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ジョアル、シリスに恋人が出来てから

ダブルデート

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 ジョアルの思いつきによりダブルデートが決行されることとなった。ダブルというのは朱廉とシリスを加えてのデートである。せっかく二人が付き合っているし、たまにはこういう刺激も良いだろうという提案。
 シリスは猛反対したが、口論の末、行き先はシリスが決めるということで落ち着いた。
 行き先はラベンダー畑である。 

「わあっ……! キレイです……!」 

 広大なラベンダー畑を見て感嘆する朱廉。避暑と髪を隠す為の帽子と、動きやすいチャイナ服。 

「ええ、とても綺麗です」 

 隣にいるシリスは薄手のジャケットに袖を通しており、ポニーテールが歩く度に揺れる。 

「いい香りだな」 

 理一は普段通りの着流しにカンカン帽を被ってオシャレ度が増している。 

「うん、すごい香りする」 

 ジョアルはというと、白と青の花柄アロハシャツに黒のサングラスだ。高身長なこともあって大分ガラが悪い。 

「もっと近くへ行ってみましょうか」
「はいっ」 

 シリスと朱廉は揃ってラベンダーに近寄っていった。
 普段から無表情で感情が出にくいシリスだが、笑顔な朱廉と並ぶと穏やかな表情を浮かべている。 

 へえ、シリスもあんな顔するんだ…… 

 弟のデート姿を見たい気持ちもあって提案したが、早くも予想以上の収穫である。 

「朱廉も楽しそうで良かった」
「そうだね」 

 ダブルデートをすることになったと朱廉に伝えた時は、年上ばかりで緊張してしまうのではないかと危惧していたが、あんなに楽しそうにしているのだから問題無さそうだと安心するシリス。
 朱廉が楽しそうにしているのは恋人と一緒だからなのだろう。 

「俺たちも楽しまないとね」
「!」 

 トン、と。手の甲を触れ合わせてきたジョアル。
 その意図を察した理一はそっとジョアルの手に自分の手を重ね、指を絡ませ繋いだ。 

「こんな白昼堂々と手を繋いでいいものなのか……」
「みんな花見てるし、今日はデートだから」
「ん……そうだな」 

 照れはするも離したくないので、小さく頷き並んでラベンダー畑の遊歩道を歩いていく。
 後ろから保護者のようについてきた二人を振り返り、手を繋いで歩いている所を見かけたシリスと朱廉はそれぞれ違う反応を見せる。 

「わあっ……お二人仲良しですね」
「そう、ですね」 

 微笑ましく見てるだけで照れてしまい赤くなる朱廉と、驚きとやや羨望の眼差しで見ているシリス。
 本当は自分たちも手を繋いで歩きたい。そういう気持ちが無いわけではない。ただ、まだ堂々と手を繋いで歩く程の余裕がないのだ。 

「先へ進みますか」
「あ、はい」 

 座ってラベンダーを眺めていた為、二人同時に立ち上がる。すると、その拍子に指先が触れる。 

「わっ」
「っ……。す、すみません」
「わ、わたしこそすみませんっ」 

 咄嗟に手を引っ込めた。それだけのことで、ジョアルたちを見ていた時よりも赤面する二人。 

「甘酸っぱいね」
「だな」 

 ジョアルと理一も、初々しい二人を眺めて楽しんでいる。





 四人は喫茶店へ入ることにする。外に置かれている看板のメニューで気になるものを見たからだ。 

「ラベンダー饅頭だって。理一食べる?」
「ラベンダーの饅頭? 少し気になるな」
「ラベンダーソフトクリーム……」
「朱廉くんはそれにしますか?」
「あっ、はい!」
「では買ってきます。座る場所の確保をお願い出来ますか」
「はい。よろしくお願いします」 

 兄弟二人で買いに向かった為、理一と朱廉は四人座れそうなテーブル席を探して確保する。
 腰を下ろした理一は、影になっている席だからと慣れない帽子を脱いで熱を逃がすことにした。
 朱廉は周りの目を気にして帽子は脱がずにいる。 

「疲れてないか?」
「大丈夫です。子供みたいにはしゃいでしまって少し恥ずかしいですけど」
「いいんじゃないか? あんなに沢山のラベンダーを一度に見られるなんて滅多に無いだろうからな」
「そうなんですよね。一つひとつの花も綺麗なのに、集まるともっと綺麗で――」 

