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その後の世界で君とともに(本編)
8話 追憶
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「ニーナ」が起動したのは、カイト十七才の誕生日だった。
起動したニーナに、パマの管理下で十七年分のカイトの情報が流れ込んできた。
「あなたのパートナーを理解しなさい。あなたが盾になり、守るべき存在です」
起動したニーナは目を開き、自分のからだを見つめた。量産型の練習用アバターは、あちこちに傷が付いて明らかに何度も使われた形跡が残っていた。
自分が何個目の意識の起動になるのだろうか? とニーナはふと考えた。途端にパマの指示が意識に飛んできた。
「そのアバターの過去を考えている時間はありません。きちんと己の意識下でそのアバターをコントロールする練習を始めてください」
パマの指示でニーナは立ち上がろうとして、バランスを崩した。手足があらぬ方向にばらけて倒れこんだ。これでは駄目だ。流入する様々な情報を受け止め続けながら、ニーナはアバターの状態を分析した。
人は転んでもこんな状態に手と足が投げ出されることはない。まず、人と遜色ない動きを学習することから始めなければならないのだ。壊れてもかまわない古いアバターを与えられた意味を理解し、ニーナはアバターのコントロールを学んでいった。
アバターを起立させた後、歩行の訓練、屈む動作――パマの指示に従い一つ一つの動作を覚えていく。そしてその動作をカイトの好みに合う「しぐさ」に寄せていく。
カイトの十七年分の情報が流入が終わると、更にリアルタイムでカイトの情報が更新されていった。ニーナの意識はカイトと同じ時間を歩んでいく。
カイトに愛される存在になりたいとニーナはひたすらレッスンを続ける。
半年後、ニーナは女性型の練習用アバターに意識を移された。そして、ニーナはカイトの意識をコピーした男性型練習アバターに引き合わされた。
ニーナは嬉しかった。カイトのコピーアバターでも、ニーナにとってはカイトだったから。
しかし、カイトのコピーアバターはニーナとの出会いにうろたえた。
「あなたは誰ですか? パマはどこ? パマに会いたい」
「ニーナと言います。パマの代わりにあなたをサポートします」
「嫌だ、あなたなんか知らない。パマといたい! パマに会せて、パマを返して!」
ニーナはカイトのコピーがパマを求め混乱するのを落ち着かせることができなかった。カイトのコピーアバターが暴れ始め、ニーナは対処不能に陥った。
突然、カイトにコピーアバターの動きが止まった。
「カイトをリセットします」
パマの指示がニーナの中に流れてきた。
動かなくなったカイトのコピーアバターが責めているようにニーナは感じた。
「ごめんなさい、カイト!」
動かないカイトのコピーアバターをニーナは抱え込んだ。
「人間はリセットすることができません。カイトが混乱しないように、あなたを受け容れられるように考えて行動してください」
パマは冷静にニーナに指示をした。
ニーナがカイトのコピー機を抱いた状態で再起動がかかった。
「あなたは?」
「私はニーナ。パマは私の中にいますよ」
「ニーナがパマなの?」
「……はいといいえ、両方です」
「意味がわからない」
ドン。カイトのコピーアバターがニーナを突き飛ばした。カイトがリセットされる。
「やり直しましょう」
パマの指示が入り、カイトとの出会いが繰り返される。リセットされるカイトのコピーにニーナは想いを募らせていく。ごめんなさい、ごめんなさい。リセットされるカイトをみたくないのに、とニーナは顔を覆った。
カイトをもっと理解して、あなたに受け入れられる私になりたい、とニーナは強く想うのだ。
繰り返される初対面の場面を繰り返し、やがてカイトのコピーアバターがニーナを受け入れてくれた。ニーナはカイトのコピーアバターを抱き締めた。
