上 下
20 / 85
四話 成長の第一歩

しおりを挟む
「亜希子さん」

 和室から祖父の声が聞こえる。和室の扉を開くと、祖父が苦痛で顔を歪めつつもゆっくりと起き上がろうとしていた。

「お義父さん、もう起きて大丈夫ですか?」
「痛ったたた……ああ……まだ痛みはあるが、少しずつ動かしていかないとな。それよりココロをあまり責めないでやってくれ。何かに入れて連れて行きなさいと言ったのは私だから。ハンドバッグでもいいと答えたし、ちゃんと確認しなかった私が悪い」
「おじいちゃん……」
「はあ、そうですか。じゃあこれから気を付けるのね」

 祖父からココロに視線を向くと幾らか表情は落ち着いている。苛立ってはいるが冷静さを取り戻しているようだ。

「はいはい、じゃあ病院行く準備しよう! っとその前に朝飯にしようぜ~。俺お腹すいた」

 そうだった。起きたばかりでまだ何も食べていない。気づいたらグゥーと腹の虫が鳴き出した。

「朝飯なーに?」
「ベーコンエッグ食べたいって言ってたのあなたでしょ」
「あっそうだったねーテヘペロッ」

 朝から陽気な伯父にその場の空気が幾らか和む。
 テーブルには人数分のベーコンエッグの他にトースト、スープが置かれていた。

「ほら、ぼさっとしてないで顔を洗ってきなさい。朝食済ませたら病院にいくんだからその準備もするのよ」
「あ……うん」

 伯母の手のひらにいるクックを見つめ悪い気になっていて呆然と立っていたが、言われてリビングを出ていき洗面台ヘ向かって顔を洗う。そしてリビングに戻り自分の指定席に座った。先に食べている伯父や伯母に続き、スプーンを持ってスープをすくう。

「ちょっと待って。いただきますは?」

 スープを飲もうとした一歩手前で動きを止めた。

「……いただきます」
「食事のマナーを全て覚えなさいとは言わないけど、せめて《いただきます》と《ごちそうさま》くらいは言いなさい」
「……うん」

 学校の給食ではちゃんと言っているのに、家で言うことが少なかったことや、緊張や焦りでつい頭から抜け落ちていた。

「いただきます」

 もう一度食事の挨拶をしてから改めてスープをすくって口内に運ぶ。いい塩加減で美味しい。潤ったところでトースト、ベーコンエッグを食べて、渇いた喉にまたスープを流し込む。食べる動作が止まらず完食した。最後にコップ一杯の牛乳を飲んで満足する。

 おいしい……ほかほかしたあさごはん。おなかがぽかぽかしてくる。みんなと食べてるからなのかな? きゅうしょくもみんなでいっしょに食べてるからおいしいのかな?

「ごちそうさまー!」
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」

 伯父も祖父も伯母も食べ終わって両手を合わせて『ごちそうさま』と言っていた。
 ココロも真似するように両手を合わせて「ごちそうさま」と言って、空になった食器を流し台へ持っていく。
 朝食の後は言われた通り準備をしようとするが、何を準備すればいいのかわからない。
 
 おせわファイルには大人にきいてみるってかいてあったし、きいてみようかな

「なにじゅんびすればいい?」

 着替えている伯父に話を振ってみた。

「うーんええと……クックさん、だっけ? 様子見てればいいんじゃない」
「それだけでいいの?」
「それくらいだよ。あっ、そうそう、朝飯の前だけど、亜希子ちゃん……伯母さんはピヨが大好きだから怒ったんだよ。怖かっただろ~」
「こわかったけど、ピヨさんがだいすきなんだね」
「そっ。だからあんまり怖がらないでやってよ」
「わかった」
「よしよし」

 笑いながらぽんぽんとココロの頭を撫で、それから自分の髪を整え始めた。
 邪魔になるだろうと考えて、クックの様子を見る為に捜すことにする。

 伯母さんがつれていってどこに行ったんだろう?

「ピィーピィー」
「あっ。クックさんの鳴き声」

 玄関に行くとフタ付きのカゴが置いてあり、フタを開くとクックが入っていた。カゴの中はケージ内のように新聞紙や床材が敷かれている。

「ピヨを連れて歩くならそれくらい丈夫なカゴにしなさい」

 後ろから化粧を済ませた伯母が現れた。

「そのカゴあげるから、今度からは気を付けなさいね。あなたのパパやママから聞いたけど、あなたが主なんでしょう? だったらもっと大切に面倒見てあげなさい」
「うん」
「あと、返事はうんじゃなくて、はいって言った方が利口ね。ずっとそうやって頷いているだけならいつか笑われるわよ」
「うん……あっ、はい」
「そう。わからないことはすぐに聞いてちょうだい。間違ってからじゃ遅いんだから」
「わかった」

 雰囲気や語調が強くて怖い。けれどピヨが大好きだからあんなに怒ったのだと伯父から教えてもらったら不思議と少しだけ怖さが軽減する。今もピヨのこととは関係ないが、怒鳴らずちゃんと教えてくれる大人の一人なのだと、信用出来る人なのだと感じていた。

「準備完了~」

 準備が整った伯父がやってくる。
 伯母が靴を履いて先に扉を開けてくれた。

「ココロちゃん、カゴ持って。揺らさないようにそっと」
「こう?」

 持ち手を両手で垂直に持ち上げる。揺らさないように慎重に玄関を出ていく。

「親父ー太郎丸ー、留守番頼んだー」
「おおー」

 祖父の返事を聞いてから車に乗り込む。後部座席に座り、膝にカゴを乗せてしっかりカゴごとシートベルトで固定した。
 
「よーし、そんじゃあ行くとしますか」

 慣れた手つきでギアを操作し発進する。
 車体が揺れるとカゴの中でクックがひっきりなしに鳴いている。

「だいじょうぶだよ、ちょっとゆれるかもしれないけど、ちゃんとささえてるからね」

 カゴを覗き、安心させる為に病院に着くまで鳴いているクックの額や顔周りを撫で続けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...