喝采

ぽんたしろお

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一話

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無論、読まれたくてアップするんだ――

 霧島はネットデビュー作をアップするボタンを願いを込めて押下した。
「おぉ……」
 ページビューがそろりそろりと増えていく。新作は投稿小説サイトのトップページに表示される。要は目立つのだ。無名の新人作家にとってトップページに作品のタイトルが表示されている時間が勝負だ。その間に読者を呼びこみ感想をもらえると更にトップページに暴露する時間は増える。
 感想が欲しかった。感想が呼び水となり更に読まれるのだ。



 感想が書かれたとの知らせが入る。
『とても面白かったです。引き込まれました』
 嬉しかった。彼の顔に笑みが広がる。読まれた、反応があった。

 彼は小説を宣伝するためにツイッターに創作アカウントを作っていた。投稿する前からアカウントは運用を開始していた。
 準備は入念にしてきたのだ。反響をツイッターに貼り付け、同時に投稿を開始したことを呟く。
『初投稿に感想をもらった! 嬉しい』
 その呟きにすぐ反応がくる
『すごいじゃん! おめでとう』
 山崎は霧島にリプすると、早速、霧島のデビュー作を読みにサイトへ飛んだ。

 「あれ、感想ない? 不具合か?」
 山崎は深く考えず、霧島の初投稿作品を読み始めた。山崎は投稿歴が長い。ライバルの作品もかなり読み込んでいた。霧島の文章の将来性を肌で感じとることができるだろうか?

 山崎は、後輩たちがプロとしてデビューしていくのを何度も見送ってきた。己の文章はともかく、人の文章に散りばめられている才能や伸びしろを見る「目」を持っていた。
 霧島の文章は、粗く稚拙だったが山崎にはわかった。早速、山崎も感想を書いた。
『構想の独創性が素晴らしい。読者を引き込んでいく作品だと思います。書き続けていくことで筆力は更にあがっていく伸びしろが大きいと感じます。更新楽しみにしています』
 投稿すると二件目の感想と表示された。やっぱり不具合だったんだ、と山崎は思いつつ、新しい才能がまた自分を追い抜いていく未来を見ていた。

 翌日。ツイッター上にて霧島が声をかけてきた。
『感想ありがとうございます! あれから一日で感想五件いただいたんです。がんばります!』
『感想五件!? それは凄いな! 更新楽しみにしています』
『はい!』

 霧島は嬉しかった。ネットへの初投稿に対する反響を悲観的に予想していたのだ。それは創作のモチベーションを保つための覚悟であった。
 予想は完全に外れた。手ごたえを感じるには十分すぎる反響だった。この勢いを維持していきたい、彼は慌ただしく用意していた更新分を予定を早めて投稿した。
 読まれている。ページビューは更に増加した。続きを読みにきている人と新規の読者さんがにぎやかにアクセスしてくれるのがわかった。

 霧島は書く。筆が走った。面白い、続きが気になる、話に引き込まれる――感想はさらにモチベーションを高めてくれた。
 霧島の文章力が跳ねた。山崎は感想とページビューが才能を開花させる起爆剤になる実例を唖然として見守った。

 たった一か月でここまで文章が磨き上がるものなのか、と山崎は舌を巻いた。

 二、三更新ごとに定期的に感想を残す山崎を霧島は慕い、ツイッター上でも頻発にやり取りするようになっていた。
『いつも感想ありがとうございます! 山崎さんがオススメしてくれてまた感想が増えたんです! 一か月で二十件も感想くるなんて投稿始めた時 思いもしなかった』
 霧島の言葉に山崎は首をひねる。直近の更新分を少し前に、読んで来たところだった。感想は多かったが十四件だったのだ。六件のズレはバグなのだろうか? 山崎は認識の違いを霧島に伝えることはとどまった。せっかく上昇気流に乗っている相手にブレーキをかけるような言葉は必要ないはずだから。

 数日後、山崎は感想がニ十件になったのを確認した。やはりバグなのだろう、山崎は思いながら霧島の快進撃を眩しく見つめた。

 投稿を始めて一か月半、霧島は投稿を始める前に書き溜めた文章をあっという間に吐き出し、凄まじい勢いで書きまくり続けた。
 頭の中に興奮物質が湧き続ける感覚が霧島を夢中にさせた。更新をアップするとあっという間に感想が付く。熱狂的な読者が更新を待ち構えていた。
『今回も胸躍る展開だった』
『面白すぎる!』
 感想は霧島が書く燃料になっていた。ウエッブ小説は、一部のジャンル以外読まれない定説は霧島には適用できなくなっていた。

 ネットデビューに成功した霧島が唯一不満だったのは、連載を始めた当初から感想をくれていた山崎の態度であった。
『感想がきました』
 山崎の感想だけは、いつも更新から一日以上遅れていたからだ。
 なぜ山崎は更新直後に感想をくれないのだろうか? 霧島は心に黒い沁みがこびりついている感覚を次第に拭えなくなっていた。
 山崎さんは、感想を遅く書くことで不快に思うように仕向けているのだろうか? 霧島は山崎が嫉妬しているのかもしれない、そう思った。
 しかし、律儀に感想を書き続けてくれているのは事実であり、霧島は山崎を無下にすることもできなかったのである。



(つづく)
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