あなたはわたし

朝陽ヨル

文字の大きさ
上 下
1 / 1

1話

しおりを挟む
 いつも目の前にいるあなた。あなたは誰なの? もしかしてわたし?
 わたしの目の前には女の子がいる。まだ五才くらいだろうか。

「こーら! イタズラしちゃ駄目でしょ!」

 女の子は女性に抱き抱えられていった。
 そうだ、いつもはこの女性が目の前にいる。

「早く支度しないと」

 今度は女性が目の前にきた。わたしのことをじっと睨み付けてきて化粧をしている。
 わたしの顔はたくさんある。このコロコロ顔の変わる女性。髪の長い黒髪の女の子。くたびれたシャツを着ている男性。この三人の顔にわたしはなれるんだ。ほとんど女性の顔にしかならないけど。
 三人が出掛けるとわたしは顔が無くなる。何も映らない。扉を閉められて真っ暗な闇の中でただ待つだけ。扉が開かれなければ顔無しなんだ。

「ただいま!」

 また女の子の顔になった。顔だけじゃない。新しい洋服に替わっている。

「新しいお洋服気に入った?」
「うん! ありがと! パパ、ママ」

 女の子顔が笑っている。だからわたしの顔も笑っている。

 十年も経つと少し顔が薄汚れて見える。

「ねえお母さん、これ汚い」
「じゃあ拭けばいいでしょ。はいタオル」

 目の前に来た女の子。あ、なに、顔を拭かれる。ちょっとくすぐったいんだけど気持ちいい。あら? 視界が綺麗になったみたい。

「これでちゃんと書けるぞー」

 女の子は成長した。わたしの顔と同じくらいに。眉を書いて口紅を塗って、まるで十年前の女性のよう。その女性もまた化粧をするけど、前よりも濃く化粧をするようになった。男性は変わらず、ボサボサな頭を櫛で解かす為に現れる。

 更に時は流れて十年後。ちゃんと拭いているから綺麗なままなの。

「ほら見て」
「あら、綺麗になったじゃない」
 
 わたしの二つの顔。女の子と女性。もう二人とも立派な女性だわ。女の子だった女性はとても綺麗に化粧をして見違えた。年を取った女性も大人のメイクをして華やか。

「ちゃんと毎日綺麗に拭くのよ」
「わかってるよ」

 それから、わたしはどこかに運ばれていった。着いた所は荷物がたくさん置かれている部屋だった。

「ほらこれ、古いけど立派な鏡台もらったの」
「へえ~高そうだな」

 見たことのない男性の顔。わたしの顔が増えたわ。ワイルドな体育会系の顔。
 大人の女性と男性の顔になれなくなってしまったけど、元女の子とワイルド男性の顔になれるようになった。毎日二人の顔になる。化粧をしたりワックスをつけたり。

 三年の月日が経つと新しい顔が。

「きゃっきゃっ」

 見たことのない丸い顔。性別もわからない。赤ん坊の顔がある。わたしは赤ん坊にもなれたのか。

 月日はどんどん過ぎていく。また曇ってきた顔。また拭かないといけないのに。誰か。

「あれえー? これきたなーい」
「あ、忘れてたー。お手伝いできる?」
「うん!」

 扉を開けると顔が見えた。五才くらいの女の子。
 あら? この顔は随分前にもなったことがあるわ。タオルで綺麗に拭いてくれてありがとう。

「ちゃんと拭けた? 拭き残しない?」
「ない! 見て!」
「ああーホントだ、綺麗になったね!」
「まあまあ、本当、まだ綺麗に残ってるのね」

 わたしの目の前には五才の女の子、三十代くらいの女性、五十過ぎの女性。顔はこんなにも変わっていくんだ。
 月日が流れる度にわたしはいろんな顔になれる。次はどんな顔になれるんだろう。
 また扉を閉められて暗闇でそっと眠る。いつかまた扉を開けて、わたしの顔を見てね。笑顔だって怒った顔だって、悲しい顔も嬉しい顔も、おかしな顔も泣き顔だって、全部、わたしの顔だから。いつでもわたしの顔を見てね。待ってるよ。


END
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...