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四話 成長の第一歩

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「伯父さん! 伯母さん! たいへん!」

 リビングに駆け込むと、テーブル席で座っている伯父と朝食を作る伯母の視線が一斉にココロへ向いた。

「朝から慌ただしいわね」
「なに、なんかあったの?」
「クックさんが!」
「あー、懐かしい小雛だ」

 クックの姿を見た途端に伯父は笑って近づいてきた。
 ココロはびくつきながらも手を前に出してクックを見せる。

「成長したねー。進化までもうちょっとだ」
「えっ? まだしんかしてないの?」
「うん。これは進化の前の段階。まああれだよ、ニワトリと一緒。ニワトリになる前もこんな感じだから」
「ニワトリは雛、小雛、次に中雛、大雛、そして成鶏になるのよ」
「ええ? ヒナがいっぱい……」
「ヒヨコから成長していって呼び名が変わるのよ」
「ピヨの場合は小雛からぶっ飛んで成長して成鳥になるんだ。ははっ、せいちょうしてせいちょうだって、ウケる。あ、だから進化って言うんだっけ? 太郎丸もあの姿の前は小雛だったんだよ」
「そ、そうなんだ……」

 自分で言ったことに一人で笑いながら、庭で日向ぼっこをしている太郎丸を指差して説明する伯父。
 ニワトリの成長はヒヨコから徐々に身体が大人に近づいていき、生まれてから成育日数で呼び名が変わる。
 しかしピヨの場合は卵から孵化して雛となり、小雛に成長して、次に成鳥となる。ニワトリのような段階は無い。
 又、他の動物のように日ごとに体つきが変化するわけではない。一定の成育日数が経過すると短時間で急速に成長し、体に変化が起こる。ここが【進化】と言われる所以である。成鳥の他に、姿形の種類分岐があることから【進化形態】と呼ぶ人もいる。
 飼い主でも成長や進化する瞬間を見逃すことはざらにあり、その瞬間を見逃すまいとあらかじめ撮影しておく飼い主もいるくらいだ。

「小雛になったことが大変ってこと? それなら別に大変なことじゃないわ。寧ろ喜ばしいことよ」

 伯母はキッチンからベーコンエッグの乗った皿を持ってテーブルに並べる。それからエプロンを脱いでキッチンに常備してあるハンガーに掛けている。

「でも亜希子ちゃん、さっきから全然動かないんだけど。静かだし」

 手のひらの上にいるクックは鳴いてはいるが覇気が無く動こうとしない。

「クックさんあしケガしてるの」
「え!?」

 ココロの言葉を聞いて驚声を上げたのは伯母だった。血相を変えてココロからクックを奪うように受け取り脚を確認する。

「ピ……」

 左脚は震え目を閉じて耐えているようだ。
 顔を上げた伯母は、普段の冷静さとは違い明らかな怒りが見てとれて緊張が走る。
 そんな伯母の視線に恐怖し、肩を跳ねらせうるさい心臓の音が鳴り止まない。

「……いつから?」
「い……、いつからかは……わかんない……あさ、おきたら気づいて……。きのう、太郎丸さんとおさんぽいくのにハンドバッグに入れてたら太郎丸さんにもってかれちゃって、その時に中でゴロゴロしちゃってーー」
「ハンドバッグに入れて散歩に連れて行ったの?」
「……うん」

 更に表情が険しくなる伯母にさすがの伯父も気まずそうな顔をしてココロと伯母を交互に見ている。何か言いたそうにしているが言葉が出てこないのか黙っていた。

「どれくらいの大きさ?」
「これくらい」

 ジェスチャーで大きさを表してみる。
 すると伯母は大きな溜め息をついた。

「まったくなんてこと。そんな小さなハンドバッグでよく連れていこうと考えたわね。それに太郎丸に持ってかれたのはあなたの不注意じゃない」
「う……うん」
「可哀想に……すぐ病院に連れて行かないと」
「あ、の…………ごめん、なさい」

 怒られた経験がほとんど無いココロだが、自分が悪かったと自覚し俯いてか細い声で謝る。クックのサイズには丁度良いと思って選んだ小さめのハンドバッグ。こんなことになってしまうとは思ってもみなかった。

「ピヨは小雛の時期がとても大事なのよ。これで進化にどんな影響が出るかわからないし、もっと敬って大切に育てなさい。そうじゃないとまたケガさせるわよ」
「ま、まあまあ亜希子ちゃん」

 苦笑いする伯父が間に割って入り伯母を制してくれる。

「初めての散歩だしさ、ほら、次から気をつければいい話じゃん? ねっ、ココロちゃんも気を付けようねー」
「うん……」

 びくつきながらもぎこちなく返事をして頷いた。
 伯母は気が済まないようで細い眉を跳ね上げさせたままの表情は変わらず溜め息を吐いている。
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