27 / 85
五話 学校へ行こう
四
しおりを挟む
五時間目の授業も終えれば帰りのホームルームだ。連絡帳に明日の時間割と持ち物、連絡事項を書く。
「それでは、今日のスピーチは愛美ちゃんの番です。よろしくお願いします」
「はーい」
帰りのホームルームでは決まってスピーチがあるらしい。
教卓の前に出てきた愛美は堂々として微笑みを湛えている。
「あたしはきのうのお休みの日に、ママとパパといっしょにショッピングにいきました。ほしかったぬいぐるみを買ってもらえたのでとてもうれしかったです」
正直羨ましい。ぬいぐるみを買ってもらえることではなく、《両親と一緒に買い物に行けること》がだ。両親は一緒に出掛けて買うのではなく、仕事帰りに買ってきてくれるのだ。お菓子も玩具も、ワガママで言ってみた洋服も買ってきてもらえる。ただ両親と一緒に買い物に行きたかっただけだが、今はまだ叶いそうにない。
愛美はショッピングモールでの出来事の感想を述べ終えるとココロに視線を向けた。
「今日はてんこうせいのココロちゃんにも会えて、とってもハッピーです。これからなかよくしていきたいと思います。おわりです」
スピーチが終わって席に戻る愛美。
周りが拍手する中、ココロは愛美に会釈する。なかよくしたいと思ってくれているなら万々歳である。
しかし愛美は何故か機嫌が悪そうな険しい表情で睨んでくる。
わたし……なんかしちゃったのかな……?
心当たりが思い当たらず首をかしげることしか出来ない。
「はーい、愛美ちゃんありがとうございます。では皆さん、気をつけて帰りましょうね」
「きりつ、れい」
「「さようなら」」
百合子の号令で一斉に挨拶をしてホームルームは終わり、ランドセルを背負った生徒たちがぞろぞろと帰っていく。
ランドセルに教科書や筆箱を入れて、かぶせを錠前に合わせてカチリと押し込むと自動でロックされる。ランドセルを背負って教室を出ようとした時。
「ココロちゃん」
愛美が話しかけてきた。さっきの不機嫌そうな顔が嘘のようにニッコリと笑っている。
「いっしょに帰ろ!」
「えっ……う、うん、いいよ」
愛美の今までの言動が気になるものの、考えすぎかと言い聞かせて歯切れ悪く承諾した。
「ココロちゃんはどこにすんでるの?」
「【東町】だよ」
「ふーん。あたしは【北常磐】の、こうきゅうじゅうたくがいにすんでるの」
「そうなんだ」
「シャンプーは何つかってる?」
「うーん……【メゾット】だったかなあ?」
「メゾットなんだ。つかったことないけど、やすくていっぱいつかえていいね」
「うん……そうだね」
「あたしのはとっってもたかい、シャンプーなんだよ。【ルベント】の【スパークリングオイルクレンジング&シャンプー】っていうの」
「名前長いね、きいたことないや」
質問攻めされることはおおよそ予想していたことなので覚悟はしていた。
愛美の場合は質問の後に自慢をしてくる。金持ちだと豪語するほどアピールしたいのだろうか。
なんやかんやと校門まで来ると、ぴたりと愛美が歩みを止める。
「……いかないの?」
「ココロちゃんはピヨかってる?」
「うん、いるよ。クックさんっていうの」
「あたしもかってるんだ。しんかはしてる?」
「ううん、まだしてない」
「そっか。こんどあたしのピヨ見せてあげる。ココロちゃん家のピヨがしんかしたら見せ合いっこしよ」
「うん、いいよ」
頷いてそう言うと、愛美は満足げに笑った。幼いながらに整った顔が笑うことで可愛さが強調される。
「おむかえ来てるからここまでね! バイバイ」
「あ……バイバイ」
校門から数十メートル離れたところに車が停まっていた。愛美はその車に向かっていく。
運転席からは三十代くらいの男性が出てきて愛美を車に迎え入れた。
パパが迎えに来てくれるなんていいな……
自慢話をされることは別にどうだってよかったが、親が迎えにきてくれることには率直に羨ましいと感じていた。
