14 / 85
三話 出逢い回想
五
しおりを挟む
ーー数日後のこと。
朝起きると、保温器の中の卵の殻が所々ひび割れているのを確認する。
『われてる! もうすぐ生まれるんだ』
数分間置きに殻は少しずつ保温器の底にボロボロと落ちていく。ひび割れの隙間からはうっすらと黄色い羽が見えている。段々と卵の揺れが大きくなり、中から『ピーピー』と小さくか細い鳴き声が聞こえてきている。
『……がんばれ、……がんばれ……!』
自ら殻を破り必死に生まれようとしている。
ココロは心の底から温かい気持ちが溢れてきて、それが声となり発せられた。
ピキッ……ピキピキピキッ……バリバリッ
『ーーピ、ピィ、ピィー』
『生まれた! ピヨさん生まれた!』
卵からごろりと身体をくねらせて出てきたのはしっとりと濡れた生まれたてのピヨだ。ココロの顔を見て一生懸命鳴いている。
『……とってもキレイな目』
通常のピヨの目は黒っぽい茶なのだが、このピヨは青い目をしていた。
生まれたてのピヨの誕生に立ち会い、ココロの胸には嬉しさが込み上げる。
ともだちがほしいなんて思ってなかったのに、ピヨさんが生まれてくれて本当によかったって……うれしいってきもちでいっぱいになってる……!
『そうだ、ママ! パパ!』
思い出したように部屋を飛び出し両親を呼んでピヨが生まれたことを報告する。両親も一緒に喜びココロの頭を撫でてやった。
『これでココロは【主】だな』
『あるじ?』
『そう。主でもあり、親でもあり、ココロは七歳でビッグ成長を遂げたわね』
『これからココロがこの子のお世話をするんだ』
『おせわをする人が……あるじ? おや……パパとママもあるじ?』
『いいや、主はピヨにとっては一人だけだ。ピヨにとっての特別な存在だな』
『ココロにとっては特別なお友達。絶対無二の存在。それが主よ』
『?』
難しい内容だ。主で親で特別な友達。結局どれが本当なのかはわからない。ただ父親は言っていた。《好きだと思ってくれる友達が生まれてくる》と。それは絶対性のある関係を築くということ。
『ココロ。コレを』
母親からはA4サイズのファイルと日記を渡される。ファイルにはしおりがいくつも挟まっており、開くとルーズリーフが何枚も綴じられていた。ココロにも読めるように平仮名が多く、漢字にはふりがなが振ってある。
『コレはピヨのお世話ファイル。お世話の仕方が書いてあるわ。生まれたばかりのピヨにはまだ触れてはダメよ?』
ファイルの中をめくるとピヨの世話の手順がわかりやすく書かれている。母親が指で文字を辿った箇所には注意点として《触らない! 生まれたばかりのピヨにバイ菌が入るから絶対ダメ!》と書かれている。
『このファイルをしっかり読んでお世話してね。成長日記も忘れずに。そうすればあなたはピヨマスターよ』
『それは言い過ぎだな』
夫婦は仲睦まじく笑い合った。娘の頭をもう一度撫でてやりながら父親はこう言った。
『お世話、頼んだぞ』
『……うん!』
親から頼まれ事をされることで自信がむくむくと湧いてくる感覚が確かにある。改めてピヨに向くと、また違うものが湧いてくる。温かなもの、それは家族が与えるであろう無償の愛なのかもしれない。
『よろしくね。……クックさん』
『クック? それが名前?』
『早いな、もう名付けたのか』
『うん』
『どうしてクック? まるでニワトリみたいだわ』
ココロは生まれたばかりのピヨを見て強く思い、強く、願ったのだ。
『ヒヨコさんがニワトリさんにせいちょうするみたいに、りっぱで力づよくて、ちゃんと大人にせいちょうしてほしいから。クックッて鳴いてくれるようになるまで、わたしががんばってそだてたいの。それに……たまごから出てくるまえにね、クックって言ってた気がしたから』
『……ココロがそう言うなら、そうなんだろうな』
『ええ、そうなのね。あなたはクックと言うのね』
家族が見守る中、クックと命名された雛は元気よく鳴き声を上げている。
朝起きると、保温器の中の卵の殻が所々ひび割れているのを確認する。
『われてる! もうすぐ生まれるんだ』
数分間置きに殻は少しずつ保温器の底にボロボロと落ちていく。ひび割れの隙間からはうっすらと黄色い羽が見えている。段々と卵の揺れが大きくなり、中から『ピーピー』と小さくか細い鳴き声が聞こえてきている。
『……がんばれ、……がんばれ……!』
自ら殻を破り必死に生まれようとしている。
ココロは心の底から温かい気持ちが溢れてきて、それが声となり発せられた。
ピキッ……ピキピキピキッ……バリバリッ
『ーーピ、ピィ、ピィー』
『生まれた! ピヨさん生まれた!』
卵からごろりと身体をくねらせて出てきたのはしっとりと濡れた生まれたてのピヨだ。ココロの顔を見て一生懸命鳴いている。
『……とってもキレイな目』
通常のピヨの目は黒っぽい茶なのだが、このピヨは青い目をしていた。
生まれたてのピヨの誕生に立ち会い、ココロの胸には嬉しさが込み上げる。
ともだちがほしいなんて思ってなかったのに、ピヨさんが生まれてくれて本当によかったって……うれしいってきもちでいっぱいになってる……!
