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葛藤と苦悩から生まれる世界(ユリカ編)
13話 混乱する思考
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長い口づけと抱擁。
あたりはすっかり暗くなっていた。アールが見ている。カーラが見ている。なのに。二人は互いを求め続けた。感情がもつれ絡み合う。
いつから愛していたのだろう? 小さな点にすぎなかった感情が静かにしかし驚くほど心の中に広がっていた。突然二人は気が付いたのだ。
指が絡みもつれ、唇を重ね合わせ、互いを全身で感じあう。
「溶けて混ざってしまいたい」
リロイの激しい息遣いにユリカが呼応して身を震わせた。
ユリカとリロイが、ようやく、ようやくの想いで互いのからだをひき離した。視線が名残り惜しく絡みあう。その視線を二人は外した。
互いのパートナーの元へ二人は向かった。
ユリカにアールがそっと近寄って手を握る。ユリカはアールの顔を見ることが出来なかった。
「帰ろう」
アールがゆっくり、ユリカの腕を引っ張り促した。
「アール、ごめ……」
「謝ることは何もない」
ユリカの言葉をアールは優しくさえぎった。
しかし、ユリカは身の置き所のない気持ちを感じていた。
帰宅すると、アールが言った。
「一人になりたいんだろ?」
ユリカがおずおずとアールの顔を見た。
「考えたいことがあるはずだ」
アールが語気を強めた。
「僕に対する遠慮は一切考えるな」
ユリカの答えを待たずに、アールは自室に消えた。
「あ……」
居間に取り残されたユリカはソファーに座り込んでしばらく天上を仰ぎみていた。
なぜ、リロイとキスをしてしまったのか? なぜ自然に抱きあってしまったのか? 『捧げられた眠り』に対する考え方に対する、アールとの間にあった齟齬。
パートナー型アバターと人間。アールとリロイ。ユリカとアール。カーラとリロイ。ユリカとカーラ。そして、
「私とリロイ……」
ユリカは顔を覆う。そのまま仮想空間に入って、リロイに呼びかけた。
「リロイ、リロイ……」
話したかった。混乱する思考の中で、ユリカはリロイを呼んだ。いつも寄り添ってくれるアールを今は頼ることは出来ない。その状態を作ったのは、ユリカ自身なのだ。
「ユリカ」
仮想空間にリロイが現れた。
「カーラは?」
ユキコが尋ねると
「独りで考えろって」
とリロイ。
「同じだね。なのに独りでは何も考えられない」
ユリカの声が震えた。
「僕たち、今のシステムから、はみ出してしまったんだろうか?」
二人はその意味をかみしめる。
「愛している……」
「僕も愛している」
告白しあう。同時に事態の難しさに二人は途方にくれる。
かけがえのないパートナーがいるのに、その献身的な愛情を二人は裏切ってしまった。
パートナー型アバターと人がカップルとして愛し合う前提のシステムの一線を、リロイとユリカは超えてしまったのだ。
ユリカは仮想空間を抜け、独りで再び考える。リロイを愛している。その気持ちは進行形で膨張していく。
「アールと話さなきゃいけない」
ユリカはむき出しになった残酷さに自らうちのめされた。
アールを愛していた。ともに分散型居住区で過ごした時間に嘘偽りはない。でも。コロニーに来てしまった。リロイに会ってしまった。リロイをずっと愛していることに突然気が付いてしまった。
気持ちに嘘を付けない、ユリカは顔を両手で覆う。覆われたスキマから涙が伝って流れ落ちる。いつまでも涙はとまらなかった……。
サザンクロス まだ見ぬ君へ――ユリカは出会ってしまった、気づいてしまったのだ。
(つづく)
あたりはすっかり暗くなっていた。アールが見ている。カーラが見ている。なのに。二人は互いを求め続けた。感情がもつれ絡み合う。
いつから愛していたのだろう? 小さな点にすぎなかった感情が静かにしかし驚くほど心の中に広がっていた。突然二人は気が付いたのだ。
指が絡みもつれ、唇を重ね合わせ、互いを全身で感じあう。
「溶けて混ざってしまいたい」
リロイの激しい息遣いにユリカが呼応して身を震わせた。
ユリカとリロイが、ようやく、ようやくの想いで互いのからだをひき離した。視線が名残り惜しく絡みあう。その視線を二人は外した。
互いのパートナーの元へ二人は向かった。
ユリカにアールがそっと近寄って手を握る。ユリカはアールの顔を見ることが出来なかった。
「帰ろう」
アールがゆっくり、ユリカの腕を引っ張り促した。
「アール、ごめ……」
「謝ることは何もない」
ユリカの言葉をアールは優しくさえぎった。
しかし、ユリカは身の置き所のない気持ちを感じていた。
帰宅すると、アールが言った。
「一人になりたいんだろ?」
ユリカがおずおずとアールの顔を見た。
「考えたいことがあるはずだ」
アールが語気を強めた。
「僕に対する遠慮は一切考えるな」
ユリカの答えを待たずに、アールは自室に消えた。
「あ……」
居間に取り残されたユリカはソファーに座り込んでしばらく天上を仰ぎみていた。
なぜ、リロイとキスをしてしまったのか? なぜ自然に抱きあってしまったのか? 『捧げられた眠り』に対する考え方に対する、アールとの間にあった齟齬。
パートナー型アバターと人間。アールとリロイ。ユリカとアール。カーラとリロイ。ユリカとカーラ。そして、
「私とリロイ……」
ユリカは顔を覆う。そのまま仮想空間に入って、リロイに呼びかけた。
「リロイ、リロイ……」
話したかった。混乱する思考の中で、ユリカはリロイを呼んだ。いつも寄り添ってくれるアールを今は頼ることは出来ない。その状態を作ったのは、ユリカ自身なのだ。
「ユリカ」
仮想空間にリロイが現れた。
「カーラは?」
ユキコが尋ねると
「独りで考えろって」
とリロイ。
「同じだね。なのに独りでは何も考えられない」
ユリカの声が震えた。
「僕たち、今のシステムから、はみ出してしまったんだろうか?」
二人はその意味をかみしめる。
「愛している……」
「僕も愛している」
告白しあう。同時に事態の難しさに二人は途方にくれる。
かけがえのないパートナーがいるのに、その献身的な愛情を二人は裏切ってしまった。
パートナー型アバターと人がカップルとして愛し合う前提のシステムの一線を、リロイとユリカは超えてしまったのだ。
ユリカは仮想空間を抜け、独りで再び考える。リロイを愛している。その気持ちは進行形で膨張していく。
「アールと話さなきゃいけない」
ユリカはむき出しになった残酷さに自らうちのめされた。
アールを愛していた。ともに分散型居住区で過ごした時間に嘘偽りはない。でも。コロニーに来てしまった。リロイに会ってしまった。リロイをずっと愛していることに突然気が付いてしまった。
気持ちに嘘を付けない、ユリカは顔を両手で覆う。覆われたスキマから涙が伝って流れ落ちる。いつまでも涙はとまらなかった……。
サザンクロス まだ見ぬ君へ――ユリカは出会ってしまった、気づいてしまったのだ。
(つづく)
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