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ジョアル、シリスに恋人が出来てから
お祝い
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――フランシェス邸。
シリスは外出から帰ってきて上着を脱ぐ。いつものように整容を済ませてからリビングへ向かった。
ガチャン
「お帰りー。それとおめでとー」
「?」
リビングの扉を開けると、ジョアルとその恋人の理一にパチパチと拍手で迎えられた。テーブルの上には豪華な食事が用意されている。
「お祝いだから今日はお赤飯炊いた」
「祝い……とは何だ?」
「何って、おめでたい事を喜ぶ事でしょ?」
「意味ではなく理由だ。祝いをするような事は何も無いだろう」
「あるよ。ねぇ、理一?」
「え、あ、ああ……」
いきなり話を振られて困惑する理一。
ジョアルに聞いても話が進まないと判断したシリスは怪訝な顔をして理一に問いかける。
「東堂さんまで……何の茶番ですか。祝いとは、またあなた方の記念日などでしょうか?」
「むっ……」
やや棘のあるシリスの話し方に、理一は立ち上がり珍しく声を荒げる。
「茶番じゃない! 君と朱廉の大事な記念日だ……!」
言ってから恥ずかしくなったのか静かに座る理一。
シリスもジョアルも驚いてキョトンとしている。
「……すみません。話が全く見えてこないのですが……」
「まあ座ってよ」
「……ああ」
設けられた席に座り、ひと息ついてから改めて話を切り出す。
「それで……何故このような祝いを?」
「俺がジョアルに話したんだ。そうしたら、ジョアルがパーティーをしようって」
「やっぱり弟の記念日はお祝いしないとでしょ」
……全然わからない
「何を……話したんですか」
「それは……」
「二人のファーストキス」
「……。……!?」
一瞬聞き間違いかと思った。しかし、ジョアルが冗談を言うわけがないので確かなことだろう。だとしても驚愕だ。
「……な、何故……それを」
「だから理一に聞いたって」
「違う! 何故東堂さんが知っているのかです!」
「朱廉から聞いて……」
「……」
朱廉くん……っ
朱廉が話したのなら確かな情報を与えたも同然で。きっと相談をしている最中にそういう話題になったのだろうと想像する。
「……そう、ですか」
正直動揺はしたが、照れるようなことでもない。母国ではする箇所は別だが挨拶で日常的にキスすることもある。そもそも恋人同士だ。キスしたからと言って問題があるわけではない。
「話がまとまった所でお祝いしよ。はい、グラス」
「……ん」
グラスを受取るとそのままワインを注がれる。グラスに透けて揺れる赤はいい。
「はい、かんぱーい」
ジョアルの進行で勝手にパーティーが進んでいく。
時間が経つにつれてジョアルが理一と戯れ始めたり、いつの間にか二人の世界に浸り出して自分は何を見せられているんだと不満を口には出さず心の中で留めておく。
自分の祝いの席のはずなのだが……それに朱廉くんもいない。やはり茶番と言う他無い
「ちょっと理一を介抱してくるから、あとは好きに飲んでていいよ」
「……ああ」
ジョアルに抱えられて理一もリビングから出ていき、結局一人になってしまった。静かに溜め息を吐いて窓から外を眺める。
朱廉くんは今頃何をしているだろうか……
恋人のことを考えたら会いたくなってきた。今度は二人だけで改めてお祝いしようと決意するのだった。
「んん……」
微かな声を漏らして開眼する理一。まだ虚ろな表情で、きっと状況を把握出来てないみたい。
「理一、おはよ」
「ジョアル……? ここは……ジョアルの部屋か?」
「うん、そう」
簡潔に答えて、よく出来ましたって、頭を撫でてあげる。心地よさそうにしてる理一が可愛い。
「いっぱい飲んだから眠くなっちゃった?」
「少しだけ……。ああそういえば祝いの席で……すまない。台無しだな……」
「ううん、シリスも朱廉くんがいないから寂しいだろうし、一人にしてきた」
「一人にするのも寂しい気がするが」
「シリスの場合は一人の方が気が紛れそうだったから」
「そう、か……」
やっぱりまだ少し眠気があるみたいだから、頭を引き寄せて俺の胸に押し当ててあげる。そしたら理一がぽつりぽつりうわ言みたく話す。
「さっきは……大きな声を出して悪かった」
「?…………ああ、さっき怒ってたやつ?」
「ああ。……せっかく祝うって時に……大人気なかったな」
「でも祝いたいって思ったから怒ったんでしょ? シリスがどうでもよさげだったから」
「……些細な事だが、記念日は大切にしたいからな。とはいえお節介だったかもしれない」
微睡みの中呟く理一が愛しい。細やかな事でも大事にする繊細な所、日本人っぽくて、そういう所も好き。
「理一、カッコ良かったよ。さっきの」
「そ、そうか……? ありがとう……」
照れてるのがまた可愛い。やっぱり
「可愛い」
頬に軽くキスしたら、それだけで酔ってる時よりも顔を赤くしてる。
「いつも俺には笑ってくれるし、怒ってる理一って新鮮だったから……ねぇ、俺にも怒ってみて」
「え?」
こういう無茶ぶりすると困る顔も好き。
「……冗談。でも、可愛いって言うのは本当」
「……っ、か、可愛くはないぞ……」
「理一はいつでも可愛いよ。怒ってたって、困ってたって、一番は笑ってる時かな」
褒めれば褒める程、理一は照れる。照れ顔は写真に残したいくらい。
「俺達も作っちゃおうか? キス記念日」
「記念日……でも、初じゃないが……」
「言うでしょ? 毎日が記念日って」
