【R18】その後の世界で君とともに

ぽんたしろお

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その後の世界で君とともに(本編)

9話 犠牲の眠り

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 「『捧げられた眠り』に誘導された俺が見たものは、女性が眠っているカプセルが並んでいるスペースだった」
 バートの話は、核心部分に入っていく。ニーナは注意深くカイトとユキコの状態を観察する。
二人はバートの言葉をじっと聞いていた。

 「空のカプセルもちらほらあった。パマの説明が意識に流入してきた」



 大戦後生き残った一握りに人々に突きつけられたのは、全てが破壊されたという現実だった。人類が果てしなく求め築き上げた技術も文化も施設もが破壊し消失した。
 享受していた技術と文化の恩恵を一日で失った大戦生き残り世代が、喫緊で取り掛かったのは人口問題だった。
 
 戦前、女性は胎児を自分の子宮で育てるか、人工子宮で育てるかを選択できる技術がすでに稼働していた。しかし大戦で人工子宮の技術やノウハウは失われ、人工子宮の技術を取り戻すのに何年かかるのか、人々には予測できなかった。
 世界の再建と人口の増加を同時並行で行うために、大戦世代が選択したのは貴重な子宮を胎児育成のためフル稼働させることだった。
 からだの限界を超えた妊娠を何度も行う子宮を提供する女性を募ったのだ。
 言い換えれば――自らのからだの子宮を子供を生産させるための工場として提供する、人間性を一切無視した残酷なシステムに身を投じて欲しいと呼びかけたのだ。
 この残酷な呼びかけに、自らの意思で子宮を捧げた女性たちは、その過酷さを軽減するために意識を放棄することを選んだ。
 子宮で育てる胎児は、体外受精した受精卵だ。
 意識を放棄せず出産を続けた女性もいたにはいた。が、胎児に愛着を感じても出産したベビーを抱くことは許されず、再び妊娠に入るため、精神が耐えきれなくなり、最終的に意識を手放す選択をした。
 出産が終われば、休む間をおかず次の受精卵を着床し妊娠する――そしてボロボロになったからだが妊娠に耐えられなくなった時、彼女たちは意識のないままカプセルの中で眠りつづけそして死んでいった。
 結果的に、大戦から十年後人工子宮は実用段階にこぎつけ稼働が開始した。しかし、意識を放棄した彼女たちは二度と目を覚ますことはない。
 彼女たちの妊娠は人工子宮が稼働した大戦後10年で全て終了した。
 彼女たちは、寿命を迎えるその日まで眠り続けるのだ。
 子宮工場として人間性を奪われた状態を受容し次の世代に希望を託した彼女たちの眠るスペースは、『捧げられた眠りの場』と呼ばれるようになっていた。



 「彼女たちが生んだ子供たちは、ゼロ世代と呼ばれ、現在二十歳から三十歳になっている。彼らも世界中に分散して暮らしている」
 バートはそこまで言うと、ニーナに続きを促した。

 「大戦の生き残り世代は過ちを悔やみ、大戦後も大きな犠牲を払ってここまで世界を再建してきた」
 ニーナは続ける。
「しかし、いまだに人口は安定した状態とはいえない。ひとたび、争いが起これば絶滅する危険な状態であることに変わりない」
「あなたたちのからだは、あなたたちだけの物ではない。大きな犠牲の上に存在する大事な大事な体と命で、自ら希望しても体を傷つけ命を断つことは、私たちアバターが許さない」
 ニーナの声が毅然と響いた。アバターとしての使命感がそこにはあった。
「卵子と精子の提供は、本来の男女の生殖活動からみれば、極めて不自然なシステムだわ。ユキコが希望する妊娠出産のスタイルが本来の人間の生殖活動なのだから」
「しかし、ユキコの望む生殖活動が許されるほど、人口は安定する段階には入っていない、それが今の現状」

 カイトとユキコは黙ったままだった。動揺はない。あまりに話が大きすぎて理解が追いついていないのかもしれない、とニーナは思った。

 バートはユキコに尋ねた。
「それでも、カイトとのセックスを望むなら、俺は止めない。妊娠も出産も俺がユキコをサポートするから」
「バート……」
 しばらく、考えた後ユキコは言った。
「私は、まだまだ大人とはいえない状態だね」
 ユキコの目から涙が流れた。
「私には、親になる覚悟が全然なかった。無責任すぎたよね」
「今日は帰るか?」
 バートが尋ねるとユキコは頷いた。涙をゴシゴシ拭うと、ユキコはカイトとニーナの方を向いた。
「今日は、ごめん。お互い、もう少し大人になってから、会おう」
 ニーナは、ユキコが今日の経験で大きく成長していることを感じた。
 今後、再会する機会があったら、ユキコは成長し魅力的になっているだろうとニーナは感じた。
 その時、カイトにとってニーナはユキコより魅力的でいられるだろうか? アバターとしての限界と比較し、間違いなく前進するであろうユキコが、ニーナは眩しかった。

 「うん、まず仮想空間で語ろう。僕たちはお互い何も知らな過ぎた」
 カイトが言った。カイトも事実を受け止め、前進しようとしている。ニーナは嬉しかった。
 一歩踏み出したカイトがどこへ向かうのかはわからないけれど、私はカイトを守りながらサポートしていくのだ、とニーナは改めて決心する。最終的に用済みになるまで、どこまでも、あなたとともに行く――。





(つづく) 




 
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