囚われた親友に

朝陽ヨル

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過去4

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 小田切とは中学、高校と同じ学校に通い、高校で友達になった奴等よりも仲が良いと言えるだろう。名前を呼び合うなんて友達なら当たり前のことなのかもしれないが、俺たちは高校生活の中盤くらいで呼び合うようになった。変えた理由はこれと言って無いのだが、ある日突然名前で呼んでいいかと聞かれて承諾しただけで、そのタイミングで俺も名前で呼ぶようになった。

 ーー照れくさいが、名前で呼ぶのも呼ばれるのも良いものだな。

 親以外から名前で呼ばれるのは初めてだった。こんなありふれたことなのに、単純に嬉しいと思えるのは何故だろうか。

『英二』
『ん? 何?』
『ああ、いや……特に理由は無い』
『ははっ、なんだソレ』
『お前も呼んでみてくれ』
『えー、なんか改まって言うのヤダ』
『名前を言うだけだろう』
『そうだけどさ。……んっと……陵?』
『ああ、そうだ』

 英二も照れくさそうにしていた。なんてことのない名前を呼び合うだけのことなのに。
 不思議な気持ちになる。英二といると不思議だ。他の奴等からは感じない何かがある。英二は俺にとって親友というものなのかもしれない。





 仲が良くてもそれは次第に薄れていく。受験の時期に近づくにつれて、俺達は遊びに行かなくなり、話すことさえ少なくなった。

『陵~、息抜きに遊び行こうぜ』
『今は忙しい。英二も復習しといた方がいい。なんなら、次のテストに出そうなポイントを』
『ああー……いいや。じゃ』

 英二は他の奴等の所へ行って帰ったようだ。俺はもう少し復習してから帰る予定だ。

『……』

 誰もいない教室で、一人で復習をする。こんなこと、中学ではしょっちゅうしていたことじゃないか。なのに何だ、この空虚感は。勉強は続けなければ身にならない。続けることで意味がある。英二と遊びたい気持ちはあるが、こんな大事な時期に遊んでなんかいられない。

 俺は……間違ってない

 自分に言い聞かせて勉強を続けた。はかどらなくても、煩悩を振り払いながら。





 とうとう大学受験日前。この為に俺は今まで勉強を積み重ねてきたんだ。結果に出るハズだ、俺の努力が。


『陵』
『英二……』

 どこか落ち着きの無い英二がやってきた。英二が進学するのか就職するのか。どこに何をするのか俺は知らない。知っているのは俺とは違う進路ということだけ。

『……受験、がんばれ!』
『お前もな、英二』

 拳と拳を当てる。そんな簡単な所作が、俺に勇気を与えてくれる。そう思うのは、俺も緊張しているからだ。
 俺は合格してみせる。英二に笑って通知書を見せてやりたい。俺の努力を見せてやりたい。たとえこの先が英二のいない進路だとしても、俺は俺のやりたいことを行い、英二を安心させてやりたいと思うんだ。
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