33 / 85
六話 新しきを知る
三
しおりを挟む
「ここの暮らしには慣れたか?」
「まだあんまり」
「伯父さん伯母さんはどうだ?」
「伯母さんはちょっとこわいけど、でも二人ともやさしい。色んなことをおしえてくれるから」
「そうかそうか」
ココロの家庭の事情を知っている祖父は預かる前からいつも心配していた。預かる前には家に度々顔を出すこともあったくらいで、こうして一緒に暮らせるようになり、ココロには悪いが良かったと安心している。
仕事に打ち込むことはいい事かもしれない。しかし子供を蔑ろにしてまで熱中することではないだろう。そうやって我が子たちを諭せなかった負い目なのかもしれない。
「伯父さんも伯母さんもおじいちゃんもココロの味方だ。何でも聞いていいからな。何か必要な物があったら言ってくれれば買うから遠慮せずに言いなさい」
「ありがとう」
こうして優しくしてくれる祖父が好きで、ココロはもっと祖父のことが知りたくなった。
「じゃあ、おじいちゃんのすきなものおしえて」
「好きなもの? そうだな……大豆かな」
「だいず? めずらしいね」
「大豆をバカにしちゃいけないぞ。畑のステーキと言って栄養豊富でとても体にいいんだ。クックが食べている納豆だって大豆から出来ているんだぞ?」
「ピヨさんは、えいようがあるからなっとうヨーグルト食べるの?」
「それもあるだろうが、ただ単に好きなんだろうな。ココロがシリアルを好きで食べるようにな」
納豆自体好きではなくて、そんな納豆にヨーグルトなんて絶対不味いとしか思えない。クックや太郎丸が好きで食べていると言うのだから、もしかしたら食べてみたら美味しいのかもしれない。でもやっぱり食べてみる気にはなれなかった。
「ピヨは穀物や野菜が好物だからな。ココロのシリアルだって、とうもろこしや玄米で作られているんだぞ」
「じゃあクックさんとわたしは同じのを食べてるってこと?」
「そうだな。たくさん色んな物を食べて、栄養をつけて、身体を動かせば健康に育つ。それはピヨも人も同じだろうな」
「そっか……クックさんにも色々食べてもらって、大きくてけんこうになってもらわなきゃ」
郵便局に到着して切手を買い、貼付して成り行きでポストへ投函する。あとはこの手紙が海の向こうにいる二人に届いてくれることを願うばかりである。
「「ただいま」」
「おかえりー」
家に帰ってきたら伯父の声が聞こえた。『おかえり』と言葉が返ってくるのは引っ越してきてもう何回も聞いているのに未だに慣れない。くすぐられているようなむず痒さでちょっぴり嬉しくて恥ずかしい。
洗面台で手を洗ってうがいを済ませてからリビングに行くと、デスクワークをしている伯父を見かける。
「なにかいてるの?」
「んー? 仕事の予定を書き込んでんの」
「なんのおしごとしてるの?」
「コレだよコレ」
伯父は両手の人差し指と中指を立てて指同士をぶつけるように動かしている。
「チョキ? ……はさみ?」
「それそれ。女の子が将来なりたい職業でも結構上のやつだよ」
「はさみ……女の子……お花やさん?」
「あー! それも女の子に人気! でもそっちじゃない! コレコレ」
ココロの髪を人房持ち上げて切る動作をされれば簡単に閃いた。
「びようしさん!」
「ドンピーン!」
「すごい……伯父さんびようしさんなんだね!」
女の子の憧れの職業である美容師と聞いてテンションが上がる。
伯父もすごいと言われて悪い気はしない。寧ろいい気分しかしない。
「昔はカット専門だったけど、今はカット兼マネージャーやってんだよ。ココロちゃん髪長いし切ってあげよっか?」
「いまはいい。のばしたいから」
「うんうん。髪型アレンジとかイメチェンしたくなったら言ってよ。ちゃちゃっとやっちゃうからさ」
「その時はおねがいしちゃおうかな」
「まっかせといてー。こんな風に出来るなんて伯父さん素敵ー! って言わせちゃうよ」
こんなにも自分に協力的になってくれている伯父は好きになれそうな気がしてきた。美容師という職業という点も踏まえると印象はかなりプラスになる。
祖父もリビングに入ってきて和室の襖に手をかける。
「私はこっちで読書でもしているから、何かあったら呼んでくれ」
「ありがとう、おじいちゃん」
ココロの言葉に微笑む祖父。そして和室に入っていった。
「もう手紙出してきたんだ? 早いねー。子供の行動力って凄いや」
「おじいちゃんにお手紙見てもらって、切手買ってもらったの」
「ふーん。じゃあ次からは一人で出来ちゃうね。子供の成長は早いもんなんだな~」
「伯父さんは子どもいるの?」
「えっ。会ったことあるでしょ」
「えっ。そうなの?」
ココロの予想外の質問に驚き、ココロも予想外の返答に驚いた。顔を合わせながら二人共にキョトンとしてしまう。
「あーでも小っちゃかったから覚えてないか。今は学校の寮で暮らしてて多分夏休みには帰ってくるだろうから、会ったら思い出すかもよ?」
伯父の子供がどういう人物なのかピンとこない。けれど会えるなら会ってみたいと思った。
