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その後の世界で君とともに(本編)
22話 問いかけ
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大戦から五十年以上たった。カイトが四十歳を目前にしたある日、その衝撃的な話が飛び込んできた。
『旧世代』の一人が亡くなった、と。
居住区域内の機器点検中、突然発生した落雷の事故でパートナーが壊れたのだ。修理を試みようとしたが、必要な部品が揃わずアバターは再起動に失敗した。
動かないパートナーを抱えて自らの命を断った。
この事件は、パートナー型アバターと共に分散型居住区で暮らす『旧世代』に大きな衝撃を与えた。
カイトの精神的な打撃も大きかった。
仲間である『旧世代』の一人を失った悲しみ。しかし、それにも増してパートナーを失う恐怖が現実として突きつけられたからだ。
「区域内管理は全部僕がチェックする。君を壊して失うわけにはいかない」
アバターは人の生活を助ける存在だ。ニーナは反論したが、カイトは耳をかそうとしなかった。
「駄目だ。君を失うわけにはいかない。壊すわけにはいかない。僕が耐えられないんだ!」
カイトはニーナに強く命令した、二度と家から出るな、と。
カイトは区域内の管理を一人で始めた。当然効率も落ちるし、不具合の対処は遅れる。一人で作業に追われながら
「僕は何をしているのだろう?」
とカイトは独りごとを漏らした。一人で行う作業はカイトの孤独を深めていく。しかしニーナが壊れたら生きていけない。ニーナを外に出すことは出来なかった。
更にカイトはニーナを抱くこともやめた。失うより抱かない方がマシだった。
パートナー型アバターの修理は今後更に困難さを増していくことは容易に予想できた。
諍いの少なかった『旧世代』間の人間関係が、急激に悪化していった。
パートナー型アバターの修理部品の争奪が事件によって顕在化してしまった。社会からすでに弾きだされた『旧世代』のイザコザに社会は無関心だ。『旧世代』間の問題は内輪で解決しろというのが、世界の主流の考え方だった。
壊れたアバターは分解され、正常な動作確認のとれた部品が他のアバター用の修理ストックになった。
誰かが死ぬことで、相棒のアバターは機能を停止され、リサイクルという名のもとに分解されて部品はストックできる。仲間の死を心のどこかで望む風潮が徐々に濃くなっていった。
なぜ人間はいとも簡単に気持ちがバラバラになってしまうのだろうか?とニーナはカイトに「監禁」されて考えることを繰り返していた
自分の全てを捧げたカイトが己の利にのみ走り、あげく己の欲さえ抹殺する姿がニーナには苦しかった。
カイト、なぜ?
ようやく人口が安定し、大戦前の活気を取り戻しつつあるのに、そのための礎になったカイトが、旧世代が――。
内部崩壊を始めた原因が、ニーナ達アバターであることを容認することはできなかった。
旧世代は社会性は欠如しているが争いを嫌う穏やかに人々だったのに。
カイトを含めた『旧世代』はアバターを失うことを恐れるあまり、仲間の死を願う偏狭な思考へ尖鋭化する悪循環に陥っていた。
突破口はないのだろうか?とニーナは考え続けた。
アバターはパートナーである人に従うのが原則である。その中で出来ることは何か? 世界に向けてニーナの問い始めた。
旧世代の異変の影響に気が付いたのはタウンの管理センターだった。
管理センターはアバターや人々から上がってくるデータを統括的に判断し対応策をとる。人間社会は、常に綱渡りの状態にあるためだ。ライフラインが一か所不具合を起こすと連鎖的に他の不具合を生み出す。
そのため何重にもセーフティーネットをかけてあるにも関わらず、小さな不具合は常に見つかった。大きなトラブルを引き起こす前に穴を塞ぐ、毎日がその繰り返しだった。
旧世代の異変の影響は、最初見過ごされていた。そこへニーナの問いが届いた。
ニーナの問いは、ライフラインの穴を指摘していた。
ニーナの指摘を精査した結果、センターは食料が不足するかもしれないという予想を発表した。
辺境の地で暮らす『旧世代』が生産する食料の出荷量が落ち続ける現象が起き始めていたからだ。
タウン内に、食料や原料を生産する設備はない。
世界各地の分散型居住区が、世界の食料の生産を大きな割合で担っていたのだ。無人の大型食料基地も稼働は始まっていたが、人口の全てを満足させる食料供給には遠く及んでいなかった。
分散型居住区の人にとっては、区域内の設備の維持管理をして生産した物を出荷し代わりに欲しい物と交換する物々交換するだけの認識だった。それが世界の人を下支えする食料生産というライフラインの一部になっている自覚は全くなかったのだ。
パートナー型アバターを失うことを恐れた人々が、アバターを生産管理に携わることを辞めさせたために、結果、食料の生産性が大きく落ち込む事態を引き起こしてしまっていたのである。
人が増えタウンでの活動に世界の比重が移行するなかで、分散型居住システムで暮らす『旧世代』は見捨てられた恰好になっていた。
皮肉なことに、食料不足の予想が出たことで人々は、『旧世代』による分散型居住区での生産が世界の人々を支えていることに気が付いたのだ。
食料不足の危機が起きかけている。ニーナの問いが世界に広まっていく。
「旧世代の生産なしに、世界は生き残れますか?」
一方の『旧世代』も、世界の危機を招いている自覚を持たないでいた。
事態が急変した。
パートナー型アバターの修理部品の生産再開が決まり、時をおかず部品供給が始まった。
