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その後の世界で君とともに(本編)

14話 融合

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 ニーナは、用意されたベッドルームにカイトを引きずってきた。カイトはヨロヨロとベッドに倒れ込んだ。
 ふぅ、と小さなため息をつくとニーナはカイトの横に滑り込んだ。カイトを抱き込むようにして、背中に回した手で優しくカイトの背中をさする。
 カイトの寝息をききながら、ニーナは抱き込んだカイトの背中をさすり続けた。
「まだ二日間、あなたは私から離れたまま」
 抱きかかえたカイトをこんなに遠く感じたことはなかった。ニーナの伏せた目のまつ毛が震えていた。
 アバターが感じる「嫉妬」は、人間の感情とどれほど違うのか、ニーナにはわからない。人間とアバターの違いがこれほどもどかしいものなのか、とニーナは思う。
 アバターの自分と人間のカイトにある溝は永遠に埋まることはない。

 朝、ユキコとカイトは、寝ぼけたまま朝食をとっていた。
「そろそろ、目を覚ませよ」
 バートがぶつぶつ言いながら、コーヒーを二人の前に置いた。
「うん、わかってる」
 答えるものの、放心状態でカイトとユキコはコーヒーを飲んだ。
「ん? うちで飲むのと味が違う」
 カイトは目が少し覚めてきたようだ。
「ブレンドが違う。次はこの銘柄をリクエストする?」
 即座にニーナが答えた。
「うん、そうして欲しい」
 ユキコもようやく頭がはっきりしてきた。
「そんなに違う? じゃあ、私はカイトの飲んでるブレンド頼もうかな」
「了解」
 とバート。
「今日は、ニーナに手伝ってもらって管理区内の保守点検で外に出ているから、二人で頑張ってくれ」
 ユキコとカイトは使用済みの食器をキッチンに運ぶと、二人で片づけを始めた。
「わかっている、行ってらっしゃい」
 とユキコ。
「ニーナ、また後で」
 カイトもニーナを送り出す。
 バートとニーナが外に出るドアの音がガシャンときこえた。

 「さて、いきますか?」
 食器を片付けたところで、カイトがユキコに手を差しだした。ユキコはその手をつかんで頷いた。
 前日のぎこちなさは消えていた。
ベッドの横に向かい合って立った二人は互いのガウンを脱がせあう。カイトはユキコのブラジャーに手を添えたところで動きを止めた。
 「ブラジャーの外し方がわからないな」
 ユキコはカイトにくるりと背中を向けた。そして自分の手を後ろに回してブラジャーの金具を指さす。
「金具が見える? 左右で引っ掛けてあるからそれを外すの」
「あー、なるほど。でもめんどくさっ」
 カイトはブツブツ言いながらブラジャーの金具を外した。ブラジャーが床に落ち、そのままカイトはユキコを後ろから抱き締めた。
 後ろから抱き締めたまま、カイトの唇がユキコの耳を優しく挟む。
「あ……」
 背中がゾクゾクしてユキコは力が抜けそうになった。すかさず、ユキコをベッドに寝かせたカイトはユキコに覆いかぶさり、ユキコにキスをした。
 唇を離すと、カイトは優しく笑って言う。
「じゃ、やりますか」
「バカ」
 笑いながら、二人は肌を絡めていく。
 二人は合わせた肌が溶けあって一つになっていく感覚の中で、徐々に興奮が高まる。
 繋がるという感覚に、二人はどんどん溺れていった。
 パートナーであるアバターでは感じたことがなかった。二人は混じりあい溶けて一つになっていく。
 人間の男女のセックスを、二人は夢中で貪り味わった。理性を捨て本能がぶつかり一体になって二人は大きな渦の中心に吸い込まれていった。
「すごいな……」
 カイトが激しい息遣いでユキコに言う。ユキコは声にならず、からだを震わせながらカイトの背中に爪をたて強くかじりついた。背中に食い込むユキコの爪に痛みが走る。その痛みが、カイトを更に興奮させていった――。
「ユキコ!」
 無意識にカイトは叫んでいた。

 「どうした?」
点検途中で立ち止まって遠くを見るニーナにバートは声をかけた。
「あなたには伝わってこないの?」
 ニーナが震える声でバートで尋ね返した。バートは屈み込むと凄まじい勢いで地面に拳を叩きつけた。
「くそっ‼」
 地面に拳がめり込んだ。

 とっぷり日が暮れてからようやく、バートとニーナはリビングルームに姿を現した。
ユキコとカイトは、食事を終えてリビングルームで二人の帰りを静かに待っていた。
「遅かったね」
 ユキコが言う。
「邪魔したくなかったから」
 とバードは笑って答えた。
「今日は大丈夫だったんだよね?」
 おどけた口調で続けて尋ねた。ユキコはバートに駆け寄るとバートの胸に飛び込んだ。
「うまくいっている。大丈夫」
 カイトも立ち上がると、立ちすくんでいるニーナの元に寄り、ニーナを抱き締めた。
 そのまま 二組はそれぞれのベッドルームに移動した。

 ベッドの中でカイトはニーナを強く抱きしめると、ニーナの耳元でそっと囁いた。
「もう一日、ごめん……」
 カイトの腕の中でニーナは小さく頭を振る。
「お願いだから、謝らないで」
「うん」
 カイトはニーナの顔を自分に向けさせると、ニーナのおでこにキスをし、そして唇に指を押し当てた。
「愛している」
 唇に押し当てられたカイトの指に、ニーナは小さくキスを返した。
 カイトの背中に回したニーナの指が、カイトの背中の傷に気が付いた。アバターは人間のからだを決して傷つけることはない。
 しかし、カイトとユキコの絡みあいに躊躇がないことを、ニーナはカイトに付いた傷から感じていた。傷を優しくさすりながら、ニーナはただ、じっと耐えるしかなかった。







(つづく)

 

 
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