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2019年12月
夢をぶち壊す娘
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父が入院して病状が一進一退を続けていた時のこと。
ハリーポッターの本が世界中でヒットしていた頃だ。
忙しかった父とまともに会話したのは、私の嫁ぎ先近くに父が入院したためだった。
私が子供のころは父は企業戦士で土日なく働いていたし、父が忙しいさなか私は進学就職のため、独り暮らしを始めた。
そのまま結婚してしまったので、父と娘の関係は非常に希薄なものだったのだ。
普通の父と娘の距離感がよくわからない状態で、病院での会話はぎこちなかった。
「必要な物や買ってくる物はない?」
「あ、ストローが欲しい」
「わかった」
そんな会話が中心だった。
父の病状は一進一退しつつも命の収束にゆっくり向かっていた。
高熱が出たがすぐに症状が落ち着いた時のこと。
遠くに住む母が駆けつける前に父は小康状態となり、母は病院までくるのを一旦とりやめた。
そのため熱が下がった父の元に私が行くと、父は話したいことがあると私を待ち構えていた、目をキラキラさせて。
「どうしたの?」
「熱が出ている間、俺はとうとう三途の川を見てきたぞ」
とちょっと得意げに父は話しだした。
「三途の川と言ったが、川でなかったぞ。洋風のお城があって、城を囲む大きな高い塀があった」
「俺はマントを羽織っていて、門をくぐろうとすると、鎧を着た兵隊が俺を止めたんだ」
すごいおしゃれな三途の川だったと得意げに言う父に、私は言った。
「それ、三途の川でないから。単なる夢。お父さん、夢ってね現実に起こったことを頭の中で整理する現象らしいから」
「その夢はハリーポッターの本を読んだ内容でしょ」
父の枕元には、父が本の重さに耐えきれなくて読むのをやめてしまったハリーポッターの新刊が置いてあった。私はそれを差しながら、理路整然と言い返したので、父は反論できずに押し黙ってしまった。
後になってひどいことを言ったと思ったけれど、私は父の言う三途の川という言葉を否定したかったのだと思う。
しかし、私の本意は父に伝わっていないと今も思う。仲が悪かったわけではないけれど、父と娘としての関係は希薄だった。したがって言葉を補完できるほど、スムーズな親子関係とはいえなかったと思うのだ。
それから二か月ほどして、父が本当に三途の川を渡った。
父の三途の川が、父の夢で見た洋風のお城への入場だったらいいな。もう答えてはもらえないけどね。
何年もたっているのに、ふっと思い出すのは、入院中の父とのやり取りだ。親子関係が希薄だった中で、一番親子をやっていた時間だったのだなと思う。
宣伝。作者の「ぽんたしろお」をクリックすると
童話、体験記、ファンタジー、R18(^^;まで幅広いジャンルの作品を置いてあります。
読んでみていただければ幸いです。面白いと思ってもらえたらいいな。
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普通の父と娘の距離感がよくわからない状態で、病院での会話はぎこちなかった。
「必要な物や買ってくる物はない?」
「あ、ストローが欲しい」
「わかった」
そんな会話が中心だった。
父の病状は一進一退しつつも命の収束にゆっくり向かっていた。
高熱が出たがすぐに症状が落ち着いた時のこと。
遠くに住む母が駆けつける前に父は小康状態となり、母は病院までくるのを一旦とりやめた。
そのため熱が下がった父の元に私が行くと、父は話したいことがあると私を待ち構えていた、目をキラキラさせて。
「どうしたの?」
「熱が出ている間、俺はとうとう三途の川を見てきたぞ」
とちょっと得意げに父は話しだした。
「三途の川と言ったが、川でなかったぞ。洋風のお城があって、城を囲む大きな高い塀があった」
「俺はマントを羽織っていて、門をくぐろうとすると、鎧を着た兵隊が俺を止めたんだ」
すごいおしゃれな三途の川だったと得意げに言う父に、私は言った。
「それ、三途の川でないから。単なる夢。お父さん、夢ってね現実に起こったことを頭の中で整理する現象らしいから」
「その夢はハリーポッターの本を読んだ内容でしょ」
父の枕元には、父が本の重さに耐えきれなくて読むのをやめてしまったハリーポッターの新刊が置いてあった。私はそれを差しながら、理路整然と言い返したので、父は反論できずに押し黙ってしまった。
後になってひどいことを言ったと思ったけれど、私は父の言う三途の川という言葉を否定したかったのだと思う。
しかし、私の本意は父に伝わっていないと今も思う。仲が悪かったわけではないけれど、父と娘としての関係は希薄だった。したがって言葉を補完できるほど、スムーズな親子関係とはいえなかったと思うのだ。
それから二か月ほどして、父が本当に三途の川を渡った。
父の三途の川が、父の夢で見た洋風のお城への入場だったらいいな。もう答えてはもらえないけどね。
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