上 下
8 / 12
ジョアル、シリスに恋人が出来てから

お祝い

しおりを挟む
 ――フランシェス邸。 

 シリスは外出から帰ってきて上着を脱ぐ。いつものように整容を済ませてからリビングへ向かった。 

 ガチャン 

「お帰りー。それとおめでとー」
「?」 

 リビングの扉を開けると、ジョアルとその恋人の理一にパチパチと拍手で迎えられた。テーブルの上には豪華な食事が用意されている。 

「お祝いだから今日はお赤飯炊いた」
「祝い……とは何だ?」
「何って、おめでたい事を喜ぶ事でしょ?」
「意味ではなく理由だ。祝いをするような事は何も無いだろう」
「あるよ。ねぇ、理一?」
「え、あ、ああ……」 

 いきなり話を振られて困惑する理一。
 ジョアルに聞いても話が進まないと判断したシリスは怪訝な顔をして理一に問いかける。 

「東堂さんまで……何の茶番ですか。祝いとは、またあなた方の記念日などでしょうか?」
「むっ……」 

 やや棘のあるシリスの話し方に、理一は立ち上がり珍しく声を荒げる。 

「茶番じゃない! 君と朱廉の大事な記念日だ……!」 

 言ってから恥ずかしくなったのか静かに座る理一。
 シリスもジョアルも驚いてキョトンとしている。 

「……すみません。話が全く見えてこないのですが……」
「まあ座ってよ」
「……ああ」 

 設けられた席に座り、ひと息ついてから改めて話を切り出す。 

「それで……何故このような祝いを?」
「俺がジョアルに話したんだ。そうしたら、ジョアルがパーティーをしようって」
「やっぱり弟の記念日はお祝いしないとでしょ」 

 ……全然わからない 

「何を……話したんですか」
「それは……」
「二人のファーストキス」
「……。……!?」 

 一瞬聞き間違いかと思った。しかし、ジョアルが冗談を言うわけがないので確かなことだろう。だとしても驚愕だ。 

「……な、何故……それを」
「だから理一に聞いたって」
「違う! 何故東堂さんが知っているのかです!」
「朱廉から聞いて……」
「……」 

 朱廉くん……っ 

 朱廉が話したのなら確かな情報を与えたも同然で。きっと相談をしている最中にそういう話題になったのだろうと想像する。 

「……そう、ですか」 

 正直動揺はしたが、照れるようなことでもない。母国ではする箇所は別だが挨拶で日常的にキスすることもある。そもそも恋人同士だ。キスしたからと言って問題があるわけではない。 

「話がまとまった所でお祝いしよ。はい、グラス」
「……ん」 

 グラスを受取るとそのままワインを注がれる。グラスに透けて揺れる赤はいい。 

「はい、かんぱーい」 

 ジョアルの進行で勝手にパーティーが進んでいく。
 時間が経つにつれてジョアルが理一と戯れ始めたり、いつの間にか二人の世界に浸り出して自分は何を見せられているんだと不満を口には出さず心の中で留めておく。 

 自分の祝いの席のはずなのだが……それに朱廉くんもいない。やはり茶番と言う他無い 

「ちょっと理一を介抱してくるから、あとは好きに飲んでていいよ」
「……ああ」 

 ジョアルに抱えられて理一もリビングから出ていき、結局一人になってしまった。静かに溜め息を吐いて窓から外を眺める。 

 朱廉くんは今頃何をしているだろうか…… 

 恋人のことを考えたら会いたくなってきた。今度は二人だけで改めてお祝いしようと決意するのだった。






「んん……」 

 微かな声を漏らして開眼する理一。まだ虚ろな表情で、きっと状況を把握出来てないみたい。 

「理一、おはよ」
「ジョアル……? ここは……ジョアルの部屋か?」
「うん、そう」 

 簡潔に答えて、よく出来ましたって、頭を撫でてあげる。心地よさそうにしてる理一が可愛い。 

「いっぱい飲んだから眠くなっちゃった?」
「少しだけ……。ああそういえば祝いの席で……すまない。台無しだな……」
「ううん、シリスも朱廉くんがいないから寂しいだろうし、一人にしてきた」
「一人にするのも寂しい気がするが」
「シリスの場合は一人の方が気が紛れそうだったから」
「そう、か……」 

 やっぱりまだ少し眠気があるみたいだから、頭を引き寄せて俺の胸に押し当ててあげる。そしたら理一がぽつりぽつりうわ言みたく話す。 

「さっきは……大きな声を出して悪かった」
「?…………ああ、さっき怒ってたやつ?」
「ああ。……せっかく祝うって時に……大人気なかったな」
「でも祝いたいって思ったから怒ったんでしょ? シリスがどうでもよさげだったから」
「……些細な事だが、記念日は大切にしたいからな。とはいえお節介だったかもしれない」 

 微睡みの中呟く理一が愛しい。細やかな事でも大事にする繊細な所、日本人っぽくて、そういう所も好き。 

「理一、カッコ良かったよ。さっきの」
「そ、そうか……? ありがとう……」 

 照れてるのがまた可愛い。やっぱり 

「可愛い」 

 頬に軽くキスしたら、それだけで酔ってる時よりも顔を赤くしてる。 

「いつも俺には笑ってくれるし、怒ってる理一って新鮮だったから……ねぇ、俺にも怒ってみて」
「え?」 

 こういう無茶ぶりすると困る顔も好き。 

「……冗談。でも、可愛いって言うのは本当」
「……っ、か、可愛くはないぞ……」
「理一はいつでも可愛いよ。怒ってたって、困ってたって、一番は笑ってる時かな」 

 褒めれば褒める程、理一は照れる。照れ顔は写真に残したいくらい。 

「俺達も作っちゃおうか? キス記念日」
「記念日……でも、初じゃないが……」
「言うでしょ? 毎日が記念日って」 

 笑って理一の頭を撫でたら、理一も笑ってくれる。可笑しいことを言ったみたいで理一が笑ってる。理一が笑ってくれるならなんだっていい。どんな君でも愛しいから。


 END
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...