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ジョアル、シリスに恋人が出来てから
麗人=冷人
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誰もがこの人が一番似合うと思った。
「何故私がこのような茶番に付き合わなけらればいけないのですか」
「ここはノリで乗り切るもんだろ? シリス」
ジリジリと婦人服を持って歩み寄るアレッシュから、困った顔をして逃れようとするシリス。
「シリス、観念しときなよ」
「やらないお前にこの気持ちはわからないだろう」
「やるよ? こっちの方」
ジョアルは執事服をシリスに見せて。
「『仮装』って言ったでしょ? 女装はしないけど」
「不合理だっ……!」
「まあまあ。第一、俺やジョアルさんが女装した時を想像してみろよ」
想像したくもないのだが。
「その点、シリスは細身だし美人だから似合うでしょ」
「似合う似合わないの話ではない。必要性を感じられん」
「朱廉くんにも見せたら絶対喜ぶのに」
「!?」
ここでその名前を出すのは卑怯だ。
「……よ、喜ぶわけが……」
「シリスの違う一面が見れたら喜ぶでしょ?」
「………」
それは否定しづらい。しかし女装姿を見ても喜ぶとは到底思えない。
「今は俺達しかいないんだ。ここだけの遊びだろ? これくらい付き合えよ」
「……わかりました」
アレッシュの言うことには渋々聞く。そして女装してみた。ついでと言って化粧もさせられた。アレッシュとジョアルの驚く顔を見て、なんとも言えない気持ちになった。
次の日。
ピンポーン
インターホンが鳴って出てみれば、あの朱色が目に飛び込んできた。
「し、朱廉君!?」
「あ、シリスさん! こんにちは」
「こんにちは。珍しいですね……突然こちらへいらっしゃるなんて」
「ジョアルさんにお招き頂いて……あの、ご迷惑……だったでしょうか?」
「いいえ。キミに会えるならどのような事情でも幸福です」
ふっと微笑むと朱廉も嬉しそうに微笑む。
屋敷へ招き入れ、客間に案内する。
「ではジョアルを呼んできます」
「はい!」
客間を出るといつもの無表情に戻る。朱廉の前では柔らかい雰囲気になるも、ジョアルの前では一変する。
「あ、シリス」
「遅い。朱廉君が待っている」
「そっか。ちょっと準備してて遅くなっちゃった」
「準備?」
「そう。準備。シリスも一緒に来て」
そう言うものだから客間に一緒に戻る。そもそも兄と恋人を二人きりにしたくない。
「こ、こんにちは!」
「うん、こんにちは」
客間に入ると、緊張した面持ちの朱廉が立ち上がって挨拶した。
そんな朱廉の頭をジョアルはポンポン撫でて座るよう促す。
気安い対応にシリスは静かに腹を立てている。
「朱廉君、兄の前では気を抜かぬように」
「へっ? あ、はい……?」
語尾が疑問系になってしまうのは、シリス程ジョアルを敵視していないからだ。
「酷いな……シリス。兄に向かって」
「フンッ……」
「まあいいや。朱廉くんにプレゼントがあるんだよね」
「プレゼント、ですか?」
「面白いもの見せてあげるってメールしたでしょ?」
いつの間にかメル友になっているのも解せないが、そこは朱廉の為に仕方なく許容している。
「コレ」
パサ……
「…………!??」
テーブルの上に置かれたもの。それは自分の女装した姿の写真。
「よく撮れてるでしょ」
「え? こ、この方は……え?」
朱廉はちらりとシリスを見る。
そのシリスは体をワナワナと震わせていた。
「……な、な……何故、コレが……!」
「そりゃ隠し撮りしたに決まってんでしょ」
「無駄なことをするな!!」
ピシャリと怒声を浴びせても、ジョアルは知らぬ顔をしている。
「せっかく着たんだから見せてあげないと勿体ないし。こうでもしないと見せられないでしょ?」
「恥さらしだッ!」
「あ。お客さん来てるのにお茶とか無いね。持ってくる」
逃げるようにジョアルは客間を出ていった。残された二人の間には微妙な空気が流れている。
「シリスさん?」
「……はい」
恥ずかしく思う。どんな理由であれ男の自分が女装をして、化粧までして、それを恋人に見られたなんて。
「あのっ、こんなことを言っていいのか分かりませんけど……とっても綺麗です!」
「……気持ち悪くないですか」
「いい、いえ! そんなことないですっ!」
「男がこんな……みっともない」
傷心しているシリスに朱廉は正直に伝える。なるべく傷つけないように。
