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2021年11月

おもい手編みのセーター

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 今の流行の発信はインターネットなのだろうけれど、私が十代から二十代の時のそれは、テレビであり本屋であった。

 時代的には見合い結婚から恋愛結婚へトレンドがシフトしていた。トレンドに信仰めいた
憧れがあった。恋愛したい、恋愛結婚素敵だろうな、なーんて思ったものだ。

 流行に乗り遅れがちの傾向があったのだが、おそらくその危機感ゆえ、彼氏ができた。彼氏ができたから流行に乗り遅れないように張り切ってみた。
 心に刺さったのが,本屋さんで見つけた手編みのセーターの本である。
 その本はゼロから準備して一冊読み終わる時|(本の指示どおり編めばってこと)、手編みのセーターが出来上がるように写真や図解されていた。
 生来、不器用な手の持ち主だったのだが、手編みのセーター本を見ていると、なぜか出来る気がしてきた。
 『編み目に想いをこめて』
 素敵な言葉だなと夢中になってしまった。手編みブームに乗っちゃおう、そう思った。

 実際のところ手編みブームで作られた編み物が各々の彼氏に届き始めると「こめらた気持ちが重い」という感想が当然のようにあがってきたわけだが。
 贈られた方が迷惑と思うだろうとまで思いを馳せるには遅すぎた。本に出された指示どおり、編み棒やら毛糸を購入して、編み始め編み上げることが第一目的になって突っ走り始めていたわけだから。

 猪突猛進。一度決めると、やり抜いてしまう性格であった。中途半端に終わるなら、へし折ってでも強引にゴールにもっていく。
 編み始めたセーターは編み上げるのだ!

 不器用で、強引な性格が編み目にも、思いっきり現れた。つまり編み目がガチガチに詰まった編み方になってしまったのだ。
 必要なサイズに編み上げるために毛糸が全然足りない。本では目安の毛糸玉の数が表記してあったが、全く足りない。毛糸玉を追加して購入することを繰り返した。
 セーターは前身頃、後ろ身頃、腕二本。ざっくり四パーツを作ってつなぎ合わせる段取りであった。パーツに分かれていた分、見たくないものを見ない、その期間が長引いていく。
 セーターが物理的に重いという事実に、正面から向き合ったのは、パーツを繋ぎ合わせる段階になった時であった。すでに本の表記の二倍弱の毛糸を消費|(あるいは投資)していたゆえ、ひき返すにひき返せなくなっていたのだ。
 繋ぎ合わせながら、物理的に重いことを実感した。こんな重いセーターを渡していいのだろうか?という想いがよぎるが、それを打ち消す。手編みのセーターを喜ばないなんて、許さない。予算も編む時間も想定をはるかに超えていたのだから。

 めっちゃ重いセーターを彼は一度着てくれた。重すぎて、セーターが引力でさらにびろーんと下に伸びていたな。それを見て、さすがに申し訳なくいたたまれない気持ちになった。手編みのセータープロジェクトは、達成し終結したのであった。
 想いの重い、物理的に重い、とにかく『おもい』セーターは、その一度きりの晴れ姿で、十分役目を果たしたのであった……。
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