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五話 学校へ行こう

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 五時間目の授業も終えれば帰りのホームルームだ。連絡帳に明日の時間割と持ち物、連絡事項を書く。

「それでは、今日のスピーチは愛美ちゃんの番です。よろしくお願いします」
「はーい」

 帰りのホームルームでは決まってスピーチがあるらしい。
 教卓の前に出てきた愛美は堂々として微笑みを湛えている。

「あたしはきのうのお休みの日に、ママとパパといっしょにショッピングにいきました。ほしかったぬいぐるみを買ってもらえたのでとてもうれしかったです」

 正直羨ましい。ぬいぐるみを買ってもらえることではなく、《両親と一緒に買い物に行けること》がだ。両親は一緒に出掛けて買うのではなく、仕事帰りに買ってきてくれるのだ。お菓子も玩具も、ワガママで言ってみた洋服も買ってきてもらえる。ただ両親と一緒に買い物に行きたかっただけだが、今はまだ叶いそうにない。
 愛美はショッピングモールでの出来事の感想を述べ終えるとココロに視線を向けた。

「今日はてんこうせいのココロちゃんにも会えて、とってもハッピーです。これからなかよくしていきたいと思います。おわりです」

 スピーチが終わって席に戻る愛美。
 周りが拍手する中、ココロは愛美に会釈する。なかよくしたいと思ってくれているなら万々歳である。
 しかし愛美は何故か機嫌が悪そうな険しい表情で睨んでくる。

 わたし……なんかしちゃったのかな……?

 心当たりが思い当たらず首をかしげることしか出来ない。

「はーい、愛美ちゃんありがとうございます。では皆さん、気をつけて帰りましょうね」
「きりつ、れい」
「「さようなら」」

 百合子の号令で一斉に挨拶をしてホームルームは終わり、ランドセルを背負った生徒たちがぞろぞろと帰っていく。
 ランドセルに教科書や筆箱を入れて、かぶせを錠前に合わせてカチリと押し込むと自動でロックされる。ランドセルを背負って教室を出ようとした時。

「ココロちゃん」

 愛美が話しかけてきた。さっきの不機嫌そうな顔が嘘のようにニッコリと笑っている。

「いっしょに帰ろ!」
「えっ……う、うん、いいよ」

 愛美の今までの言動が気になるものの、考えすぎかと言い聞かせて歯切れ悪く承諾した。

「ココロちゃんはどこにすんでるの?」
「【東町】だよ」
「ふーん。あたしは【北常磐】の、こうきゅうじゅうたくがいにすんでるの」
「そうなんだ」
「シャンプーは何つかってる?」
「うーん……【メゾット】だったかなあ?」
「メゾットなんだ。つかったことないけど、やすくていっぱいつかえていいね」
「うん……そうだね」
「あたしのはとっってもたかい、シャンプーなんだよ。【ルベント】の【スパークリングオイルクレンジング&シャンプー】っていうの」
「名前長いね、きいたことないや」

 質問攻めされることはおおよそ予想していたことなので覚悟はしていた。
 愛美の場合は質問の後に自慢をしてくる。金持ちだと豪語するほどアピールしたいのだろうか。
 なんやかんやと校門まで来ると、ぴたりと愛美が歩みを止める。

「……いかないの?」
「ココロちゃんはピヨかってる?」
「うん、いるよ。クックさんっていうの」
「あたしもかってるんだ。しんかはしてる?」
「ううん、まだしてない」
「そっか。こんどあたしのピヨ見せてあげる。ココロちゃん家のピヨがしんかしたら見せ合いっこしよ」
「うん、いいよ」

 頷いてそう言うと、愛美は満足げに笑った。幼いながらに整った顔が笑うことで可愛さが強調される。

「おむかえ来てるからここまでね! バイバイ」
「あ……バイバイ」

 校門から数十メートル離れたところに車が停まっていた。愛美はその車に向かっていく。
 運転席からは三十代くらいの男性が出てきて愛美を車に迎え入れた。

 パパが迎えに来てくれるなんていいな……

 自慢話をされることは別にどうだってよかったが、親が迎えにきてくれることには率直に羨ましいと感じていた。
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