ニーナとカイトのコピーアバターはセックスの練習に移行していった。とまどうカイトのコピーアバターを導かねばならない。細やかな動きとしなやかさをニーナは身に付けていく。
ニーナのためにカイトのコピーアバターは何度もリセットされた。ニーナはリセットのたびにカイトへの想いを深く募らせていった。
カイトの十八才の誕生日の二週間前、遂にニーナはカイトの好みにカスタマイズされた専用アバターに意識を移された。
再起動して目を開けると、目の前に全身を映す鏡があった。黒い瞳、艶やかでプルンとした唇、サラサラと流れる黒髪の長髪。揺れる大きさの胸、桃色の乳首、腰のくびれ。
ニーナは自分を抱き締めた。喜びに震えながら、カイトが求めるからだを抱き締めた。柔らかで吸い付くような肢体の感触をカイトに早く与えたいとニーナは思った。
しばらく自分を抱き締めたままだったニーナに、パマの指示が流れてきた。
「カイトの供給精子が受精し育っていく場所に移動します。そのからだを傷つけないように、目の前にある布を頭からかぶって、靴を着用しなさい」
ニーナは指示に従って、首から足元まですっぽり覆う白い布を身に付けた。この恰好はカイトの好みではない、とニーナは感じた。
「カイトの元に行くときのワンピースは別に用意してあります。さぁ、移動します」
パマの指示に従ってニーナは施設内を移動した。
「胎児育成施設」にニーナは向かった。広大な空間に、人工子宮が整然と並んでいる。受胎した胎児が人工子宮の中で育成されていた。
パマの説明がニーナの意識に流れ込む。
「この人工子宮の技術が、実用化して20年弱たちました」
ニーナは頷いた。カイトが第一世代と呼ばれる所以だ。
「戦後10年間を経て、人は人工子宮の技術をようやく取り戻しました。では戦後10年間はどうなっていたのかをカイトに伝えるのはパートナーであるあなたの役目になります」
「ここからは、パマのデータは役に立ちません、あなたがカイトと構築した信頼関係の中で、タイミング慎重に見極め必ず伝える義務があります」
パマの指示で更に施設の奥にニーナは進んでいった。
「『捧げられた眠り』という、神聖な犠牲のスペースです」
(つづく)
起動したニーナに、パマの管理下で十七年分のカイトの情報が流れ込んできた。
「あなたのパートナーを理解しなさい。あなたが盾になり、守るべき存在です」
起動したニーナは目を開き、自分のからだを見つめた。量産型の練習用アバターは、あちこちに傷が付いて明らかに何度も使われた形跡が残っていた。
自分が何個目の意識の起動になるのだろうか? とニーナはふと考えた。途端にパマの指示が意識に飛んできた。
「そのアバターの過去を考えている時間はありません。きちんと己の意識下でそのアバターをコントロールする練習を始めてください」
パマの指示でニーナは立ち上がろうとして、バランスを崩した。手足があらぬ方向にばらけて倒れこんだ。これでは駄目だ。流入する様々な情報を受け止め続けながら、ニーナはアバターの状態を分析した。
人は転んでもこんな状態に手と足が投げ出されることはない。まず、人と遜色ない動きを学習することから始めなければならないのだ。壊れてもかまわない古いアバターを与えられた意味を理解し、ニーナはアバターのコントロールを学んでいった。
アバターを起立させた後、歩行の訓練、屈む動作――パマの指示に従い一つ一つの動作を覚えていく。そしてその動作をカイトの好みに合う「しぐさ」に寄せていく。
カイトの十七年分の情報が流入が終わると、更にリアルタイムでカイトの情報が更新されていった。ニーナの意識はカイトと同じ時間を歩んでいく。
カイトに愛される存在になりたいとニーナはひたすらレッスンを続ける。
半年後、ニーナは女性型の練習用アバターに意識を移された。そして、ニーナはカイトの意識をコピーした男性型練習アバターに引き合わされた。
ニーナは嬉しかった。カイトのコピーアバターでも、ニーナにとってはカイトだったから。
しかし、カイトのコピーアバターはニーナとの出会いにうろたえた。
