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2021年11月

法要の料理

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 最近、なんの脈略もないようなことをふいに思い出すことが多くなった。
 ふと思い出すのはさっきのことではなくて一年以上前のことで、おそらく――思い出すことが昔のことが多くなってきている。短期記憶の機能が落ちて、長期記憶である子供時代のことで頭の中が埋まっていく。それが老化なのかもしれないと実感し始めている。


 そういうわけで、ふと思い出したことが亡き義父の一周忌法要の料理のことだった。
 義父の葬式を行なった斎場が一周忌を前に、義母にしっかり営業してきたようで義母は法要の料理も頼むことを決めたようだ。別に問題があるわけではないけれど、私は
「葬式で出てきた料理、あんなに不味かったのに、また頼むんだぁ」
 それが不思議だった。義母は味おんちではない、少なくとも私よりは間違いない舌をもっている。なのに何故?

 義理両親の自宅で一周忌のお経が終わってお坊さんが帰った。ごく内輪のみとはいえ、葬式のも参列してくれた親しい人々を交え、斎場の仕出し屋さんのセッティングした料理を囲んだ。
 食事が始まって驚いた。
「あれ? 味よくなった? めっちゃ美味しい……」
 驚くほど美味しかった。というか、葬式の時の料理が壊滅的に激マズだったというべきか。
「いや、同じように美味しいよ?」
 私の困惑に、みなが言う。

 そこで気が付いた。義理父は穏やかにゆっくり向こうに逝った。家族の心の準備がちゃんと出来てから逝った。だから、葬式の時も呆然とはならないですんだ。
 でも。葬儀の最中、食べる料理の味は、どれもこれも不味かった。そうなのだ、そうだったのか。
 斎場で出る料理が不味いのではなく、私の舌が味を感じないほどには混乱していた。ということなのだ。
 心がまえが出来ていたと思っていたけれど、結局、味がわからないほど動転していたのだった。
 一周忌の法要を味わいながら、しみじみとなった。

 
 ――ということをふと思い出して書いてみたくなった。確認して驚く。四年たったのか。頭にふとよぎる過去は過去であるほどミルフィーユのように折り重なって圧縮している。
 解凍したその出来事は、どこか揺れて不正確だ。
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