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君とともに歩む未来(ヤマト編)
20話 アデルとニーナ
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ヤマトは支援アバターを一体欠いた状態、かつアデルが作業できない状態で何がベストかを考える。
単純なことだった。
「焦らない、着実に作業を積み上げていく」
事故を起こさないで作業を進める、叩き込まれた基本を全く実践していなかった。
「さて、やりますか」
言葉に出したが反応するアデルは、今日、外には出てこない。独りは寂しい、一瞬頭をかすめた感情をヤマトは首をふって切り離した。
リビングルームでは、アデルが事故が起こった経緯と原因、その後の行動をまとめるレポート作成を続けていた。ヒューマンエラーという言葉を何回も使うごとに、自らを責めた。しかし、自己嫌悪で終わってしまってはレポートにまとめる意味はない。改善点の考察を始める。安全とは何か? 自分が起因してアバターが壊れた意味は何か?
壊れたアバターに助けられた自分が為すべきことは?
アデルはふと思った。
「私、パートナー型アバターと接触したことがない」
頭に浮かんだのはニーナだった。
アデルはレポート作業を中断すると、仮想空間にログインした。
ニーナはすぐに見つかった。第一世代の現状をネット上に流し続けていた。人々の興味は『監禁されていること』にあった。ニーナは好奇心には一切、反応しない。
情報を淡々と流し続けるニーナを見て、アデルは一瞬、ニーナがアバターには見えなかった。
美しいオーラをまとった存在感に圧倒されたのだ。アデルの遺伝子上の母親をモデルにしているアバターだから容姿は、自分と似ているとアデルは思った。
しかし、アデルにはない存在感が、その美しさを際立たせている。
「ヤマトが一目ぼれしたのもわかる」
アデルはそっとニーナを見つめ続けた。
ニーナの流す情報をアデルは受け止める。パートナー型アバターと暮らした経験がないアデルのとって、第一世代は、別世界の存在だった、と改めて気づく。
興味を持ったのは、分散型コロニーに実習に来たから。ヤマトという存在を介して知ったニーナがいたから。それだけだった。
ニーナの流す情報はカイトを想う愛情にあふれ、アバターなのに情報が偏向していた。アデルの知るアバターとパートナー型は明らかに違う存在感を放っていた。
一方的に情報を発信していたニーナが、アデルに気が付いた。
「アデルさん……?」
「あっ。あの、はい」
ニーナはアデルに関する情報を素早くかき集め、現在の状況を把握した。
「ヤマトさんと、千歳区にいるんですね?」
ニーナが尋ねてきた。アデルはうろたえた。パートナー型アバターを知りたいと思って、突発的に行動してしまったが、その後のことを一切考えていないことに、アデルは気が付いたからだ。
「えっと」
口ごもっていると、ニーナが言った。
「説明しなくても、大まかなことは把握しました。パートナー型アバターに興味を持ってくれて嬉しいです」
ニーナの言葉に、ようやくアデルが答えた。
「今まで、パートナー型のアバターに一切関心を持っていなかったのです、それで知りたいと思った」
ニーナがふんわり笑った。
「私と会って、率直に何をあなたは感じていますか?」
ニーナの笑みは、アデルを包み込む。その包容力にアデルは身を委ねたくなった。しかし、踏み止まる。
「底が見えない包容力を、たった一人の人間の注ぎ込んでいることを感じます」
そして続けた。
「だからこそ、あなたの発信する情報は、偏りすぎている」
ニーナは黒い瞳で、アデルを呑み込まんばかりに凝視した。
「私が監禁されていることには、興味がないのですか?」
アデルは大きく首を傾げた。
「ニーナさんの置かれている状態については別に」
アデルはばっさり言い切った。
「アバターは人間のための存在で、カイトさんが望むなら私が介入できる問題ではない」
ひどいことを言っているとアデルは思った。しかし、ニーナは静かにアデルの言葉を受け止めていた。
「では、あなたが私に会いに来たのはなぜですか?」
ニーナの問いが、アデルの疑問を明確にした。
「アバターと人の距離感の在り方を知るために」
(つづく)
単純なことだった。
「焦らない、着実に作業を積み上げていく」
事故を起こさないで作業を進める、叩き込まれた基本を全く実践していなかった。
「さて、やりますか」
言葉に出したが反応するアデルは、今日、外には出てこない。独りは寂しい、一瞬頭をかすめた感情をヤマトは首をふって切り離した。
リビングルームでは、アデルが事故が起こった経緯と原因、その後の行動をまとめるレポート作成を続けていた。ヒューマンエラーという言葉を何回も使うごとに、自らを責めた。しかし、自己嫌悪で終わってしまってはレポートにまとめる意味はない。改善点の考察を始める。安全とは何か? 自分が起因してアバターが壊れた意味は何か?