『そうだ、ママ! パパ!』
思い出したように部屋を飛び出し両親を呼んでピヨが生まれたことを報告する。両親も一緒に喜びココロの頭を撫でてやった。
『これでココロは【主】だな』
『あるじ?』
『そう。主でもあり、親でもあり、ココロは七歳でビッグ成長を遂げたわね』
『これからココロがこの子のお世話をするんだ』
『おせわをする人が……あるじ? おや……パパとママもあるじ?』
『いいや、主はピヨにとっては一人だけだ。ピヨにとっての特別な存在だな』
『ココロにとっては特別なお友達。絶対無二の存在。それが主よ』
『?』
難しい内容だ。主で親で特別な友達。結局どれが本当なのかはわからない。ただ父親は言っていた。《好きだと思ってくれる友達が生まれてくる》と。それは絶対性のある関係を築くということ。
『ココロ。コレを』
母親からはA4サイズのファイルと日記を渡される。ファイルにはしおりがいくつも挟まっており、開くとルーズリーフが何枚も綴じられていた。ココロにも読めるように平仮名が多く、漢字にはふりがなが振ってある。
『コレはピヨのお世話ファイル。お世話の仕方が書いてあるわ。生まれたばかりのピヨにはまだ触れてはダメよ?』
ファイルの中をめくるとピヨの世話の手順がわかりやすく書かれている。母親が指で文字を辿った箇所には注意点として《触らない! 生まれたばかりのピヨにバイ菌が入るから絶対ダメ!》と書かれている。
『このファイルをしっかり読んでお世話してね。成長日記も忘れずに。そうすればあなたはピヨマスターよ』
『それは言い過ぎだな』
夫婦は仲睦まじく笑い合った。娘の頭をもう一度撫でてやりながら父親はこう言った。
『お世話、頼んだぞ』
『……うん!』
親から頼まれ事をされることで自信がむくむくと湧いてくる感覚が確かにある。改めてピヨに向くと、また違うものが湧いてくる。温かなもの、それは家族が与えるであろう無償の愛なのかもしれない。
『よろしくね。……クックさん』
『クック? それが名前?』
『早いな、もう名付けたのか』
『うん』
『どうしてクック? まるでニワトリみたいだわ』
ココロは生まれたばかりのピヨを見て強く思い、強く、願ったのだ。
『ヒヨコさんがニワトリさんにせいちょうするみたいに、りっぱで力づよくて、ちゃんと大人にせいちょうしてほしいから。クックッて鳴いてくれるようになるまで、わたしががんばってそだてたいの。それに……たまごから出てくるまえにね、クックって言ってた気がしたから』
『……ココロがそう言うなら、そうなんだろうな』
『ええ、そうなのね。あなたはクックと言うのね』
家族が見守る中、クックと命名された雛は元気よく鳴き声を上げている。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
私って何者なの
根鳥 泰造
ファンタジー
記憶を無くし、魔物の森で倒れていたミラ。テレパシーで支援するセージと共に、冒険者となり、仲間を増やし、剣や魔法の修行をして、最強チームを作り上げる。
そして、国王に気に入られ、魔王討伐の任を受けるのだが、記憶が蘇って……。
とある異世界で語り継がれる美少女勇者ミラの物語。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる