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その後の世界で君とともに(本編)
4話 オーバー十八の仮想空間(改・R-15版)
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カイトとニーナ、二人の生活に規則性が築かれつつあった。
カイトは、あの常軌を逸した感情が湧き上がり続ける状態から、少し落ち着いた自分にほっとしていた。
自らの感情をコントロールを失いそうになる――それは快楽と恐怖を同時に感じる不安定な状態だったから。
ニーナとの営みが日常の一部として定着し、生活にパマと暮らしていた時のような規則性が刻まれ始めてカイトの気持ちは落ち着いてきた。
朝の食事の時、ニーナはカイトのサポートで立ち回ろうとするので、カイトは言った。
「僕は、ニーナに世話を焼いて欲しいわけじゃない。一緒に食事をすることは出来ないけれど、座って僕の食事時間を過ごしてもらえないかな」
ニーナがテーブルの向いに着席すると、カイトはほほ笑んだ。
「こういうの、いいな」
ニーナも黙ってうなづいた。
日々の生活で必要な作業をカイトはニーナとともに行った。やることはたくさんあるのだ。
割りあてられた区画に広がる畑と農場と養殖池の管理、発電施設と水源設備の点検補修、作業用機械の調整や設定、動作の確認。
物資の受け取り、出荷作業などなど。
生活に必要なライフラインは整っているし、欲しい物資は定期的に届く。区域内の生産物を出荷し、物々交換の経済によって、生活が成り立つシステムになっている。
一方で、緊急事態が発生すると区画内を外部から切り離し、自給自足による二重システムがカイトの生命を守るのだ。
施設は管理設備での自動制御を主体としつつ、一方でカイトやニーナの介入なしでは維持管理の継続ができない。
管理区画の維持に必要な基礎知識と応用の全てを十八年かけて、カイトはパマに叩き込まれてきたのだ。
数日、作業を放棄してニーナに溺れた結果、区画内に小さなトラブルがあちこちで発生していた。カイトとニーナはその対策に追われたが、それもようやく落ち着いた。
ニーナの顔を見ながらゆっくり食事をとることがカイトは楽しかった。
時間の余裕ができたので、カイトは仮想空間にログインしてみることにした。
リアルの人々との交流は仮想空間で行う――リアルでの争いを避けながらも、人間の社会性を維持するためだ。仮想空間へのログインを行わない人も、中にはいる。しかし、多くの人は交流や会話を楽しむ仮想空間を利用していた。
「しばらくぶりの仮想空間だけど、ニーナはどうする?」
カイトが尋ねるとニーナは首を横に振った。
「お一人でどうぞ。私自身は常時ネットに繋がった状態ですから、仮想空間の社交場にまで出かけて行きたいとは思いません」
まぁ、それもそうだなとカイトは思う。各区画の情報が集まる世界各地のターミナルセンターとのやり取りは、アバターの任務の一つだからだ。
ニーナはキッチンに行くとコーヒーを淹れて戻ってきた。
「私が今日の作業を続けますから、カイトは楽しんできて」
ニーナはカイトにコーヒーカップを渡すと、部屋から出て行った
ニーナの姿が見送ったカイトはコーヒーを持ってソファーに移動した。ソファーに深く腰をおろすと、仮想空間へログインした。
「あれ?」
なんだか、いつもの空間と様子が違う。戸惑っているいると、カイトの友人のライルが駆け寄ってきた。
「よう、おめでとさん」
ライルはニヤニヤしながら、カイトに声をかけた。
「あ、ありがとう……?」
カイトは十八才の誕生日を祝った言葉だと受け取ったのだ。
「バーカ、そっちじゃないよ。あっちだよ、良かったのはわかっているさ」
ライルはゲラゲラ笑う。
カイトは顔が真っ赤になった。ニーナとのことを言っているのだとようやく気がついたのだ。
「お前だけじゃないよ。俺もそうだったからさ。十八才の誕生日の後、数日ログインしないということは、そういうことだってことさ」
うわぁ、全部ばれているってわけか、とカイトは恥ずかしさを更に募らせた。
話を変えたいとカイトは焦って言った。
「ねぇ、ここ、模様替えでもしたの?」
「ここか? 模様替えではないよ。ここはオーバー十八――つまり十八才以上の専用スペース、アダルトコーナー」
「ア、アダルトコーナー……」
あまりにも、直接的すぎないか、とカイトは再び言葉を失った。
「バカ、露骨すぎるわ」
ボカッとライルの頭を殴ったのは女性だった。
「おいおい、仮想空間で痛み感じないからって、頭突き抜けるパンチするなよ」
頭を突き抜けた女性の腕から、ライルは頭をずらした。
「ユキコは、気が強すぎる」
ライルの言葉を無視して、ユキコと呼ばれたその女性は、カイトにずりっと近寄った。
「初めまして、カイト! ねぇ、私とセックスしてみない?」
それが、ユキコがカイトに放った第一声だった。
(つづく)
カイトは、あの常軌を逸した感情が湧き上がり続ける状態から、少し落ち着いた自分にほっとしていた。
自らの感情をコントロールを失いそうになる――それは快楽と恐怖を同時に感じる不安定な状態だったから。
ニーナとの営みが日常の一部として定着し、生活にパマと暮らしていた時のような規則性が刻まれ始めてカイトの気持ちは落ち着いてきた。
朝の食事の時、ニーナはカイトのサポートで立ち回ろうとするので、カイトは言った。
「僕は、ニーナに世話を焼いて欲しいわけじゃない。一緒に食事をすることは出来ないけれど、座って僕の食事時間を過ごしてもらえないかな」
ニーナがテーブルの向いに着席すると、カイトはほほ笑んだ。
「こういうの、いいな」
ニーナも黙ってうなづいた。
日々の生活で必要な作業をカイトはニーナとともに行った。やることはたくさんあるのだ。
割りあてられた区画に広がる畑と農場と養殖池の管理、発電施設と水源設備の点検補修、作業用機械の調整や設定、動作の確認。
物資の受け取り、出荷作業などなど。
生活に必要なライフラインは整っているし、欲しい物資は定期的に届く。区域内の生産物を出荷し、物々交換の経済によって、生活が成り立つシステムになっている。
一方で、緊急事態が発生すると区画内を外部から切り離し、自給自足による二重システムがカイトの生命を守るのだ。
施設は管理設備での自動制御を主体としつつ、一方でカイトやニーナの介入なしでは維持管理の継続ができない。
管理区画の維持に必要な基礎知識と応用の全てを十八年かけて、カイトはパマに叩き込まれてきたのだ。
数日、作業を放棄してニーナに溺れた結果、区画内に小さなトラブルがあちこちで発生していた。カイトとニーナはその対策に追われたが、それもようやく落ち着いた。
ニーナの顔を見ながらゆっくり食事をとることがカイトは楽しかった。
時間の余裕ができたので、カイトは仮想空間にログインしてみることにした。
リアルの人々との交流は仮想空間で行う――リアルでの争いを避けながらも、人間の社会性を維持するためだ。仮想空間へのログインを行わない人も、中にはいる。しかし、多くの人は交流や会話を楽しむ仮想空間を利用していた。
「しばらくぶりの仮想空間だけど、ニーナはどうする?」
カイトが尋ねるとニーナは首を横に振った。
「お一人でどうぞ。私自身は常時ネットに繋がった状態ですから、仮想空間の社交場にまで出かけて行きたいとは思いません」
まぁ、それもそうだなとカイトは思う。各区画の情報が集まる世界各地のターミナルセンターとのやり取りは、アバターの任務の一つだからだ。
ニーナはキッチンに行くとコーヒーを淹れて戻ってきた。
「私が今日の作業を続けますから、カイトは楽しんできて」
ニーナはカイトにコーヒーカップを渡すと、部屋から出て行った
ニーナの姿が見送ったカイトはコーヒーを持ってソファーに移動した。ソファーに深く腰をおろすと、仮想空間へログインした。
「あれ?」
なんだか、いつもの空間と様子が違う。戸惑っているいると、カイトの友人のライルが駆け寄ってきた。
「よう、おめでとさん」
ライルはニヤニヤしながら、カイトに声をかけた。
「あ、ありがとう……?」
カイトは十八才の誕生日を祝った言葉だと受け取ったのだ。
「バーカ、そっちじゃないよ。あっちだよ、良かったのはわかっているさ」
ライルはゲラゲラ笑う。
カイトは顔が真っ赤になった。ニーナとのことを言っているのだとようやく気がついたのだ。
「お前だけじゃないよ。俺もそうだったからさ。十八才の誕生日の後、数日ログインしないということは、そういうことだってことさ」
うわぁ、全部ばれているってわけか、とカイトは恥ずかしさを更に募らせた。
話を変えたいとカイトは焦って言った。
「ねぇ、ここ、模様替えでもしたの?」
「ここか? 模様替えではないよ。ここはオーバー十八――つまり十八才以上の専用スペース、アダルトコーナー」
「ア、アダルトコーナー……」
あまりにも、直接的すぎないか、とカイトは再び言葉を失った。
「バカ、露骨すぎるわ」
ボカッとライルの頭を殴ったのは女性だった。
「おいおい、仮想空間で痛み感じないからって、頭突き抜けるパンチするなよ」
頭を突き抜けた女性の腕から、ライルは頭をずらした。
「ユキコは、気が強すぎる」
ライルの言葉を無視して、ユキコと呼ばれたその女性は、カイトにずりっと近寄った。
「初めまして、カイト! ねぇ、私とセックスしてみない?」
それが、ユキコがカイトに放った第一声だった。
(つづく)
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