54 / 59
2019年12月
夢をぶち壊す娘
しおりを挟む
父が入院して病状が一進一退を続けていた時のこと。
ハリーポッターの本が世界中でヒットしていた頃だ。
忙しかった父とまともに会話したのは、私の嫁ぎ先近くに父が入院したためだった。
私が子供のころは父は企業戦士で土日なく働いていたし、父が忙しいさなか私は進学就職のため、独り暮らしを始めた。
そのまま結婚してしまったので、父と娘の関係は非常に希薄なものだったのだ。
普通の父と娘の距離感がよくわからない状態で、病院での会話はぎこちなかった。
「必要な物や買ってくる物はない?」
「あ、ストローが欲しい」
「わかった」
そんな会話が中心だった。
父の病状は一進一退しつつも命の収束にゆっくり向かっていた。
高熱が出たがすぐに症状が落ち着いた時のこと。
遠くに住む母が駆けつける前に父は小康状態となり、母は病院までくるのを一旦とりやめた。
そのため熱が下がった父の元に私が行くと、父は話したいことがあると私を待ち構えていた、目をキラキラさせて。
「どうしたの?」
「熱が出ている間、俺はとうとう三途の川を見てきたぞ」
とちょっと得意げに父は話しだした。
「三途の川と言ったが、川でなかったぞ。洋風のお城があって、城を囲む大きな高い塀があった」
「俺はマントを羽織っていて、門をくぐろうとすると、鎧を着た兵隊が俺を止めたんだ」
すごいおしゃれな三途の川だったと得意げに言う父に、私は言った。
「それ、三途の川でないから。単なる夢。お父さん、夢ってね現実に起こったことを頭の中で整理する現象らしいから」
「その夢はハリーポッターの本を読んだ内容でしょ」
父の枕元には、父が本の重さに耐えきれなくて読むのをやめてしまったハリーポッターの新刊が置いてあった。私はそれを差しながら、理路整然と言い返したので、父は反論できずに押し黙ってしまった。
後になってひどいことを言ったと思ったけれど、私は父の言う三途の川という言葉を否定したかったのだと思う。
しかし、私の本意は父に伝わっていないと今も思う。仲が悪かったわけではないけれど、父と娘としての関係は希薄だった。したがって言葉を補完できるほど、スムーズな親子関係とはいえなかったと思うのだ。
それから二か月ほどして、父が本当に三途の川を渡った。
父の三途の川が、父の夢で見た洋風のお城への入場だったらいいな。もう答えてはもらえないけどね。
何年もたっているのに、ふっと思い出すのは、入院中の父とのやり取りだ。親子関係が希薄だった中で、一番親子をやっていた時間だったのだなと思う。
宣伝。作者の「ぽんたしろお」をクリックすると
童話、体験記、ファンタジー、R18(^^;まで幅広いジャンルの作品を置いてあります。
読んでみていただければ幸いです。面白いと思ってもらえたらいいな。
ハリーポッターの本が世界中でヒットしていた頃だ。
忙しかった父とまともに会話したのは、私の嫁ぎ先近くに父が入院したためだった。
私が子供のころは父は企業戦士で土日なく働いていたし、父が忙しいさなか私は進学就職のため、独り暮らしを始めた。
そのまま結婚してしまったので、父と娘の関係は非常に希薄なものだったのだ。
普通の父と娘の距離感がよくわからない状態で、病院での会話はぎこちなかった。
「必要な物や買ってくる物はない?」
「あ、ストローが欲しい」
「わかった」
そんな会話が中心だった。
父の病状は一進一退しつつも命の収束にゆっくり向かっていた。
高熱が出たがすぐに症状が落ち着いた時のこと。
遠くに住む母が駆けつける前に父は小康状態となり、母は病院までくるのを一旦とりやめた。
そのため熱が下がった父の元に私が行くと、父は話したいことがあると私を待ち構えていた、目をキラキラさせて。
「どうしたの?」
「熱が出ている間、俺はとうとう三途の川を見てきたぞ」
とちょっと得意げに父は話しだした。
「三途の川と言ったが、川でなかったぞ。洋風のお城があって、城を囲む大きな高い塀があった」
「俺はマントを羽織っていて、門をくぐろうとすると、鎧を着た兵隊が俺を止めたんだ」
すごいおしゃれな三途の川だったと得意げに言う父に、私は言った。
「それ、三途の川でないから。単なる夢。お父さん、夢ってね現実に起こったことを頭の中で整理する現象らしいから」
「その夢はハリーポッターの本を読んだ内容でしょ」
父の枕元には、父が本の重さに耐えきれなくて読むのをやめてしまったハリーポッターの新刊が置いてあった。私はそれを差しながら、理路整然と言い返したので、父は反論できずに押し黙ってしまった。
後になってひどいことを言ったと思ったけれど、私は父の言う三途の川という言葉を否定したかったのだと思う。
しかし、私の本意は父に伝わっていないと今も思う。仲が悪かったわけではないけれど、父と娘としての関係は希薄だった。したがって言葉を補完できるほど、スムーズな親子関係とはいえなかったと思うのだ。
それから二か月ほどして、父が本当に三途の川を渡った。
父の三途の川が、父の夢で見た洋風のお城への入場だったらいいな。もう答えてはもらえないけどね。
何年もたっているのに、ふっと思い出すのは、入院中の父とのやり取りだ。親子関係が希薄だった中で、一番親子をやっていた時間だったのだなと思う。
宣伝。作者の「ぽんたしろお」をクリックすると
童話、体験記、ファンタジー、R18(^^;まで幅広いジャンルの作品を置いてあります。
読んでみていただければ幸いです。面白いと思ってもらえたらいいな。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜
珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。
2匹の怪獣さんの母です。11歳の娘と5歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。
毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)
オタクと鬱で人生暇で忙しい
椿山
エッセイ・ノンフィクション
金と愛と時間を手に入れたけど、自分自身には何にもない。鬱病で何もできないから今日も暇だけど、オタクで情緒が忙しい。アスペルガー症候群と重症の鬱病で医者を辞めたバツイチオタクの雑多な話です。
※エッセイになっているのかわかりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる