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三話 出逢い回想

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『げんきにせいちょうしてくれるように、わたしもいっしょにがんばるよ』
 
 以前に似たようなことを話してくれたのを思い出す。
 ココロとクックの出逢いは約一週間前のことである。ココロの両親が海外へ行くことが決まってから数日後のこと。父親がピヨの卵をココロへ渡した。

『これはパパとママからのプレゼントだ。大事に温めるんだぞ。そうすればココロのことを好きだと思ってくれる友達が生まれてくる』
『ともだちが……生まれる?』
『ああ、そうだ。ココロが育てるんだ』
『わたしがそだてる……ともだちを?』
『ココロが寂しくならないようにな』

 両親が海外へ行けばココロは伯父夫婦に預けられる。ほとんど知らない人しかいない場所へ。そこで両親は不安を和らげる為にピヨの卵をプレゼントしたのだ。

『困ったら伯父さんたちに聞いてみるといい。伯父さん家でもピヨを飼っているから育て方を知っている。わからないことはすぐに聞くこと、人を頼ること。わかったな?』
『うん、わかった』
『もしも周りに知っている人がいなくてどうしても困ってしまったらーー』
『……こまってしまったら?』

 父親は手を組み合わせて目を瞑った。顎を引き俯く。そして組み合わせた手を額に当てて。

『カミサマにお祈りするんだ』
『おいのり……』
『そうだ。カミサマを信じるんだ』
『それでもダメなら?』
『一生懸命捜すんだ。分かる人を。大人を捜して頼って、カミサマにお祈りして、それでもダメなら自分で何とかしないといけないな』

 父親も母親も別の日に同じことを言っていた。大人に頼ること。カミサマにお祈りすること。それでもダメなら自分で何とかすること。

『うん、やってみる』

 頷き、卵の入った保温器を嬉々として受け取ったが、ココロは嘘を吐いていた。

 ともだちがほしいんじゃないのに……わたしはパパとママといっしょにいられたらいいのに……

 その願いは叶わないのだが、ココロは一生懸命卵を見守った。親鳥であれば抱卵して温めるのだが、保温器に入れていれば自然と孵化する。

『どんな子が生まれてくるのかな? わたしに……そだてられるのかな……』

 育てるということは命を預かることだ。小学二年生の子供に育成全てを任せるというのは酷だろう。もちろん両親も伯父たちも介入していく。主に世話をするのがココロである。
 ココロは何もかも不安だった。これから先、両親と離れて暮らすこと、伯父夫婦たちと暮らすこと、ピヨを育てること。沢山の不安がココロにのしかかる。

『……がんばる……がんばる……がんばるしかないの……』

 暗い顔をしていても仕方がない。自分に何度もそう言い聞かせながら保温器を開けて卵を取り出す。両手でそっと包みこみ胸に押し当てた。

『だいじにするよ。わたしが、ちゃんとそだてるよ。ひとりに……しないからね』

 揺れる視界で見下ろし、しわくちゃな笑みを向けた。その時に一雫だけ卵に降り注いだ。生命の宿る温かい卵を撫で、それから保温器に戻して再び見守ることにした。
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