笑って理一の頭を撫でたら、理一も笑ってくれる。可笑しいことを言ったみたいで理一が笑ってる。理一が笑ってくれるならなんだっていい。どんな君でも愛しいから。
END
シリスは外出から帰ってきて上着を脱ぐ。いつものように整容を済ませてからリビングへ向かった。
ガチャン
「お帰りー。それとおめでとー」
「?」
リビングの扉を開けると、ジョアルとその恋人の理一にパチパチと拍手で迎えられた。テーブルの上には豪華な食事が用意されている。
「お祝いだから今日はお赤飯炊いた」
「祝い……とは何だ?」
「何って、おめでたい事を喜ぶ事でしょ?」
「意味ではなく理由だ。祝いをするような事は何も無いだろう」
「あるよ。ねぇ、理一?」
「え、あ、ああ……」
いきなり話を振られて困惑する理一。
ジョアルに聞いても話が進まないと判断したシリスは怪訝な顔をして理一に問いかける。
「東堂さんまで……何の茶番ですか。祝いとは、またあなた方の記念日などでしょうか?」
「むっ……」
やや棘のあるシリスの話し方に、理一は立ち上がり珍しく声を荒げる。
「茶番じゃない! 君と朱廉の大事な記念日だ……!」
言ってから恥ずかしくなったのか静かに座る理一。
シリスもジョアルも驚いてキョトンとしている。
「……すみません。話が全く見えてこないのですが……」
「まあ座ってよ」
「……ああ」
設けられた席に座り、ひと息ついてから改めて話を切り出す。
「それで……何故このような祝いを?」
「俺がジョアルに話したんだ。そうしたら、ジョアルがパーティーをしようって」
「やっぱり弟の記念日はお祝いしないとでしょ」
……全然わからない
「何を……話したんですか」
「それは……」
「二人のファーストキス」
「……。……!?」
一瞬聞き間違いかと思った。しかし、ジョアルが冗談を言うわけがないので確かなことだろう。だとしても驚愕だ。
「……な、何故……それを」
「だから理一に聞いたって」
「違う! 何故東堂さんが知っているのかです!」
「朱廉から聞いて……」
「……」
朱廉くん……っ
朱廉が話したのなら確かな情報を与えたも同然で。きっと相談をしている最中にそういう話題になったのだろうと想像する。
「……そう、ですか」
正直動揺はしたが、照れるようなことでもない。母国ではする箇所は別だが挨拶で日常的にキスすることもある。そもそも恋人同士だ。キスしたからと言って問題があるわけではない。
「話がまとまった所でお祝いしよ。はい、グラス」
「……ん」
グラスを受取るとそのままワインを注がれる。グラスに透けて揺れる赤はいい。
「はい、かんぱーい」
ジョアルの進行で勝手にパーティーが進んでいく。
時間が経つにつれてジョアルが理一と戯れ始めたり、いつの間にか二人の世界に浸り出して自分は何を見せられているんだと不満を口には出さず心の中で留めておく。
自分の祝いの席のはずなのだが……それに朱廉くんもいない。やはり茶番と言う他無い
「ちょっと理一を介抱してくるから、あとは好きに飲んでていいよ」
「……ああ」
ジョアルに抱えられて理一もリビングから出ていき、結局一人になってしまった。静かに溜め息を吐いて窓から外を眺める。
朱廉くんは今頃何をしているだろうか……
恋人のことを考えたら会いたくなってきた。今度は二人だけで改めてお祝いしようと決意するのだった。
「んん……」
微かな声を漏らして開眼する理一。まだ虚ろな表情で、きっと状況を把握出来てないみたい。
「理一、おはよ」
「ジョアル……? ここは……ジョアルの部屋か?」
「うん、そう」
簡潔に答えて、よく出来ましたって、頭を撫でてあげる。心地よさそうにしてる理一が可愛い。
「いっぱい飲んだから眠くなっちゃった?」
「少しだけ……。ああそういえば祝いの席で……すまない。台無しだな……」
「ううん、シリスも朱廉くんがいないから寂しいだろうし、一人にしてきた」
「一人にするのも寂しい気がするが」
「シリスの場合は一人の方が気が紛れそうだったから」
「そう、か……」
やっぱりまだ少し眠気があるみたいだから、頭を引き寄せて俺の胸に押し当ててあげる。そしたら理一がぽつりぽつりうわ言みたく話す。
「さっきは……大きな声を出して悪かった」
「?…………ああ、さっき怒ってたやつ?」
「ああ。……せっかく祝うって時に……大人気なかったな」
「でも祝いたいって思ったから怒ったんでしょ? シリスがどうでもよさげだったから」
「……些細な事だが、記念日は大切にしたいからな。とはいえお節介だったかもしれない」
微睡みの中呟く理一が愛しい。細やかな事でも大事にする繊細な所、日本人っぽくて、そういう所も好き。
「理一、カッコ良かったよ。さっきの」
「そ、そうか……? ありがとう……」
照れてるのがまた可愛い。やっぱり
「可愛い」
頬に軽くキスしたら、それだけで酔ってる時よりも顔を赤くしてる。
「いつも俺には笑ってくれるし、怒ってる理一って新鮮だったから……ねぇ、俺にも怒ってみて」
「え?」
こういう無茶ぶりすると困る顔も好き。
「……冗談。でも、可愛いって言うのは本当」
「……っ、か、可愛くはないぞ……」
「理一はいつでも可愛いよ。怒ってたって、困ってたって、一番は笑ってる時かな」
褒めれば褒める程、理一は照れる。照れ顔は写真に残したいくらい。
「俺達も作っちゃおうか? キス記念日」
「記念日……でも、初じゃないが……」
「言うでしょ? 毎日が記念日って」
笑って理一の頭を撫でたら、理一も笑ってくれる。可笑しいことを言ったみたいで理一が笑ってる。理一が笑ってくれるならなんだっていい。どんな君でも愛しいから。
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