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三話 出逢い回想
三 挿し絵あり
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住宅街である為、周囲は家ばかりでこれといった目印がない。強いて挙げるなら町内会の掲示板だろうか。
「ピヨッ」
ハンドバッグから顔を覗かせるクック。高さがあり目が出るくらいではあるが。
「クックさん。ちょっと元気になったのかな」
「ピィッ」
「よかった」
「コケーッコッ!」
「うわっ?」
突然太郎丸が立ち止まりバサバサと翼を羽ばたかせる。
進路の先には進化済みのピヨがいた。太郎丸とは違う進化を遂げている。身体は通常型よりも二回りは大きく目付きは鋭い。とさかが靡くくらいに長く、抹茶ミルクのような薄い緑と茶色が混ざった毛並みだ。
「ピィッ! ピィッピヨヨヨヨッ!」
太郎丸と一緒にクックも鳴く。威嚇のつもりなのだがハンドバッグの中で声がこもって響かない。野良ピヨの視界にも入っていないだろう。
野良ピヨは太郎丸の威嚇に動じず、じっと太郎丸を睨み付けている。数秒睨んでいたが、先に野良ピヨが視線を逸らし、翼を広げて飛び去っていった。
「はあ……びっくりした」
野良ピヨに会うのは初めてではない。しかし今回出会った野良ピヨは、記憶しているよりも大きく異様な迫力があった。
「だいじょうだよ」
「ピィ」
興奮しているクックを落ち着かせようと頭を撫でてやる。すると気持ち良さそうにクックは瞼を閉じて、手にすり寄ってきた。そのしぐさがとても可愛らしい。
「ココッ」
「えっ?」
太郎丸が見つめてくる。さっきまでのさっさと歩いていってしまっていた勢いはどこへいったのか。
ーーもしかして太郎丸さんもなでてほしいのかな?
自分が野良ピヨを追い払ったのだと自慢しているかのようだ。胸を張らせてふんぞり返っている。
「じゃあ……」
太郎丸の頭に手を伸ばした。
だが太郎丸は手をかわして踵を返し、再び歩き出す。
避けられた手をどうしたらいいか戸惑いつつも、また太郎丸のリードに引っ張られるままココロも歩き出した。
「……ちがったのかな」
男心や女心は難しいが、鳥心も難しい。
塀の上にはネコが丸くなって寝ている。他所の敷地にはイヌが番をしている。電線にはスズメが何羽も並んで留まっている。
世の中にはピヨ以外にも動物が何千と種類がいて、人間に飼われているものもいれば野生で棲んでいるものもいる。ピヨも同じように飼われているものが多いが、野生で生きているものもいる。
ココロは先程の野良ピヨのことを考えていた。
「さっきのピヨさん……ドロだらけだった。かわいそう」
「ピヨヨヨ」
「クックさんのことじゃないよ。さっきのピヨさんのことだよ」
「ピィ」
「のらピヨさんはああいうのが当たりまえなのかな」
敵から身を守る為に臭いを消したり、カモフラージュの為に自ら身体に土や泥を被る習性を持つ動物がいる。ピヨにもそういった習性があるのか、土の臭いを好んで被る個体の性格の違いなのか、未知の部分がまだまだ多い。
「クックさんはあなほりスキだよね」
よくケージの中で床材を蹴ったりつついたりしている。出来た空間に入り丁度すっぽり身体が収まるのだ。それが落ち着くのか、暫く動かず寝てしまうこともある。
それを思い出すとくすっと笑ってしまう。
「クックさんも土あそびするのかな? きっと元気ってことだよね。クックさんはしんかしたら、どんな子になるんだろう?」
「ピィ?」
「太郎丸さんみたくなるのかな? さっきのおばさんのピヨさんみたいにほそくなったり、のらピヨさんみたいに大きくなるのかな?」
ピヨを飼う楽しみのひとつは、ピヨの成長と進化を見届けること。環境に応じて姿が変化するが、その成長は他のペットよりも比較的早い。
いつかは必ず進化する。まだ見ぬクックの進化した姿に想像を膨らませている。
