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君とともに歩む未来(ヤマト編)
9話 厚み分の壁
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ヤマトはルームウエアを、アデルはセーターを着なおした。モゾモゾとする音が、互いに気まずい。
それでも、二人はソファーに並んで座りなおした。
ヤマトがアデルの肩を自然に抱きよせると、ヤマトの肩にアデルが頭を載せてきた。ヤマトがアデルの頭を優しく撫でた。
静かな時間が流れる。
やがてアデルがヤマトの肩にもたれかかったまま、つぶやいた。
「コンドームって、いつから生産が再開したんだっけ?」
ヤマトが即答した。
「十八年前。僕と同じ年だ」
ヤマトが続ける。
「オーストラリアの実験コロニーが稼働後、生産が開始した」
アデルはキャンディみたいに包装されたコンドームをそっと手に取った。
「リリカの父のリロイさんと母のユリカさんがきっかけ」
ヤマトの言葉を受けてアデルが言った。
「それは聞いたことがある。恋愛に必要な物だからだって」
アデルは続けて尋ねた。
「リリカさんが生れたのって、どのタイミングなの?」
「コンドームの生産開始前だよ。何回も話し合って意思確認しあって、そして生まれた大切な子供だって聞いた」
「やっぱり、ヤマトやリリカさんは人類にとって、シンボル的存在なんだよね」
「う、うーん……」
その話になるとやはりヤマトは気が重い。少しでも話題をずらしたかった。
「でもさ、第一世代の母さんの卵子提供義務が終わったのって、数年前」
「え、そうなの?」
アデルは初めて聞く話で驚いた。
「毎月一回、母さんの機嫌が極端に悪くなってバートと喧嘩が増えるから、今月もきたなって思っていた」
ヤマトは続ける。
「コンドームの生産はとっくに開始していたのに、母さんの卵子提供義務は続いていたんだ」
「なんか矛盾してるね」
アデルが言うとヤマトも頷いた。再びしんみりした空気が二人を包む。
「で。ヤマトの最初の人って誰?」
いきなりアデルが場の雰囲気をぶち壊してきた。いや、流れ変えすぎだろ、とヤマトは視線を宙に泳がした。
「リリカさん?」
「……」
「……」
沈黙に負けたのはヤマトだった。
「リリカと付き合ったつもりはない。断った。断ったけど……」
「でもやったんだ?」
「……ここに来るちょっと前」
ヤマトは言いづらそうだが、アデルの白状せよという無言の圧力に屈した。
「どうしても確かめたい、と言われてさ」
「押しに弱いんだね」
アデルは呆れるしかなかった。と言いつつ。かくいう自分もヤマトを精神的に押し倒したようなものだと、アデルは思う。
「でも、やっぱりニーナさんだった、と」
ヤマトはがっくりと肩を落とす。気がつけばアデルがヤマトの頭を撫でていた。
「コンドームってさ」
アデルは言う。
「その厚みが相手を想う気持ちで、同時に壁なんだと私は思う」
ヤマトはその真意を問いたくて顔をアデルに向けた。
「コンドームの壁があるから、あなたはニーナさんを抱けばいいの」
そしてまたアデルは破顔一笑。
「私は、ヤマトに対して壁を隔てた向こう側にいるだけだよ」
(つづく)
それでも、二人はソファーに並んで座りなおした。
ヤマトがアデルの肩を自然に抱きよせると、ヤマトの肩にアデルが頭を載せてきた。ヤマトがアデルの頭を優しく撫でた。
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やがてアデルがヤマトの肩にもたれかかったまま、つぶやいた。
「コンドームって、いつから生産が再開したんだっけ?」
ヤマトが即答した。
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アデルは続けて尋ねた。
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「コンドームの生産開始前だよ。何回も話し合って意思確認しあって、そして生まれた大切な子供だって聞いた」
「やっぱり、ヤマトやリリカさんは人類にとって、シンボル的存在なんだよね」
「う、うーん……」
その話になるとやはりヤマトは気が重い。少しでも話題をずらしたかった。
「でもさ、第一世代の母さんの卵子提供義務が終わったのって、数年前」
「え、そうなの?」
アデルは初めて聞く話で驚いた。
「毎月一回、母さんの機嫌が極端に悪くなってバートと喧嘩が増えるから、今月もきたなって思っていた」
ヤマトは続ける。
「コンドームの生産はとっくに開始していたのに、母さんの卵子提供義務は続いていたんだ」
「なんか矛盾してるね」
アデルが言うとヤマトも頷いた。再びしんみりした空気が二人を包む。
「で。ヤマトの最初の人って誰?」
いきなりアデルが場の雰囲気をぶち壊してきた。いや、流れ変えすぎだろ、とヤマトは視線を宙に泳がした。
「リリカさん?」
「……」
「……」
沈黙に負けたのはヤマトだった。
「リリカと付き合ったつもりはない。断った。断ったけど……」
「でもやったんだ?」
「……ここに来るちょっと前」
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「どうしても確かめたい、と言われてさ」
「押しに弱いんだね」
アデルは呆れるしかなかった。と言いつつ。かくいう自分もヤマトを精神的に押し倒したようなものだと、アデルは思う。
「でも、やっぱりニーナさんだった、と」
ヤマトはがっくりと肩を落とす。気がつけばアデルがヤマトの頭を撫でていた。
「コンドームってさ」
アデルは言う。
「その厚みが相手を想う気持ちで、同時に壁なんだと私は思う」
ヤマトはその真意を問いたくて顔をアデルに向けた。
「コンドームの壁があるから、あなたはニーナさんを抱けばいいの」
そしてまたアデルは破顔一笑。
「私は、ヤマトに対して壁を隔てた向こう側にいるだけだよ」
(つづく)
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