとかやってみたい」
「へえ~じゃあ料理人とかかな?」
「パティシエなんかもアリだな」
「服作るならパタンナーだけど、一からデザイン考えたいならデザイナーよね」
将来の夢を話すなんて学校の授業で話した一年以来だが、自分のことを誰かに話すというのは気恥ずかしいものだ。だが親身になって聞いてくれるのは有難いことで、まだ小さいながらココロもその有難みを感じていた。
「コケーッ」
「ピギョーッ」
太郎丸さん……クックさん……
「……ピヨさんとかかわるおしごともいいかも。ペットショップとか、どうぶつのおいしゃさんとか」
鳴く二羽のピヨを見ていたらその選択肢も良いと思える。ピヨが大好きで、日常だけではなく仕事でも関われたらそれはとても嬉しくて理想的なことかもしれない。
「まだ小学二年生だからな。これから色んなことを経験して勉強して、ココロがなりたいものになれるといいな」
「うん」
今の……今日会ったおばあちゃんも言ってた。《けいけん》って、とっても大事なことなんだね
「そうだ、料理したいなら亜希子ちゃんに習えば? 亜希子ちゃんの料理美味いしさ」
「え……いいの?」
「いいわよ」
伯母の顔を見ると柔らかい微笑みを向けてくれる。今までで一番優しい微笑みに胸の奥が温かくなってくる。すごく温かくて、それでいて中心が少しだけチリッと焼けるみたく痛さもある。
ママみたい……ママじゃないのに……どうしてこんなこと思うんだろう……?
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