「女性の服をこんな風に着こなしてしまうなんて、シリスさんは凄いです!」
「……凄いことなどでは……」
「綺麗です。とっても」
「……」
昨日は散々他の人に言われたが、全く嬉しくもなければ貶されてるようにしか聞こえなかった言葉。自分が女顔だと分かっているから。けれど朱廉に言われたらどんな言葉でも嬉しい。
「あ、でも……」
「?」
突然顔を赤くする朱廉。首を傾げると、朱廉は照れながら口を開く。
「いつもは、その……格好よくて素敵です……」
赤い顔でそんなことを言われたら、抑えていたものが溢れてしまいそうになる。
「……わっ?」
無言で朱廉を抱き締める。それを拒む理由もない朱廉はそのままを受け入れた。
「朱廉君……」
「シリス……さん……」
顔を向かい合わせて触れようとするがグッと堪えて離れた。
ガチャ
「……あれ?」
ジョアルがノックもせずに入ってきた。先程と変わらぬ位置にいる二人を見て、ジョアルは意外そうな顔をしている。
「俺がいない間何も無かったの?」
「何、とは?」
「ほら、いない間にイチャイチャしてて、急に俺が入ってきてどぎまぎするみたいな」
「あるわけないだろう」
そうシラを切るシリス。
朱廉も赤い顔のままコクコクと頷いた。
「ふぅん……なんだ、つまんない」
本当につまらなそうな顔をしている。目的を失ったジョアルはもう投げ遣りで。
「あとは二人でゆっくりしてて」
持ってきたお茶を置いて早々に出ていった。
「……はぁ。勝手ですね」
溜め息を吐いて冷静な態度なシリス。
朱廉はまだ顔が火照って赤い。
「……ドキドキしました」
「ジョアルが来ることは分かっていましたから」
「そ、そうなんですか……?」
こんな時、気配を察する能力に長けていたのは良かったと思う。
「……この写真は私が預かりますね」
「あ……はい……」
実は欲しかったなんて口が裂けても言えない。
「朱廉君」
「は、はい!」
すっくと椅子から立ち上がり、運ばれてきたお茶を持って朱廉を見下ろした。
「行きましょう」
「へ? どこへ?」
聞くとシリスはふっと微笑んで。
「私の部屋へ。こんな場所ではなくゆっくり過ごせますよ」
「あっ、ああ……そうですね! 行きたいです!」
「ええ。何より、邪魔が入りませんから」
「えっ」
それはどういう意味で言ったのだろう。普段が冷静な彼に、こういう時はドキドキが増して仕方がなかった。
END
「何故私がこのような茶番に付き合わなけらればいけないのですか」
「ここはノリで乗り切るもんだろ? シリス」
ジリジリと婦人服を持って歩み寄るアレッシュから、困った顔をして逃れようとするシリス。
「シリス、観念しときなよ」
「やらないお前にこの気持ちはわからないだろう」
「やるよ? こっちの方」
ジョアルは執事服をシリスに見せて。
「『仮装』って言ったでしょ? 女装はしないけど」
「不合理だっ……!」
「まあまあ。第一、俺やジョアルさんが女装した時を想像してみろよ」
想像したくもないのだが。
「その点、シリスは細身だし美人だから似合うでしょ」
「似合う似合わないの話ではない。必要性を感じられん」
「朱廉くんにも見せたら絶対喜ぶのに」
「!?」
ここでその名前を出すのは卑怯だ。
「……よ、喜ぶわけが……」
「シリスの違う一面が見れたら喜ぶでしょ?」
「………」
それは否定しづらい。しかし女装姿を見ても喜ぶとは到底思えない。
「今は俺達しかいないんだ。ここだけの遊びだろ? これくらい付き合えよ」
「……わかりました」
アレッシュの言うことには渋々聞く。そして女装してみた。ついでと言って化粧もさせられた。アレッシュとジョアルの驚く顔を見て、なんとも言えない気持ちになった。
次の日。
ピンポーン
インターホンが鳴って出てみれば、あの朱色が目に飛び込んできた。
「し、朱廉君!?」
「あ、シリスさん! こんにちは」
「こんにちは。珍しいですね……突然こちらへいらっしゃるなんて」
「ジョアルさんにお招き頂いて……あの、ご迷惑……だったでしょうか?」
「いいえ。キミに会えるならどのような事情でも幸福です」
ふっと微笑むと朱廉も嬉しそうに微笑む。
屋敷へ招き入れ、客間に案内する。
「ではジョアルを呼んできます」
「はい!」
客間を出るといつもの無表情に戻る。朱廉の前では柔らかい雰囲気になるも、ジョアルの前では一変する。
「あ、シリス」
「遅い。朱廉君が待っている」
「そっか。ちょっと準備してて遅くなっちゃった」
「準備?」
「そう。準備。シリスも一緒に来て」