 花の話になるといくらか多弁で嬉しそうに話す。それに加えて。 

「――この前シリスさんと話していたんです。初夏なのでラベンダーが咲き頃で見たいなって。それで今日、こうやって連れてきてもらえて本当に嬉しいです」 

 花とシリスの話をする時の朱廉は本当に幸せそうだ。よく笑うようになった。ぎこちないでもなく、自然と笑えているように思う。 

「花がキャッキャと楽しそうに話してるのって目の保養だよね」
「わっ、ジョアル!?」 

 ぬっと顔の真横からジョアルの声が聞こえてきて、ビクっと身体を跳ねらせ驚く理一。
 後ろで呆れた溜め息を吐いているシリスはサッサと朱廉の隣に座る。 

「どうぞ」
「ありがとうございます」 

 ソフトクリームを渡し、シリスはウーロン茶を飲んでいる。
 ジョアルも着席して、買ってきた饅頭を理一に渡し、自分用のソフトクリームに頭からかぶりつく。 

「うん、ミルク。でも後でラベンダーが香ってくるかな」
「饅頭も皮にラベンダーが練り込んであるのか、ほのかに香るな」
「へえ。ちょっとちょうだい」
「ああ」 

 1/4の大きさに饅頭を割り渡そうとする。が、饅頭を摘まんだ指から直接ジョアルが食べる。
 ポカンと惚けてしまう理一だが、更にジョアルがスプーンでソフトクリームをひとすくいして向けてくると目を瞬かせてしまう。 

「お礼にあげる。あーん」
「…………ん」 

 ジョアルが引きそうも無いので、目の前に出されたソフトクリームを口に含んだ。シチュエーションもあってとびきり甘い。
 二人の世界に入りつつあるジョアルと理一を傍目で見ながら、無言でウーロン茶を啜っているシリス。
 朱廉はソフトクリームに夢中である。それでもチラリとシリスを見上げると、ちょうどいいタイミングでシリスと目があった。 

「……美味しいですか?」
「あ、はいっ! 月並みな感想ですが、甘くて美味しいです。シリスさんも食べてみますか?」
「私は結構ですよ。お茶で十分ですので」
「あ……そうですか……?」 

 気持ちしょんぼりしてしまったように見える朱廉。
 ただシリスは、美味しいなら分けないで丸々ひとつ食べるのがいいだろうと考えただけなのだが、気分を沈ませてしまうのは本望ではない。 

「あの、では……一口だけ頂けますか?」
「は、はいっ! どうぞ!」
「……っ」 

 どうぞ、と、さっきジョアルの時に見た光景が目の前で起こっている。違うのは相手が朱廉ということだ。
 悪気は無く、寧ろ早く食べて欲しくてこの行動を取ったのではないかと思う。ただ自分がされると若干気恥ずかしい。 

「シリスさん? ……あ」 

 スプーンを突き出して数秒後に、朱廉も自分がしていることに気づいて赤くなる。でも引くに引けず固まっている。
 シリスは意を決して向けられたスプーンを口に含んだ。ソフトクリームを舐め取り、手で口元を隠す。 

「ど、どうでしょうか……?」
「……大変、美味しいです……」 

 あまりにも顔が熱くて、ソフトクリームの冷たさの温度差なのか、味が全然わからなかった。
 それから喫茶店を出てぶらぶらと四人でラベンダー畑を見て回り、昼食を済ませたところでジョアルが言い出す。 

「ここからは別れてフツーにデートしよ」
「「えっ」」 

 そんな予定を聞かされていなかった理一と朱廉の声がそろった。 

「大方、花を見るのに飽きたんだろう」
「そういうことにしておいてもいいよ。理一と朱廉くんはどう?」
「俺はどちらでもいいが……」
「わ、我も……」
「じゃあ決まり。行こ、理一」
「あ、ああ……」 

 通常のデートをするのは構わないが、急なこともあり名残惜しく感じている朱廉。 

「……朱廉、帰る時は気をつけてな」
「はい! 理一さんもお気をつけて」
「朱廉くんは必ず安全に送りますからお気になさらず。兄をよろしく頼みます」 

 恭しく二人にお辞儀されると、理一も二人に軽く会釈をしてジョアルと一緒に歩き出した。
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