上 下
12 / 85
三話 出逢い回想

三 挿し絵あり

しおりを挟む
 住宅街である為、周囲は家ばかりでこれといった目印がない。強いて挙げるなら町内会の掲示板だろうか。

「ピヨッ」

 ハンドバッグから顔を覗かせるクック。高さがあり目が出るくらいではあるが。

「クックさん。ちょっと元気になったのかな」
「ピィッ」
「よかった」
「コケーッコッ!」
「うわっ?」

 突然太郎丸が立ち止まりバサバサと翼を羽ばたかせる。
 進路の先には進化済みのピヨがいた。太郎丸とは違う進化を遂げている。身体は通常型よりも二回りは大きく目付きは鋭い。とさかが靡くくらいに長く、抹茶ミルクのような薄い緑と茶色が混ざった毛並みだ。


「ピィッ! ピィッピヨヨヨヨッ!」

 太郎丸と一緒にクックも鳴く。威嚇のつもりなのだがハンドバッグの中で声がこもって響かない。野良ピヨの視界にも入っていないだろう。
 野良ピヨは太郎丸の威嚇に動じず、じっと太郎丸を睨み付けている。数秒睨んでいたが、先に野良ピヨが視線を逸らし、翼を広げて飛び去っていった。

「はあ……びっくりした」

 野良ピヨに会うのは初めてではない。しかし今回出会った野良ピヨは、記憶しているよりも大きく異様な迫力があった。

「だいじょうだよ」
「ピィ」

 興奮しているクックを落ち着かせようと頭を撫でてやる。すると気持ち良さそうにクックは瞼を閉じて、手にすり寄ってきた。そのしぐさがとても可愛らしい。

「ココッ」
「えっ?」

 太郎丸が見つめてくる。さっきまでのさっさと歩いていってしまっていた勢いはどこへいったのか。

 ーーもしかして太郎丸さんもなでてほしいのかな?

 自分が野良ピヨを追い払ったのだと自慢しているかのようだ。胸を張らせてふんぞり返っている。

「じゃあ……」

 太郎丸の頭に手を伸ばした。
 だが太郎丸は手をかわして踵を返し、再び歩き出す。
 避けられた手をどうしたらいいか戸惑いつつも、また太郎丸のリードに引っ張られるままココロも歩き出した。

「……ちがったのかな」

 男心や女心は難しいが、鳥心も難しい。
 塀の上にはネコが丸くなって寝ている。他所の敷地にはイヌが番をしている。電線にはスズメが何羽も並んで留まっている。
 世の中にはピヨ以外にも動物が何千と種類がいて、人間に飼われているものもいれば野生で棲んでいるものもいる。ピヨも同じように飼われているものが多いが、野生で生きているものもいる。
 ココロは先程の野良ピヨのことを考えていた。

「さっきのピヨさん……ドロだらけだった。かわいそう」
「ピヨヨヨ」
「クックさんのことじゃないよ。さっきのピヨさんのことだよ」
「ピィ」
「のらピヨさんはああいうのが当たりまえなのかな」

 敵から身を守る為に臭いを消したり、カモフラージュの為に自ら身体に土や泥を被る習性を持つ動物がいる。ピヨにもそういった習性があるのか、土の臭いを好んで被る個体の性格の違いなのか、未知の部分がまだまだ多い。

「クックさんはあなほりスキだよね」

 よくケージの中で床材を蹴ったりつついたりしている。出来た空間に入り丁度すっぽり身体が収まるのだ。それが落ち着くのか、暫く動かず寝てしまうこともある。
 それを思い出すとくすっと笑ってしまう。

「クックさんも土あそびするのかな? きっと元気ってことだよね。クックさんはしんかしたら、どんな子になるんだろう?」
「ピィ?」
「太郎丸さんみたくなるのかな? さっきのおばさんのピヨさんみたいにほそくなったり、のらピヨさんみたいに大きくなるのかな?」

 ピヨを飼う楽しみのひとつは、ピヨの成長と進化を見届けること。環境に応じて姿が変化するが、その成長は他のペットよりも比較的早い。
 いつかは必ず進化する。まだ見ぬクックの進化した姿に想像を膨らませている。

「どんなすがたになっても、クックさんはクックさんだよ。元気にせいちょうしてくれるように、わたしもいっしょにがんばるね」
「ピッ!」

 ココロの言葉に呼応して鳴くクックは微かに笑っているように見えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...