そう言うものだから客間に一緒に戻る。そもそも兄と恋人を二人きりにしたくない。
「こ、こんにちは!」
「うん、こんにちは」
客間に入ると、緊張した面持ちの朱廉が立ち上がって挨拶した。
そんな朱廉の頭をジョアルはポンポン撫でて座るよう促す。
気安い対応にシリスは静かに腹を立てている。
「朱廉君、兄の前では気を抜かぬように」
「へっ? あ、はい……?」
語尾が疑問系になってしまうのは、シリス程ジョアルを敵視していないからだ。
「酷いな……シリス。兄に向かって」
「フンッ……」
「まあいいや。朱廉くんにプレゼントがあるんだよね」
「プレゼント、ですか?」
「面白いもの見せてあげるってメールしたでしょ?」
いつの間にかメル友になっているのも解せないが、そこは朱廉の為に仕方なく許容している。
「コレ」
パサ……
「…………!??」
テーブルの上に置かれたもの。それは自分の女装した姿の写真。
「よく撮れてるでしょ」
「え? こ、この方は……え?」
朱廉はちらりとシリスを見る。
そのシリスは体をワナワナと震わせていた。
「……な、な……何故、コレが……!」
「そりゃ隠し撮りしたに決まってんでしょ」
「無駄なことをするな!!」
ピシャリと怒声を浴びせても、ジョアルは知らぬ顔をしている。
「せっかく着たんだから見せてあげないと勿体ないし。こうでもしないと見せられないでしょ?」
「恥さらしだッ!」
「あ。お客さん来てるのにお茶とか無いね。持ってくる」
逃げるようにジョアルは客間を出ていった。残された二人の間には微妙な空気が流れている。
「シリスさん?」
「……はい」
恥ずかしく思う。どんな理由であれ男の自分が女装をして、化粧までして、それを恋人に見られたなんて。
「あのっ、こんなことを言っていいのか分かりませんけど……とっても綺麗です!」
「……気持ち悪くないですか」
「いい、いえ! そんなことないですっ!」
「男がこんな……みっともない」
傷心しているシリスに朱廉は正直に伝える。なるべく傷つけないように。
「女性の服をこんな風に着こなしてしまうなんて、シリスさんは凄いです!」
「……凄いことなどでは……」
「綺麗です。とっても」
「……」
昨日は散々他の人に言われたが、全く嬉しくもなければ貶されてるようにしか聞こえなかった言葉。自分が女顔だと分かっているから。けれど朱廉に言われたらどんな言葉でも嬉しい。
「あ、でも……」
「?」
突然顔を赤くする朱廉。首を傾げると、朱廉は照れながら口を開く。
「いつもは、その……格好よくて素敵です……」
赤い顔でそんなことを言われたら、抑えていたものが溢れてしまいそうになる。
「……わっ?」
無言で朱廉を抱き締める。それを拒む理由もない朱廉はそのままを受け入れた。
「朱廉君……」
「シリス……さん……」
顔を向かい合わせて触れようとするがグッと堪えて離れた。
ガチャ
「……あれ?」
ジョアルがノックもせずに入ってきた。先程と変わらぬ位置にいる二人を見て、ジョアルは意外そうな顔をしている。
「俺がいない間何も無かったの?」
「何、とは?」
「ほら、いない間にイチャイチャしてて、急に俺が入ってきてどぎまぎするみたいな」
「あるわけないだろう」
そうシラを切るシリス。
朱廉も赤い顔のままコクコクと頷いた。
「ふぅん……なんだ、つまんない」
本当につまらなそうな顔をしている。目的を失ったジョアルはもう投げ遣りで。
「あとは二人でゆっくりしてて」
持ってきたお茶を置いて早々に出ていった。
「……はぁ。勝手ですね」
溜め息を吐いて冷静な態度なシリス。
朱廉はまだ顔が火照って赤い。
「……ドキドキしました」
「ジョアルが来ることは分かっていましたから」
「そ、そうなんですか……?」
こんな時、気配を察する能力に長けていたのは良かったと思う。
「……この写真は私が預かりますね」
「あ……はい……」
実は欲しかったなんて口が裂けても言えない。
「朱廉君」
「は、はい!」
すっくと椅子から立ち上がり、運ばれてきたお茶を持って朱廉を見下ろした。
「行きましょう」
「へ? どこへ?」
聞くとシリスはふっと微笑んで。
「私の部屋へ。こんな場所ではなくゆっくり過ごせますよ」
「あっ、ああ……そうですね! 行きたいです!」
「ええ。何より、邪魔が入りませんから」
「えっ」
それはどういう意味で言ったのだろう。普段が冷静な彼に、こういう時はドキドキが増して仕方がなかった。
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