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五話 学校へ行こう

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「今日はブランコ乗れそう。すべり台もすべりほうだい」

 この公園に来るのはまだ二度目だが、似たような遊具が設置してある元いた隣町の公園になら今までに何度も訪れたことがある。しかしその時は大体遊具は占領されていた。
 学校帰りに寄り道をしてはいけない、そう教えられているが寄り道をすることは日常茶飯事だった。
 夕方過ぎには人が減り遊具で遊ぶことは出来たが、その時間は自分も帰らなくてはいけなくてあまり遊べていなかった。

「ちょっとすべろう」

 ベンチにランドセルを置いて滑り台の階段を昇り、それから滑っていく。この感覚が面白くて何度もやりたくなってしまう。
 数回滑った後、次はブランコに行った。ブランコは乗り場が二つあり、ランドセルを置いたベンチに近い方に乗る。両足を地面に着いて、自分の身長で届く範囲まで後ろにブランコを引き、両足を地面から離した。

「もっと、もっと」

 両足を前へ伸ばして、引っ込めて。繰り返していく内にブランコが振り子のように遠心力で段々と大きく揺られる。

「ふわ~……あ~……」

 前後に揺られて風を受け、ふわっと浮く感覚が魅力的なブランコ。大きく揺らすほど楽しいものだ。しかし。

「……だれも来ないなあ」
 
 横の道を通っていく人はいるが、不思議と公園には人が入って来ない。
 遊具を独占できるなんて滅多にないチャンスではある。でもチャンスはそんなに多くなくていい。たまにでいい。

 ……ちょっと……さびしいな……

「あっ、あのっ!」
「え?」

 どこからか女の子の声が聞こえた。公園には誰もいないのに。

 気のせいかな?

「うしろにいるよ」
「うしろ?」

 ブランコの鎖をしっかり握りながら振り向く。後ろは茂みやフェンスだ。きょろきょろ辺りを見ても人が見当たらない。

「……あれ?」

 声の主を捜しに行こうとブランコが揺れるのを待っていると、一人女子が公園に入り走ってきた。

「はあ、はあ、はあ……」
「……となりの子?」

 膝に手を置いて下を向き、息切れしている呼吸を整えている。
 ブランコが止まると下りて凛々華へ近づいていく。

「だいじょうぶ?」
「きゅうに、走った、から……。はあ……だいじょぶ、だよ」
「そっか」
「うん」
「「……」」

 二人の間に沈黙が走る。ココロは来ないでと言われた手前、何を言えば良いのかわからなかった。
 数秒の沈黙後、先に口を開いたのは凛々華だ。

「あ……あのね、明日あやまろうと思ってたんだけど、ここの公園見たらいたから。あの……ごめんね。来ないでなんて言っちゃって……わたし、びっくりしちゃって」
「おどろかせちゃったんだ。わたしもごめん。としょしつにいくと思って、ついていったらとしょしつのばしょがわかると思ったから。あっ、ちょっとまってて」

 ココロはベンチへ向かって行きランドセルを開ける。中から凛々華が落としていった絵本を持って戻ってくる。

「これおとしてたよ」

 絵本を渡すと凛々華は今にも泣きそうな顔をした。

「さがしてたの! なくしちゃってどうしようって思ってて、おひる休みずっとさがしてて……よかった、ありがとう!」
「どういたしまして」
「あのね、本当は話したかったの。でもたくさん人があつまってくるし、みんなココロちゃんを見に来てて、なんかはずかしくなっちゃって……」
「わたしもだよ。話したかったけど、また来ないでとか、話しかけないでって言われちゃうかと思ってこわかったから」

 凛々華は申し訳なさそうに眉を下げて、じんわりと涙を浮かべて二回目の「ごめんね」を言った。
 ココロは首を横に振る。そして、凛々華と握手をした。

「じゃあ友だちになってくれる?」
「……うん! お友だちになろっ」
「よろしく、天海ココロだよ」
咲掛さきがけ凛々華りりかだよ。よろしくね」
「ブランコ乗ろう」
「うん!」

 二人は手を繋いでブランコへ行き、並んだブランコに乗って大きく揺らして楽しむ。笑ってくれる凛々華にココロはうっすらと口端を上げた。学校の帰りはもうそんなに寂しくないかもしれない。
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