一番驚いたのは『旧世代』だった。事がここまで進んで、ようやく偏狭な視野が世界を殺しかけていたことに気が付いたのだった。
(つづく)
『旧世代』の一人が亡くなった、と。
居住区域内の機器点検中、突然発生した落雷の事故でパートナーが壊れたのだ。修理を試みようとしたが、必要な部品が揃わずアバターは再起動に失敗した。
動かないパートナーを抱えて自らの命を断った。
この事件は、パートナー型アバターと共に分散型居住区で暮らす『旧世代』に大きな衝撃を与えた。
カイトの精神的な打撃も大きかった。
仲間である『旧世代』の一人を失った悲しみ。しかし、それにも増してパートナーを失う恐怖が現実として突きつけられたからだ。
「区域内管理は全部僕がチェックする。君を壊して失うわけにはいかない」
アバターは人の生活を助ける存在だ。ニーナは反論したが、カイトは耳をかそうとしなかった。
「駄目だ。君を失うわけにはいかない。壊すわけにはいかない。僕が耐えられないんだ!」
カイトはニーナに強く命令した、二度と家から出るな、と。
カイトは区域内の管理を一人で始めた。当然効率も落ちるし、不具合の対処は遅れる。一人で作業に追われながら
「僕は何をしているのだろう?」
とカイトは独りごとを漏らした。一人で行う作業はカイトの孤独を深めていく。しかしニーナが壊れたら生きていけない。ニーナを外に出すことは出来なかった。
更にカイトはニーナを抱くこともやめた。失うより抱かない方がマシだった。
パートナー型アバターの修理は今後更に困難さを増していくことは容易に予想できた。
諍いの少なかった『旧世代』間の人間関係が、急激に悪化していった。
パートナー型アバターの修理部品の争奪が事件によって顕在化してしまった。社会からすでに弾きだされた『旧世代』のイザコザに社会は無関心だ。『旧世代』間の問題は内輪で解決しろというのが、世界の主流の考え方だった。
壊れたアバターは分解され、正常な動作確認のとれた部品が他のアバター用の修理ストックになった。
誰かが死ぬことで、相棒のアバターは機能を停止され、リサイクルという名のもとに分解されて部品はストックできる。仲間の死を心のどこかで望む風潮が徐々に濃くなっていった。
なぜ人間はいとも簡単に気持ちがバラバラになってしまうのだろうか?とニーナはカイトに「監禁」されて考えることを繰り返していた
自分の全てを捧げたカイトが己の利にのみ走り、あげく己の欲さえ抹殺する姿がニーナには苦しかった。
カイト、なぜ?
ようやく人口が安定し、大戦前の活気を取り戻しつつあるのに、そのための礎になったカイトが、旧世代が――。
内部崩壊を始めた原因が、ニーナ達アバターであることを容認することはできなかった。
旧世代は社会性は欠如しているが争いを嫌う穏やかに人々だったのに。
カイトを含めた『旧世代』はアバターを失うことを恐れるあまり、仲間の死を願う偏狭な思考へ尖鋭化する悪循環に陥っていた。
突破口はないのだろうか?とニーナは考え続けた。
アバターはパートナーである人に従うのが原則である。その中で出来ることは何か? 世界に向けてニーナの問い始めた。
旧世代の異変の影響に気が付いたのはタウンの管理センターだった。
管理センターはアバターや人々から上がってくるデータを統括的に判断し対応策をとる。人間社会は、常に綱渡りの状態にあるためだ。ライフラインが一か所不具合を起こすと連鎖的に他の不具合を生み出す。
そのため何重にもセーフティーネットをかけてあるにも関わらず、小さな不具合は常に見つかった。大きなトラブルを引き起こす前に穴を塞ぐ、毎日がその繰り返しだった。
旧世代の異変の影響は、最初見過ごされていた。そこへニーナの問いが届いた。
ニーナの問いは、ライフラインの穴を指摘していた。
ニーナの指摘を精査した結果、センターは食料が不足するかもしれないという予想を発表した。
辺境の地で暮らす『旧世代』が生産する食料の出荷量が落ち続ける現象が起き始めていたからだ。
タウン内に、食料や原料を生産する設備はない。
世界各地の分散型居住区が、世界の食料の生産を大きな割合で担っていたのだ。無人の大型食料基地も稼働は始まっていたが、人口の全てを満足させる食料供給には遠く及んでいなかった。
分散型居住区の人にとっては、区域内の設備の維持管理をして生産した物を出荷し代わりに欲しい物と交換する物々交換するだけの認識だった。それが世界の人を下支えする食料生産というライフラインの一部になっている自覚は全くなかったのだ。
パートナー型アバターを失うことを恐れた人々が、アバターを生産管理に携わることを辞めさせたために、結果、食料の生産性が大きく落ち込む事態を引き起こしてしまっていたのである。
人が増えタウンでの活動に世界の比重が移行するなかで、分散型居住システムで暮らす『旧世代』は見捨てられた恰好になっていた。
皮肉なことに、食料不足の予想が出たことで人々は、『旧世代』による分散型居住区での生産が世界の人々を支えていることに気が付いたのだ。
食料不足の危機が起きかけている。ニーナの問いが世界に広まっていく。
「旧世代の生産なしに、世界は生き残れますか?」
一方の『旧世代』も、世界の危機を招いている自覚を持たないでいた。
事態が急変した。
パートナー型アバターの修理部品の生産再開が決まり、時をおかず部品供給が始まった。
一番驚いたのは『旧世代』だった。事がここまで進んで、ようやく偏狭な視野が世界を殺しかけていたことに気が付いたのだった。
(つづく)
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