「それでは、今日のスピーチは愛美ちゃんの番です。よろしくお願いします」
「はーい」
帰りのホームルームでは決まってスピーチがあるらしい。
教卓の前に出てきた愛美は堂々として微笑みを湛えている。
「あたしはきのうのお休みの日に、ママとパパといっしょにショッピングにいきました。ほしかったぬいぐるみを買ってもらえたのでとてもうれしかったです」
正直羨ましい。ぬいぐるみを買ってもらえることではなく、《両親と一緒に買い物に行けること》がだ。両親は一緒に出掛けて買うのではなく、仕事帰りに買ってきてくれるのだ。お菓子も玩具も、ワガママで言ってみた洋服も買ってきてもらえる。ただ両親と一緒に買い物に行きたかっただけだが、今はまだ叶いそうにない。
愛美はショッピングモールでの出来事の感想を述べ終えるとココロに視線を向けた。
「今日はてんこうせいのココロちゃんにも会えて、とってもハッピーです。これからなかよくしていきたいと思います。おわりです」
スピーチが終わって席に戻る愛美。
周りが拍手する中、ココロは愛美に会釈する。なかよくしたいと思ってくれているなら万々歳である。
しかし愛美は何故か機嫌が悪そうな険しい表情で睨んでくる。
わたし……なんかしちゃったのかな……?
心当たりが思い当たらず首をかしげることしか出来ない。
「はーい、愛美ちゃんありがとうございます。では皆さん、気をつけて帰りましょうね」
「きりつ、れい」
「「さようなら」」
百合子の号令で一斉に挨拶をしてホームルームは終わり、ランドセルを背負った生徒たちがぞろぞろと帰っていく。
ランドセルに教科書や筆箱を入れて、かぶせを錠前に合わせてカチリと押し込むと自動でロックされる。ランドセルを背負って教室を出ようとした時。
「ココロちゃん」
愛美が話しかけてきた。さっきの不機嫌そうな顔が嘘のようにニッコリと笑っている。
「いっしょに帰ろ!」
「えっ……う、うん、いいよ」
愛美の今までの言動が気になるものの、考えすぎかと言い聞かせて歯切れ悪く承諾した。
「ココロちゃんはどこにすんでるの?」
「【東町】だよ」
「ふーん。あたしは【北常磐】の、こうきゅうじゅうたくがいにすんでるの」
「そうなんだ」
「シャンプーは何つかってる?」
「うーん……【メゾット】だったかなあ?」
「メゾットなんだ。つかったことないけど、やすくていっぱいつかえていいね」
「うん……そうだね」
「あたしのはとっってもたかい、シャンプーなんだよ。【ルベント】の【スパークリングオイルクレンジング&シャンプー】っていうの」
「名前長いね、きいたことないや」
質問攻めされることはおおよそ予想していたことなので覚悟はしていた。
愛美の場合は質問の後に自慢をしてくる。金持ちだと豪語するほどアピールしたいのだろうか。
なんやかんやと校門まで来ると、ぴたりと愛美が歩みを止める。
「……いかないの?」
「ココロちゃんはピヨかってる?」
「うん、いるよ。クックさんっていうの」
「あたしもかってるんだ。しんかはしてる?」
「ううん、まだしてない」
「そっか。こんどあたしのピヨ見せてあげる。ココロちゃん家のピヨがしんかしたら見せ合いっこしよ」
「うん、いいよ」
頷いてそう言うと、愛美は満足げに笑った。幼いながらに整った顔が笑うことで可愛さが強調される。
「おむかえ来てるからここまでね! バイバイ」
「あ……バイバイ」
校門から数十メートル離れたところに車が停まっていた。愛美はその車に向かっていく。
運転席からは三十代くらいの男性が出てきて愛美を車に迎え入れた。
パパが迎えに来てくれるなんていいな……
自慢話をされることは別にどうだってよかったが、親が迎えにきてくれることには率直に羨ましいと感じていた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる