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2020年03月
おみやげまりもの悲劇
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まりもが好きだ。
三月二十九日は「まりもの日」だった。
最近、ツイッターを眺めているのが好きで、阿寒湖がアカウント持っているのを知ってフォローした。そしてまりもの日、阿寒湖がまりもの日にゆるキャラの「まりもっこり」とおしゃべりしているのがタイムラインに流れてきたのには、思わずニコニコしてしまった。
だって、阿寒湖とまりもっこりがおしゃべりしているって現実ではありえないわけで。ネットって面白いなと改めて感じた。
さて本題はここから。私のまりも好きは今に始まったことではない。うん十年前にさかのぼる。社会人になって独り暮らしを始めた頃のこと。おみやげ用の人工まりもをもらった。けっこう大きなまりもだった。
まんまるのまりもが密封された瓶の水中でコロンとしているのが、なんとも可愛かった。当時、ネットがなかったのでまりもを大事に育てる方法がよくわからなかった。
たまに瓶のふたを開けて水を取り替える。それが正解かどうかわからない。なんせ「藻」だしね。とにかく可愛いと思ったし、自分では大切に思っていたのだ。
ところが北海道で独り暮らしをしていて、冬に留守にしたそこにまりもを置いたままにしてしまったのだ。
帰宅したとき、まりもが! まりもの入った瓶ごと凍ってしまっていたのだ。なんという失態! 暖房をつけ瓶の中の氷が解けていった。まりもは水の中でまるいままだ。復活したのかどうか、まりもは語ってくれない。ただ緑色の丸い形で解けた水の中で浮いている。
まりもを凍らせたことは、失態だった。深く反省した私は、まりもを部屋に放置するのを止めた。具体的にいうと、勤務していた会社に持っていくことにしたのだ。
与えられたロッカーにまりもを入れる。これで再凍結は防げる。ロッカーにまりもを入れるのを、同僚に見つかった。
「どうしたの、それ?」
当然の疑問である。
「まりも凍らせてしまったから、冬季間、会社に持ってくることにしたんです」
「まりもが凍った? だから持参することにしたの?」
同僚は珍妙な声をあげた。当時、親元から勤務する女性が多かったので、一人暮らしで陥る悲劇はあまり理解できなかったのだと思う。仕方がない。
同僚は私の行動を珍妙に思ったけれど、まりもには優しかった。
「ロッカーの中じゃ暗いんじゃないの?」
そういってロッカーの上に乗せておくことを勧めてくれたのだ。私もまりものためにはロッカーの中より外の方の方がいいという意見に賛同したので、ロッカーの上にまりもを置いた。
そういうわけで、私がまりもを持って出勤していることは会社に広く知れ渡ってしまった。まぁ、まりもは騒ぐわけでないし、苦情はこなかった。
春になり、凍る心配はなくなったのでまりもとの同伴出勤は終了した。しかし、そのころになってやはり凍ったダメージがでていたのか、まりもが茶色に変色してしまった。まりもは凍らせちゃダメなんだな、たぶん。
会社にまで同伴したまりもゆえ、愛着はあったが、育てるのは失敗した。
そして、二回目。結婚してから夫と阿寒湖に行っておみやげまりもを購入した。専業主婦だったので日中家にいる。今度はまりもが凍ることはない。
当時、我が家は水槽で金魚を飼っていた。水槽は長さ六十センチのまぁまぁ本格的な水槽だった。ある日、瓶詰めのまりもが窮屈でないかなと、ふと思った。
六十センチの大きな水槽には金魚は三匹ほどゆらゆらしているだけだ。まりもを水槽に入れてやってもいいんじゃね? と私は思いついた。
瓶詰めより広いし、水槽の底で転がっているほうが水質もいいだろうし(水槽はろ過装置ついているので)。単純に考えて行動に移してしまった。
水槽の底でまりもがコロコロしているのが微笑ましたかった。
一晩たって水槽を見た私は驚いた。まりもが消えていたのだ! まりもが逃げるわけがない。ならば、考えられる原因はたった一つだった。金魚が食べてしまったということだ。金魚がまりもを食べるから注意してね、なんて金魚の飼育本に書いていないのだが、まりもが消滅した理由はそれしか考えられないではないか。私の軽率な行動で二回目のまりも飼いも失敗してしまったのだ。
以降、まりもは飼っていない。二度の悲惨な失敗から数多くを学んだものの、三度目のまりも飼いへの挑戦予定はいまのところない。
おみやげまりもを飼う時には凍らせないことと、金魚に食べられないように注意することだけは、気を付けて欲しいと強く訴えておきたい。
(おわり)
三月二十九日は「まりもの日」だった。
最近、ツイッターを眺めているのが好きで、阿寒湖がアカウント持っているのを知ってフォローした。そしてまりもの日、阿寒湖がまりもの日にゆるキャラの「まりもっこり」とおしゃべりしているのがタイムラインに流れてきたのには、思わずニコニコしてしまった。
だって、阿寒湖とまりもっこりがおしゃべりしているって現実ではありえないわけで。ネットって面白いなと改めて感じた。
さて本題はここから。私のまりも好きは今に始まったことではない。うん十年前にさかのぼる。社会人になって独り暮らしを始めた頃のこと。おみやげ用の人工まりもをもらった。けっこう大きなまりもだった。
まんまるのまりもが密封された瓶の水中でコロンとしているのが、なんとも可愛かった。当時、ネットがなかったのでまりもを大事に育てる方法がよくわからなかった。
たまに瓶のふたを開けて水を取り替える。それが正解かどうかわからない。なんせ「藻」だしね。とにかく可愛いと思ったし、自分では大切に思っていたのだ。
ところが北海道で独り暮らしをしていて、冬に留守にしたそこにまりもを置いたままにしてしまったのだ。
帰宅したとき、まりもが! まりもの入った瓶ごと凍ってしまっていたのだ。なんという失態! 暖房をつけ瓶の中の氷が解けていった。まりもは水の中でまるいままだ。復活したのかどうか、まりもは語ってくれない。ただ緑色の丸い形で解けた水の中で浮いている。
まりもを凍らせたことは、失態だった。深く反省した私は、まりもを部屋に放置するのを止めた。具体的にいうと、勤務していた会社に持っていくことにしたのだ。
与えられたロッカーにまりもを入れる。これで再凍結は防げる。ロッカーにまりもを入れるのを、同僚に見つかった。
「どうしたの、それ?」
当然の疑問である。
「まりも凍らせてしまったから、冬季間、会社に持ってくることにしたんです」
「まりもが凍った? だから持参することにしたの?」
同僚は珍妙な声をあげた。当時、親元から勤務する女性が多かったので、一人暮らしで陥る悲劇はあまり理解できなかったのだと思う。仕方がない。
同僚は私の行動を珍妙に思ったけれど、まりもには優しかった。
「ロッカーの中じゃ暗いんじゃないの?」
そういってロッカーの上に乗せておくことを勧めてくれたのだ。私もまりものためにはロッカーの中より外の方の方がいいという意見に賛同したので、ロッカーの上にまりもを置いた。
そういうわけで、私がまりもを持って出勤していることは会社に広く知れ渡ってしまった。まぁ、まりもは騒ぐわけでないし、苦情はこなかった。
春になり、凍る心配はなくなったのでまりもとの同伴出勤は終了した。しかし、そのころになってやはり凍ったダメージがでていたのか、まりもが茶色に変色してしまった。まりもは凍らせちゃダメなんだな、たぶん。
会社にまで同伴したまりもゆえ、愛着はあったが、育てるのは失敗した。
そして、二回目。結婚してから夫と阿寒湖に行っておみやげまりもを購入した。専業主婦だったので日中家にいる。今度はまりもが凍ることはない。
当時、我が家は水槽で金魚を飼っていた。水槽は長さ六十センチのまぁまぁ本格的な水槽だった。ある日、瓶詰めのまりもが窮屈でないかなと、ふと思った。
六十センチの大きな水槽には金魚は三匹ほどゆらゆらしているだけだ。まりもを水槽に入れてやってもいいんじゃね? と私は思いついた。
瓶詰めより広いし、水槽の底で転がっているほうが水質もいいだろうし(水槽はろ過装置ついているので)。単純に考えて行動に移してしまった。
水槽の底でまりもがコロコロしているのが微笑ましたかった。
一晩たって水槽を見た私は驚いた。まりもが消えていたのだ! まりもが逃げるわけがない。ならば、考えられる原因はたった一つだった。金魚が食べてしまったということだ。金魚がまりもを食べるから注意してね、なんて金魚の飼育本に書いていないのだが、まりもが消滅した理由はそれしか考えられないではないか。私の軽率な行動で二回目のまりも飼いも失敗してしまったのだ。
以降、まりもは飼っていない。二度の悲惨な失敗から数多くを学んだものの、三度目のまりも飼いへの挑戦予定はいまのところない。
おみやげまりもを飼う時には凍らせないことと、金魚に食べられないように注意することだけは、気を付けて欲しいと強く訴えておきたい。
(おわり)
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