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五話 学校へ行こう

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 時間をすっかり忘れて凛々華と思う存分遊んでいた。
 公園に設置されているスピーカーから流れてくる音楽と、「五時になりました。良い子のみなさんは一緒に気をつけて帰りましょう」というお馴染みの放送が聴こえてきて動きを止める。

「もう五時なんだ」
「早いね。じゃあ帰ろっか」
「うん。リリカちゃんはこのへんにすんでるの?」
「そうだよ。すぐそこのマンション」
「そっか。わたしは東町」
「ちかくだし、またあそべるね」
「うん、またあそぼ」
「うん。じゃあまたね。バイバーイ」
「バイバイ」

 ココロはランドセルを背負い、凛々華と手を振り合って公園を出て別々の道へ歩いていく。

 リリカちゃんとあそぶの楽しかったな

 まだ心臓がドキドキしている。緊張している時の嫌なドキドキとは違って清々しい気分だ。

 ……あれ?

「伯母さん?」

 歩く先から伯母がこちらに向かって歩いてくる。ココロを見るなりやや早歩きで。

 伯父さんがお迎えは来れないって言ってたのに……

「お帰りなさい」
「ただいま……」
「転校初日で道に迷ってたの? それとも担任の先生と何か話してた?」
「ううん。まよってない。先生とあさは話したけど、帰りは話してないよ」
「じゃあ随分と帰りが遅いわね。寄り道でもした?」
「友だちになったリリカちゃんと、そこのこうえんであそんでた」

 まだ後ろに見える公園を指して話す。
 すると伯母は肩を落として溜め息を吐いた。怒っているというよりも呆れているようだ。

「まずは一度家に帰って来なさい。それからなら遊びに行ってもいいから」
「どうしてかえってからじゃないとダメなの?」
「確認する為よ。ちゃんと学校に行って無事に帰ってくる。それがわからないと心配するでしょ」

 ……しんぱいする?

 あまりピンとこなかったのは、今まで親からそんなことを言われてこなかったからだ。
 家に帰ってから遊びに行くことも勿論あったが、大体時間を潰してから家に帰ることが多かった。帰っても誰もいない家にいるのはつまらなかった。

「家にはおじいちゃんもいるし、今日は私が仕事休みだったから待ってたのよ。でもあなたの帰りが遅いからこうして捜しに来たの」
「そうなんだ……」
「それにクックのお世話だってあるでしょう? 帰ったらクックの様子を見てあげて、何か変わったことはないか観察しないと」
「あっ、そっか」
「そうよ。家には誰かしらいるから、学校が終わったらまずは帰ってきて顔を見せる、クックの様子を見る、出掛けるならどこに何をしに行くのか言ってから出掛けること。分かった?」

 家に誰かが必ずいるなんて今までの生活ではほぼあり得ないことだった。それが実現していることなのだと実感が湧かない。

「……わかった」

 実感は湧かないが、新しい生活はそんなに悪いことではないのかもしれない。少しだけそう思えるようになってきた。
 家に帰り祖父のいる和室を開けると、立ち上がっている祖父と出くわす。

「おじいちゃん立ってる!」
「ああココロ、お帰り」
「ただいま。もううごけるの?」
「まだ痛いが、少しはな。転校した学校はどうだった、やっていけそうか?」
「うん、友だちもできたからだいじょうぶ」
「そうか」

 柔らかく微笑む祖父のこの笑顔が大好きで、顔で表せなくても気持ちで笑い返しているつもりになる。

「あのね、あそんでてすぐに帰らなかったから、伯母さんがむかえに来てくれたの」
「そうだな」
「帰らないとしんぱいするって」
「親は子供を心配する生き物だからな」
「わたしの《おや》じゃないのに?」
「そうだよ。親じゃなくても《家族》だから心配するんだ」

『かぞくになれるのかなあ……』

 ふと空港で思ったことを今になって思い出す。

「かぞく……なんだね」

 やっぱりおじいちゃんの言葉はまほうみたい

「ランドセルおいてくる」

 和室を飛び出して二階へ上がり自分の部屋へ入る。ランドセルを背負ったまま真っ先にクックのケージに近づいた。
 ケージの中ではクックが床材にまみれて眠っている。

「クックさんただいま」

 声量を抑えたがそれでもクックは気付いて開眼しココロに向く。

「ピッ」
「おはよ。こんばんは。あのね、今日あったこと言いたいの。言っていい?」
「ピョッ」

 起き上がってケージの扉をくちばしで挟んだりつついたりしている。
 出たいのだと思い、自分の手のひらに乗せて出してやる。雛と違ってもう体が大きく片手では落としてしまいそうで、両手で支えながら床へ下ろし体を撫でてやった。ココロ自身も床に寝そべりクックの目線の高さに合わせる。

「リリカちゃんって友だちができたよ。あそんで楽しかった。でも伯母さんをしんぱいさせちゃった。おじいちゃんが《かぞく》だからだって言ってたの。……わたし、《かぞく》になれたみたい」
「ピヨッピョッ」
「クックさんもかぞくだよ」

 不安だったことが一つ解消されて晴れやかな気分で、クックの反応もまるで喜んでくれているように見えた。
 ランドセルを部屋の隅に置き、クックを抱いて一階へ降りていく。そして夕飯が出来上がると一緒に食事をした。学校の日の朝は時間に余裕が無いが夜なら余裕がある。一人で食べるよりも、誰かと一緒に食事をするともっと美味しい。それをクックにも感じてもらいたかった。これからはなるべく一緒に食事をしようと決めていた。
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