「あなたは誰ですか? パマはどこ? パマに会いたい」
「ニーナと言います。パマの代わりにあなたをサポートします」
「嫌だ、あなたなんか知らない。パマといたい! パマに会せて、パマを返して!」
ニーナはカイトのコピーがパマを求め混乱するのを落ち着かせることができなかった。カイトのコピーアバターが暴れ始め、ニーナは対処不能に陥った。
突然、カイトにコピーアバターの動きが止まった。
「カイトをリセットします」
パマの指示がニーナの中に流れてきた。
動かなくなったカイトのコピーアバターが責めているようにニーナは感じた。
「ごめんなさい、カイト!」
動かないカイトのコピーアバターをニーナは抱え込んだ。
「人間はリセットすることができません。カイトが混乱しないように、あなたを受け容れられるように考えて行動してください」
パマは冷静にニーナに指示をした。
ニーナがカイトのコピー機を抱いた状態で再起動がかかった。
「あなたは?」
「私はニーナ。パマは私の中にいますよ」
「ニーナがパマなの?」
「……はいといいえ、両方です」
「意味がわからない」
ドン。カイトのコピーアバターがニーナを突き飛ばした。カイトがリセットされる。
「やり直しましょう」
パマの指示が入り、カイトとの出会いが繰り返される。リセットされるカイトのコピーにニーナは想いを募らせていく。ごめんなさい、ごめんなさい。リセットされるカイトをみたくないのに、とニーナは顔を覆った。
カイトをもっと理解して、あなたに受け入れられる私になりたい、とニーナは強く想うのだ。
繰り返される初対面の場面を繰り返し、やがてカイトのコピーアバターがニーナを受け入れてくれた。ニーナはカイトのコピーアバターを抱き締めた。
ニーナとカイトのコピーアバターはセックスの練習に移行していった。とまどうカイトのコピーアバターを導かねばならない。細やかな動きとしなやかさをニーナは身に付けていく。
ニーナのためにカイトのコピーアバターは何度もリセットされた。ニーナはリセットのたびにカイトへの想いを深く募らせていった。
カイトの十八才の誕生日の二週間前、遂にニーナはカイトの好みにカスタマイズされた専用アバターに意識を移された。
再起動して目を開けると、目の前に全身を映す鏡があった。黒い瞳、艶やかでプルンとした唇、サラサラと流れる黒髪の長髪。揺れる大きさの胸、桃色の乳首、腰のくびれ。
ニーナは自分を抱き締めた。喜びに震えながら、カイトが求めるからだを抱き締めた。柔らかで吸い付くような肢体の感触をカイトに早く与えたいとニーナは思った。
しばらく自分を抱き締めたままだったニーナに、パマの指示が流れてきた。
「カイトの供給精子が受精し育っていく場所に移動します。そのからだを傷つけないように、目の前にある布を頭からかぶって、靴を着用しなさい」
ニーナは指示に従って、首から足元まですっぽり覆う白い布を身に付けた。この恰好はカイトの好みではない、とニーナは感じた。
「カイトの元に行くときのワンピースは別に用意してあります。さぁ、移動します」
パマの指示に従ってニーナは施設内を移動した。
「胎児育成施設」にニーナは向かった。広大な空間に、人工子宮が整然と並んでいる。受胎した胎児が人工子宮の中で育成されていた。
パマの説明がニーナの意識に流れ込む。
「この人工子宮の技術が、実用化して20年弱たちました」
ニーナは頷いた。カイトが第一世代と呼ばれる所以だ。
「戦後10年間を経て、人は人工子宮の技術をようやく取り戻しました。では戦後10年間はどうなっていたのかをカイトに伝えるのはパートナーであるあなたの役目になります」
「ここからは、パマのデータは役に立ちません、あなたがカイトと構築した信頼関係の中で、タイミング慎重に見極め必ず伝える義務があります」
パマの指示で更に施設の奥にニーナは進んでいった。
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