「まだあんまり」
「伯父さん伯母さんはどうだ?」
「伯母さんはちょっとこわいけど、でも二人ともやさしい。色んなことをおしえてくれるから」
「そうかそうか」
ココロの家庭の事情を知っている祖父は預かる前からいつも心配していた。預かる前には家に度々顔を出すこともあったくらいで、こうして一緒に暮らせるようになり、ココロには悪いが良かったと安心している。
仕事に打ち込むことはいい事かもしれない。しかし子供を蔑ろにしてまで熱中することではないだろう。そうやって我が子たちを諭せなかった負い目なのかもしれない。
「伯父さんも伯母さんもおじいちゃんもココロの味方だ。何でも聞いていいからな。何か必要な物があったら言ってくれれば買うから遠慮せずに言いなさい」
「ありがとう」
こうして優しくしてくれる祖父が好きで、ココロはもっと祖父のことが知りたくなった。
「じゃあ、おじいちゃんのすきなものおしえて」
「好きなもの? そうだな……大豆かな」
「だいず? めずらしいね」
「大豆をバカにしちゃいけないぞ。畑のステーキと言って栄養豊富でとても体にいいんだ。クックが食べている納豆だって大豆から出来ているんだぞ?」
「ピヨさんは、えいようがあるからなっとうヨーグルト食べるの?」
「それもあるだろうが、ただ単に好きなんだろうな。ココロがシリアルを好きで食べるようにな」
納豆自体好きではなくて、そんな納豆にヨーグルトなんて絶対不味いとしか思えない。クックや太郎丸が好きで食べていると言うのだから、もしかしたら食べてみたら美味しいのかもしれない。でもやっぱり食べてみる気にはなれなかった。
「ピヨは穀物や野菜が好物だからな。ココロのシリアルだって、とうもろこしや玄米で作られているんだぞ」
「じゃあクックさんとわたしは同じのを食べてるってこと?」
「そうだな。たくさん色んな物を食べて、栄養をつけて、身体を動かせば健康に育つ。それはピヨも人も同じだろうな」
「そっか……クックさんにも色々食べてもらって、大きくてけんこうになってもらわなきゃ」
郵便局に到着して切手を買い、貼付して成り行きでポストへ投函する。あとはこの手紙が海の向こうにいる二人に届いてくれることを願うばかりである。
「「ただいま」」
「おかえりー」
家に帰ってきたら伯父の声が聞こえた。『おかえり』と言葉が返ってくるのは引っ越してきてもう何回も聞いているのに未だに慣れない。くすぐられているようなむず痒さでちょっぴり嬉しくて恥ずかしい。
洗面台で手を洗ってうがいを済ませてからリビングに行くと、デスクワークをしている伯父を見かける。
「なにかいてるの?」
「んー? 仕事の予定を書き込んでんの」
「なんのおしごとしてるの?」
「コレだよコレ」
伯父は両手の人差し指と中指を立てて指同士をぶつけるように動かしている。
「チョキ? ……はさみ?」
「それそれ。女の子が将来なりたい職業でも結構上のやつだよ」
「はさみ……女の子……お花やさん?」
「あー! それも女の子に人気! でもそっちじゃない! コレコレ」
ココロの髪を人房持ち上げて切る動作をされれば簡単に閃いた。
「びようしさん!」
「ドンピーン!」
「すごい……伯父さんびようしさんなんだね!」
女の子の憧れの職業である美容師と聞いてテンションが上がる。
伯父もすごいと言われて悪い気はしない。寧ろいい気分しかしない。
「昔はカット専門だったけど、今はカット兼マネージャーやってんだよ。ココロちゃん髪長いし切ってあげよっか?」
「いまはいい。のばしたいから」
「うんうん。髪型アレンジとかイメチェンしたくなったら言ってよ。ちゃちゃっとやっちゃうからさ」
「その時はおねがいしちゃおうかな」
「まっかせといてー。こんな風に出来るなんて伯父さん素敵ー! って言わせちゃうよ」
こんなにも自分に協力的になってくれている伯父は好きになれそうな気がしてきた。美容師という職業という点も踏まえると印象はかなりプラスになる。
祖父もリビングに入ってきて和室の襖に手をかける。
「私はこっちで読書でもしているから、何かあったら呼んでくれ」
「ありがとう、おじいちゃん」
ココロの言葉に微笑む祖父。そして和室に入っていった。
「もう手紙出してきたんだ? 早いねー。子供の行動力って凄いや」
「おじいちゃんにお手紙見てもらって、切手買ってもらったの」
「ふーん。じゃあ次からは一人で出来ちゃうね。子供の成長は早いもんなんだな~」
「伯父さんは子どもいるの?」
「えっ。会ったことあるでしょ」
「えっ。そうなの?」
ココロの予想外の質問に驚き、ココロも予想外の返答に驚いた。顔を合わせながら二人共にキョトンとしてしまう。
「あーでも小っちゃかったから覚えてないか。今は学校の寮で暮らしてて多分夏休みには帰ってくるだろうから、会ったら思い出すかもよ?」
伯父の子供がどういう人物なのかピンとこない。けれど会えるなら会ってみたいと思った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる