31 / 85
六話 新しきを知る
一
しおりを挟む
休日になったら絶対ご近所探検をしようと計画していた。そして土曜日になると、朝食を済ませ直ぐ様出発する。知らない場所を知っていく楽しみがあり、探検するのはいつもワクワクする。家の周りの道を歩いてみて、目印の掲示板の横を通って自分の居場所を把握する。
うん、お家のまわりはへいきそう。もっと学校の方もいってみよう
凛々華と遊んだ小さな公園を抜けて行き、通学路付近をを探検することにした。
男子たちが遊んでいた広場を目印にして、通学路とは違う道を進んでいく。暫く歩いて行くと信号があった。渡る際はついつい白線の上を踏みたくなり、タンッタンッと跳ねながら白線の上に乗っていく。渡りきったら次は点字ブロックの上を目で追いながら進む。当然下を向いている為、周りへの注意が散漫になっている。歩くスピードは速くないものの、夢中になっているからか近くに人がいても気にしていない。順調に進めるのは周りの人が避けているからだ。
ドンッ
「ひぃゃあっ!?」
「うっ! ……あっ……」
右肩に小さな衝撃を受ける。痛くはなかったが何かがぶつかったのはわかった。顔を上げた時には右横で着物を着ている老婆が右方へよろめき、杖で何とか支えて転ばずに済んだのを見送っていた。
「ふう……危なかったわ」
杖を持つ手が痺れているのか痛いのか微かに震えている。地面を咄嗟に思い切り杖で着き、持ち手に衝撃を集中して受けたからだろう。
ばつが悪くしどろもどろとしていたが、今は恥ずかしいなんて考えている場合ではないと、老婆の前に回って勢いよく頭を下げた。
「うあっ……あのっ……ごめんなさいっ!」
顔を上げてみると、怒っていると思ったがそんなことはなく、老婆は寧ろ目元のシワを深めていた。
「ええよぉ。アタシこそ、とろとろカメみたく鈍くてごめんねぇ」
ゆっくりと穏やかだが、強弱がはっきりとした口調で謝られる。
今は自分が百パーセント悪いと認識していて、首を横に振って主張する。
「ちがうのっ今のはわたしがわるいの! わたしが……あそんでたから」
「子供ん時は遊ぶ。ええこつじゃけえ。……でもそうさねぇ……この黄色のブロックで遊ぶのはよしんしゃいな。使う人が困ってまうよ」
「つかう人なんているの?」
「そうよぉ。これは目の不自由な人が使う物。町にはね、アンタらを守ってくれる物がたっくしゃんあるんやよ。そういう物ば探して、見つけて、知っていくのも勉強やよ。これからたあっくしゃん経験して学んでおいき、お嬢ちゃん」
「……はい、おばあちゃん」
「ええ返事やなぁ。ちゃあんと謝るこつも出来はるしええ子やね。ほなな」
お辞儀をして歩いていく老婆にココロもお辞儀を返してまた歩き出した。今度は点字ブロックの横をしっかりと顔を上げて。
大切なことを聞いたのは確かだが、聞いた言葉は日が経つにつれてどんどん頭の隅に追いやられていくことだろう。しかし忘れることはなく、ふとした時に思い出せる日もまたやって来るだろう。
「おばあちゃん、やさしかったな……」
ココロは祖母に会ったことがない。父方の祖母は既に他界しており、母方の祖母は外国に住んでいる。普段味わうことの無かった貴重な体験をしたものだ。
うん、お家のまわりはへいきそう。もっと学校の方もいってみよう
凛々華と遊んだ小さな公園を抜けて行き、通学路付近をを探検することにした。
男子たちが遊んでいた広場を目印にして、通学路とは違う道を進んでいく。暫く歩いて行くと信号があった。渡る際はついつい白線の上を踏みたくなり、タンッタンッと跳ねながら白線の上に乗っていく。渡りきったら次は点字ブロックの上を目で追いながら進む。当然下を向いている為、周りへの注意が散漫になっている。歩くスピードは速くないものの、夢中になっているからか近くに人がいても気にしていない。順調に進めるのは周りの人が避けているからだ。
ドンッ
「ひぃゃあっ!?」
「うっ! ……あっ……」
右肩に小さな衝撃を受ける。痛くはなかったが何かがぶつかったのはわかった。顔を上げた時には右横で着物を着ている老婆が右方へよろめき、杖で何とか支えて転ばずに済んだのを見送っていた。
「ふう……危なかったわ」
杖を持つ手が痺れているのか痛いのか微かに震えている。地面を咄嗟に思い切り杖で着き、持ち手に衝撃を集中して受けたからだろう。
ばつが悪くしどろもどろとしていたが、今は恥ずかしいなんて考えている場合ではないと、老婆の前に回って勢いよく頭を下げた。
「うあっ……あのっ……ごめんなさいっ!」
顔を上げてみると、怒っていると思ったがそんなことはなく、老婆は寧ろ目元のシワを深めていた。
「ええよぉ。アタシこそ、とろとろカメみたく鈍くてごめんねぇ」
ゆっくりと穏やかだが、強弱がはっきりとした口調で謝られる。
今は自分が百パーセント悪いと認識していて、首を横に振って主張する。
「ちがうのっ今のはわたしがわるいの! わたしが……あそんでたから」
「子供ん時は遊ぶ。ええこつじゃけえ。……でもそうさねぇ……この黄色のブロックで遊ぶのはよしんしゃいな。使う人が困ってまうよ」
「つかう人なんているの?」
「そうよぉ。これは目の不自由な人が使う物。町にはね、アンタらを守ってくれる物がたっくしゃんあるんやよ。そういう物ば探して、見つけて、知っていくのも勉強やよ。これからたあっくしゃん経験して学んでおいき、お嬢ちゃん」
「……はい、おばあちゃん」
「ええ返事やなぁ。ちゃあんと謝るこつも出来はるしええ子やね。ほなな」
お辞儀をして歩いていく老婆にココロもお辞儀を返してまた歩き出した。今度は点字ブロックの横をしっかりと顔を上げて。
大切なことを聞いたのは確かだが、聞いた言葉は日が経つにつれてどんどん頭の隅に追いやられていくことだろう。しかし忘れることはなく、ふとした時に思い出せる日もまたやって来るだろう。
「おばあちゃん、やさしかったな……」
ココロは祖母に会ったことがない。父方の祖母は既に他界しており、母方の祖母は外国に住んでいる。普段味わうことの無かった貴重な体験をしたものだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
お嬢様は謙虚堅実!? ~生まれながらにカリスマが限界突破していた少女と偽神に反逆する者達~
猫野 にくきゅう
ファンタジー
お嬢様は謙虚堅実!?
最悪な人生だった。
それ以外に、言いようのない人生が終わった。
私は高校一年生の冬に、死んだ。
そして────
転生の女神と出会い、異世界に転生する。
今度こそ、まともな人生を歩めますように……。
そう祈りながら────
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる