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冒険と救出

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 「先輩、サーバーの件で相談があるんです~」
 『秘密掲示板』の中の人である広報担当(こうほうたんとう)の白崎(しらさき)報(むくい)管理官(かんりかん)が、日野(ひの)管理官(かんりかん)に声をかけてきた。
 白崎管理官の話に頷いていた日野管理官は、白崎管理官の話が一段落すると
「要するに、年月日を理由に遊びを諦めることも排除したい、そういうことか?」
 日野管理官が白崎管理官に確認した。
「そうっす。掲示板のサーバーを異時空間に突っ込めば、解決っすね~」
「できるのか?」
「出来ないなんて言えるわけないじゃないですかぁ。それで、遊ぶ機会がだんちで増えるなら、勿論やりますよぉ~。上が許可してくれれば、あとは俺が頑張って管理するだけっす」
 白崎管理官が、ウインクしながら答えた。日野管理官は、白崎管理官を見ながらパーフェクトスマイルをさく裂させた。
「わかった、部長に早急そうきゅうに提案するよ」
 白崎管理官は、日野管理官の笑顔は眩しすぎる、と目をパチパチした。

 しばらくして白崎管理官が秘密掲示板にお知らせを載せた。
 『時間と場所を選ばず、掲示板で打ち合わせできるようになったよ! 掲示板管理人より』

 年月日を気にせず、過去の誰かや未来の誰かともやり取りできる、ぞとな?
 時間が合わないから遊べないがなくなるのね!
 誰かいっしょに冒険しようよぉ

 俺も、誰かと冒険したいぞ
 あたしも冒険参加する!
 三人で冒険しよう、決定。冒険の舞台はどこにする?

 異世界がいいぞぉ
 異時空間で異世界って意味わかんないけど面白いね
 剣とか魔法とか村とか冒険者組合とか、そんな感じ?

 俺、剣士と賢者やりたいぞ
 あたしは天使と回復者がいいな
 僕は、冒険できれば何でもいいや

 何でも屋で了解だぞ。で、敵はどうするぞ?
 竜を倒したいわね
 じゃあ悪竜退治の冒険に決定

 『秘密掲示板』で、雷蔵らいぞう天姫あまひ幹治かんじの話し合いは続いた。

 異世界の国・フタツノモトにある冒険者村の冒険組合で三人は出会った――
 フタツノモトの悪都あくとにのさばった悪竜により、人々の不満が募っていた。冒険組合に出された募集に応じたのが、雷蔵剣士と天姫天使と幹治何でも屋の三人だった。
 三人は悪竜と戦うために、冒険村を出発。
 冒険の途中にある、洞窟や山で、悪魔や魔獣と戦いながら、強くなって悪竜のいる、決戦の悪都へ向かうのだ。

 盛り上がる秘密が欲しいと思うぞ
 悪竜とあたしたちに、実は関係がある!
 おお~、いいね。どんな関係がいいかな?

 思い付いてしまったぞ! 
 え、何?
 教えて

 異時空間で話すぞ、これは今は言えないぞ……
 気になりすぎるから、異時空間で会おう
 うぉ、異時空間で会って早く聞きたいな


  「ウエルカム スペースタイムジャパン ゲートイン!」
 日野管理官に誘|(いざな)われ、三人はついに異時空間で顔を合わせたのであった。

 『〇〇二一年八月△△日 門限 十七時三〇分 許可』
 『〇〇二一年十一月△△日 門限 十七時四五分 許可』
 『〇〇二二年二月△△日 門限 十七時五〇分 許可』
 三人は互いの腕の刻光を見せあうと、否が応でも盛り上がる。

 刻光年月日がほんとに違うぞ。君たち、ほんとに未来人だったんぞな!
 あたしから見たら、過去人と未来人だわ
 僕から見れば、二人とも過去人だぁ

 住んでる場所も集合日時も違う三人が、異時空間だから、顔を合わせることができたのだ。
 三人は相談した設定をイメージし始めた。
 いよいよ、冒険が始まるのだから。

 フタツノモトの冒険村から、三人は悪都に向けて出発した。
 ザクザクザク、三人は歩みを進め、洞窟どうくつに入って行った。
「なんで、洞窟に寄り道する羽目にしたんだぞ?」
 雷蔵剣士が剣を振りながら忘れた設定を質問すると、天姫天使が羽をバサバサさせながら答えた。
「洞窟に秘密の近道あるからよ。にしても、この洞窟、狭くて飛べないじゃ……えっ!?」
 天姫天使が文句を言った途端、洞窟がドカッと広がった。
「広がるとせっかくの近道が遠くなるよ。元の狭い洞窟に戻していい?」
 幹治何でも屋が提案すると、雷蔵剣士も天姫天使も同意した。
「うん、いいぞ」
「早く着きたいもんね」
「では元に戻すよ、ギュットチヂメータル」
 幹治何でも屋は、何でも屋ゆえ元に戻す魔法を使うことも普通にできる。呪文を唱えると洞窟を元の狭さに戻した。出口がぼぉっと白く光って見えてきた。

「一回も戦わないまま到着しちゃうのはつまんないぞ」
「鍛錬は必要だよね」
「わかった、悪魔と魔獣、召喚!」
 何でも解決しちゃう幹治何でも屋が、召喚すると、弱そうな悪魔と強くなさそうな魔獣が十体どばっと、三人が洞窟を出た先に現れた。

 雷蔵剣士が背負っていた剣を引き抜くと青く光り始めた。天姫天使は宙にふわりと浮いて羽ばたく。幹治何でも屋はリュックから分厚くて硬い本物理武器を頭に持ち上げた。
 三人が放出した三次元波が、十体の悪魔と魔獣を、取り囲んで衝撃を与え始めた。
「いくぞーーーっ!」
「いくわよっ!」
「いっけぇぇええぇぇえ!」
 三人の気合に合わせて三次元波は増幅し、十体はまとめて飛散し消失した。同時に、三人は勝利と経験を手中に収めたのであった。

 ほどなく、三人は悪都に到着した。いよいよ、悪竜との戦いが幕を開けるのだ。


 「くっ!」
 異時空制御する日野管理官が腹に力をこめて耐えていた。日野管理官の様子を見ていた白崎管理官が、ひゅうっと口笛を吹いた。
「日野先輩、黒騎士に負けない人気っすね」
「からかうなよぉ」
 白崎管理官に答えつつ、日野管理官は異時空いじくう制御せいぎょを緩めることなく続けていた。白崎管理官は、
「壁ドンのモテモテも羨ましかったっすけど、闇落ちの悪竜もダークでかっこいいっす!」
  それだけ言って、掲示板管理業務に戻っていった。


 「悪竜の正体は、なんと! 闇に落ちた日野管理官だぞ!」
 「こんな凄い秘密だったとわ……、ドキドキするわね」
 「さぁ、日野管理官を救おう!」

 悪竜は真っ黒く巨大であった。存在感は悪の王にふさわしい。

 ギャオオーッ

 悪竜が吠え、音の振動が三人にも届いた。悪の咆哮ほうこうに悲鳴のような何かを三人は感じ取っていた。三人は闇に落ちて悪竜になった日野管理官を救うべく、それぞれの得意技を仕掛けていく。日野管理官を救うために。

 「闇をはらう、剣にこめる願いぞ」
 雷蔵剣士は、剣を巨大化した。巨大化した剣は赤い光りを深めていく。雷蔵剣士は剣に己の気力を注ぎ入れる。間もなく剣は、深紅しんく色に輝き始めた。
「闇は、光の粒子で散失さんしつよっ」
 天姫天使が飛翔し、飛行跡にキラキラの粒子を振りまいていく。粒子は空に広がり続け、空を輝きながら覆いつくした。
「闇を照らす知よ、考を尽くすなり
 幹治何でも屋は、分厚く硬い本を胸に抱き、本と一体化して、大樹の化身に変身する。緑の葉が手裏剣のようにピシピシ唸りをを上げた。

 最高の結集。
 深紅の剣の輝きと、輝く飛行粒子と、知の緑色の切れ味が、増幅して悪竜にめがけて波及していく。
 悪竜は、咆哮の波音で迎え撃つが、徐々に結集した三人の力に押され始めた。

 ギァオオォォォオオオン!

 悪竜は断末魔を上げ、波打つ空間に吞み込まれて、消失した。そして、闇から救出した日野管理官が眠った状態で空間に浮かびあがった。
「救出成功、次転送ぞ!」
「移送スタンバイ、オッケーよ!」
「移送実行した、完了!」


 衝撃が加わり身体をくの字して、日野管理官は異時空間から飛んできた「自分」を受け止めた。
「戻った、ふぅ」
 小さく息を吐くと、再び姿勢を正して異時空制御を続行する。まだ三人の異時空いじくう出間しゅっかん手続きがあるし、勤務時間の終了までにやることはたくさんあるのだ。


 日野管理官が三人の前に現れた。
「楽しかった?」
 三人は、日野管理官のパーフェクトスマイルを超える笑みを浮かべた。三人の笑顔が全てを説明していた。
 帰宅する場所も時間も違う三人は、異時空間で声を掛け合った。

 掲示板でまた話すぞ
 掲示板でまたね
 掲示板でまた相談しよう

 そうして、三人は刻光した腕を、日野管理官に向って突き出した。
「パワー ホールド ダウン」
 三人の腕の刻光が白から青に変化した。
「封印完了。帰宅の時間だ」
 日野管理官はすくっと立ち上がった。顔を引き締めなおして言った。
「ゲートアウト スペースタイムジャンパン シーユーアゲイン!」

 ヴオォン


 『秘密掲示板』に書き込みが増えた。

 さて次の設定は宇宙はどうぞ?
 ワープしよう
 宇宙について調べなくちゃ

 『秘密掲示板』の中の人・白崎管理官は、書き込みを読んで思わずつぶやいた。
「先輩や小鳥遊たかなし管理官かんりかん、がんばっすね~」
 

(つづく) 
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