囚われた親友に

朝陽ヨル

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 ボーン……ボーン……

 鳴らされる音が反響する。最前では僧侶が誦経し、続いて後ろには数珠を掛け合掌する黒服の参列。花祭壇の中央に飾られている写真には、爽やかな笑顔の英二が写っていた。

『小田切さん家の息子さん、お婆さんを助けたんですって』
『まあ、それじゃ代わりに? 正義感の強い子だったのねぇ……』

 事情を知らないおばさん達が、ひそひそと話している。
 俺は現場にいたから知っている。歩道に投げ出されたように倒れているお婆さん。轢いたと思われる車は路肩に止まってドライバーが出てきていた。大勢の人だかりの中心には……全身血だらけの……英二。

『陵君……』
『あ……英二のお父さん』

 英二のお父さんの傍らには泣いている英二のお母さんがいた。一人息子が死んだんだ。涙を流すことは当前だ。

『英二と……いつも遊んでくれて、ありがとう』
『こちらこそ、英二といつも、楽しく過ごさせて頂きました。本当に……残念です』
『……英二に何か……言葉を掛けてやってくれないかな……』

 線香や花、思い出のサッカーボールなどが置いてあるその奥に棺が置いてある。
 俺は頷いて、静かに棺の前に行った。顔の部分だけ小さな扉が付いている。そっと開けば、記憶にある元気な顔は無く、白くて、血色の悪い、冷たい顔しかない英二がいた。

『英二……お前、そんなに顔白かったか? いつも男くさい顔してるクセに……白くて、……あんまり綺麗になってるなよ……』

 ただただ落胆する。胸の中はすっかり空で、頭の中はお前のことばかり。出てくるのは思い出と、これからの幻想の未来。

『教え方が上手いって……言ってたな。俺は、お前だって上手いって思っていた。サッカー……俺は全然出来なかったのに、お前に教えてもらって少しは出来るようになった。またサッカー教えてくれよ。それから、俺が甘い物好きだって分かったら、男二人で喫茶店に入ってパフェを頼んだ。美味かったけど凄く恥ずかしかった。お前とならまた行ってもいいなって思ってる』

 ポロポロと言葉と涙が流れていく。水のように止めどなく溢れてきて、そんなものを塞き止める術は今の俺には無かった。

『受験……、お前がいつの間にか同じ所を受けているなんて知らなくて、知らずに暢気に遊んでた阿呆な奴だと思っていたこともあった。……そんなこと八つ当たりで……俺は、寂しかった。お前と勉強したいのに、お前ともっといたいのにって……、そう……思っていた。お前といると……楽しいんだ。お前と会ってから楽しくなった。これからも同じ大学で一緒に過ごせるって期待して……ワクワクするって、お前言ってただろ?俺だってそうだったんだ……なのにっ、お前は……ッ!』

 悔しい。悔しい。悔しい。
 この気持ちを何にぶつけたら解消されるのか見当がつかない。
 俺を見かねてか、英二のお父さんに『ありがとう』と肩を叩かれ止められた。 目元の皺を深く刻み、滲んだ瞳を伏せて柔らかく笑う。その顔は確かに英二の影を思わせた。
 葬儀が終わり、俺は家に直帰して布団に倒れこんだ。
 何をすればいいのだろうか。これからどうすればいいのだろう。英二との関係が続くことを諦めていた筈なのに、まだ続くのだと希望が見えて、そして、その希望はもう閉ざされてしまった。

 もう、この世にお前はいない。唯一の友達……親友。英二…………

『英二……英二ッ……』

 空の筈の胸が苦しくなる。どうにでもなれと、そう思っても、何も出来ない。これから何をしようかなんて考えがまとまらない。俺はこの現実から逃避したくて、力の入らないげんなりとした体を休めることにした。
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