壊れたアバターに助けられた自分が為すべきことは?
アデルはふと思った。
「私、パートナー型アバターと接触したことがない」
頭に浮かんだのはニーナだった。
アデルはレポート作業を中断すると、仮想空間にログインした。
ニーナはすぐに見つかった。第一世代の現状をネット上に流し続けていた。人々の興味は『監禁されていること』にあった。ニーナは好奇心には一切、反応しない。
情報を淡々と流し続けるニーナを見て、アデルは一瞬、ニーナがアバターには見えなかった。
美しいオーラをまとった存在感に圧倒されたのだ。アデルの遺伝子上の母親をモデルにしているアバターだから容姿は、自分と似ているとアデルは思った。
しかし、アデルにはない存在感が、その美しさを際立たせている。
「ヤマトが一目ぼれしたのもわかる」
アデルはそっとニーナを見つめ続けた。
ニーナの流す情報をアデルは受け止める。パートナー型アバターと暮らした経験がないアデルのとって、第一世代は、別世界の存在だった、と改めて気づく。
興味を持ったのは、分散型コロニーに実習に来たから。ヤマトという存在を介して知ったニーナがいたから。それだけだった。
ニーナの流す情報はカイトを想う愛情にあふれ、アバターなのに情報が偏向していた。アデルの知るアバターとパートナー型は明らかに違う存在感を放っていた。
一方的に情報を発信していたニーナが、アデルに気が付いた。
「アデルさん……?」
「あっ。あの、はい」
ニーナはアデルに関する情報を素早くかき集め、現在の状況を把握した。
「ヤマトさんと、千歳区にいるんですね?」
ニーナが尋ねてきた。アデルはうろたえた。パートナー型アバターを知りたいと思って、突発的に行動してしまったが、その後のことを一切考えていないことに、アデルは気が付いたからだ。
「えっと」
口ごもっていると、ニーナが言った。
「説明しなくても、大まかなことは把握しました。パートナー型アバターに興味を持ってくれて嬉しいです」
ニーナの言葉に、ようやくアデルが答えた。
「今まで、パートナー型のアバターに一切関心を持っていなかったのです、それで知りたいと思った」
ニーナがふんわり笑った。
「私と会って、率直に何をあなたは感じていますか?」
ニーナの笑みは、アデルを包み込む。その包容力にアデルは身を委ねたくなった。しかし、踏み止まる。
「底が見えない包容力を、たった一人の人間の注ぎ込んでいることを感じます」
そして続けた。
「だからこそ、あなたの発信する情報は、偏りすぎている」
ニーナは黒い瞳で、アデルを呑み込まんばかりに凝視した。
「私が監禁されていることには、興味がないのですか?」
アデルは大きく首を傾げた。
「ニーナさんの置かれている状態については別に」
アデルはばっさり言い切った。
「アバターは人間のための存在で、カイトさんが望むなら私が介入できる問題ではない」
ひどいことを言っているとアデルは思った。しかし、ニーナは静かにアデルの言葉を受け止めていた。
「では、あなたが私に会いに来たのはなぜですか?」
ニーナの問いが、アデルの疑問を明確にした。
「アバターと人の距離感の在り方を知るために」
(つづく)
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