「どんなすがたになっても、クックさんはクックさんだよ。元気にせいちょうしてくれるように、わたしもいっしょにがんばるね」
「ピッ!」
ココロの言葉に呼応して鳴くクックは微かに笑っているように見えた。
「ピヨッ」
ハンドバッグから顔を覗かせるクック。高さがあり目が出るくらいではあるが。
「クックさん。ちょっと元気になったのかな」
「ピィッ」
「よかった」
「コケーッコッ!」
「うわっ?」
突然太郎丸が立ち止まりバサバサと翼を羽ばたかせる。
進路の先には進化済みのピヨがいた。太郎丸とは違う進化を遂げている。身体は通常型よりも二回りは大きく目付きは鋭い。とさかが靡くくらいに長く、抹茶ミルクのような薄い緑と茶色が混ざった毛並みだ。
「ピィッ! ピィッピヨヨヨヨッ!」
太郎丸と一緒にクックも鳴く。威嚇のつもりなのだがハンドバッグの中で声がこもって響かない。野良ピヨの視界にも入っていないだろう。
野良ピヨは太郎丸の威嚇に動じず、じっと太郎丸を睨み付けている。数秒睨んでいたが、先に野良ピヨが視線を逸らし、翼を広げて飛び去っていった。
「はあ……びっくりした」
野良ピヨに会うのは初めてではない。しかし今回出会った野良ピヨは、記憶しているよりも大きく異様な迫力があった。
「だいじょうだよ」
「ピィ」
興奮しているクックを落ち着かせようと頭を撫でてやる。すると気持ち良さそうにクックは瞼を閉じて、手にすり寄ってきた。そのしぐさがとても可愛らしい。
「ココッ」
「えっ?」
太郎丸が見つめてくる。さっきまでのさっさと歩いていってしまっていた勢いはどこへいったのか。
ーーもしかして太郎丸さんもなでてほしいのかな?
自分が野良ピヨを追い払ったのだと自慢しているかのようだ。胸を張らせてふんぞり返っている。
「じゃあ……」
太郎丸の頭に手を伸ばした。
だが太郎丸は手をかわして踵を返し、再び歩き出す。
避けられた手をどうしたらいいか戸惑いつつも、また太郎丸のリードに引っ張られるままココロも歩き出した。
「……ちがったのかな」
男心や女心は難しいが、鳥心も難しい。
塀の上にはネコが丸くなって寝ている。他所の敷地にはイヌが番をしている。電線にはスズメが何羽も並んで留まっている。
世の中にはピヨ以外にも動物が何千と種類がいて、人間に飼われているものもいれば野生で棲んでいるものもいる。ピヨも同じように飼われているものが多いが、野生で生きているものもいる。
ココロは先程の野良ピヨのことを考えていた。
「さっきのピヨさん……ドロだらけだった。かわいそう」
「ピヨヨヨ」
「クックさんのことじゃないよ。さっきのピヨさんのことだよ」
「ピィ」
「のらピヨさんはああいうのが当たりまえなのかな」
敵から身を守る為に臭いを消したり、カモフラージュの為に自ら身体に土や泥を被る習性を持つ動物がいる。ピヨにもそういった習性があるのか、土の臭いを好んで被る個体の性格の違いなのか、未知の部分がまだまだ多い。
「クックさんはあなほりスキだよね」
よくケージの中で床材を蹴ったりつついたりしている。出来た空間に入り丁度すっぽり身体が収まるのだ。それが落ち着くのか、暫く動かず寝てしまうこともある。
それを思い出すとくすっと笑ってしまう。
「クックさんも土あそびするのかな? きっと元気ってことだよね。クックさんはしんかしたら、どんな子になるんだろう?」
「ピィ?」
「太郎丸さんみたくなるのかな? さっきのおばさんのピヨさんみたいにほそくなったり、のらピヨさんみたいに大きくなるのかな?」
ピヨを飼う楽しみのひとつは、ピヨの成長と進化を見届けること。環境に応じて姿が変化するが、その成長は他のペットよりも比較的早い。
いつかは必ず進化する。まだ見ぬクックの進化した姿に想像を膨らませている。
「どんなすがたになっても、クックさんはクックさんだよ。元気にせいちょうしてくれるように、わたしもいっしょにがんばるね」
「ピッ!」
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