温感能力

ぽんたしろお

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「温」感始動!

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 僕の予想通りだった。夢は沸点が低いと同時に、相手の出方を待つのも苦手なようだ。画面越しの対面を一方的に切った、たった二日後、もう一度話したいとメールを送ってきたのだ。
 メールの文面だけはしおらしいが、あの性格が二日で修正できるわけがない。
 それでも僕はオンラインチャットを了承した。僕自身、話が途切れたままなのは嫌だったからだ。

 二回目の面談が始まった。
「前回は、ごめんなさい!」
 夢は画面が表示されると、まず謝ってきた。僕が思っていたより、深く反省しているのかもしれない。
「まぁ、水に流しますよ」
 僕は寛大に答えた。ところが、これが気に食わなかったようで、夢の鼻が大きく膨らんだ。また回線ブチ切る気か? 身構えると、夢は一線を超えることは思いとどまったようだ。
「お互い、コミュニケーション慣れしていない同士のようなので」
 夢はずり落ち続ける眼鏡をクイッと上げると、息を吸い込んだ。
「本題にはいります!」
 くるぞっ! 僕は態勢を整える。
「結城さんの「温」感はそこそこ、すごいです。まぁ、報酬を受けとるギリラインだと前回お話したことは撤回できませんけれどね。このような高飛車な言い方をしますと、当然、『あんたの能力はいかほどというのか?』と反論がくるのは予想できます。ですよねっ?」
 夢がまた画面に顔をずいと近づけた。
「……塚田さんの「温」感の点数は是非伺いたいですね。ところで。話は変わりますが、ちょっと離れてもらえないか?」
「あ? げっ!」
 夢は画面から離れると再び眼鏡を上げ、話を仕切りなおした。
「私の温感力は、ずばり言いますと五十七点ですっ!」
 僕は眉毛を上げた。
「ご、五、五十七……点だぁ?」
「はい、私の温感力は、一般の方と比較すれば遥かに高い数値ですが、結城さんよりはやや低いです。しかしっ! 私の武器は温感力そのものではなく、温感を数値化できる能力ということです。すなわち!!」
 僕は目をつぶり、「厨二病」と口から出そうになることを踏み止まった。夢の口は言葉をまくしたて続ける。
「温感を数値化できる、「温感の物差し」としての利用価値が大きいというところです。報酬を受け取る基準となります。すなわち!」
 夢は息を継いだ。ここからがクライマックスだと言うのだな。
「すなわち! それこそが「絶対温感」の有用性であり、あなたの「温感力」とセットにすることで、社会的信用を積み上げることができるのです! 結論を申し上げますっ! あなたと私は一心同体、くっつくべくして、くっつく二人なのです!」
「ぬあっ!?」
 気が付けば僕の目は見開き、画面の向こうで好き勝手なことをほざく人間をしげしげと眺めた。
「一心同体だとぉ?」
「ですね!」
 ブツッ。今回は、僕の方が電源を切った。

 頭が煮えているような感覚だ。頭が熱い。夢のいうところの八十二点の温感が、僕の感覚を支配する。
 温感超能力者と公表して、社会に認められて以降、久ぶりに温感を煩わしいと僕は感じていた。冷静にならなければ。
 僕は冷凍庫を開けて、氷のキューブを取り出すと、口の中でガリガリと齧り始めた。口の中を冷たいトゲがチクチク刺さる感覚だ。
 この氷キューブは僕が最初に商品化したものだ。飲み物に入れると、特に夏、スッキリする味わいが評判を呼んだ。無論、温感のない人は、氷の冷たさを感じることはできないけれど。
 発売一年で、あっという間に世の中に普及した。
 この商品がヒットしたおかげで、僕には金銭的余裕が生まれた。
 
 次の段階として、株式会社「温感ラボ」を立ち上げる、その第一歩が温感超能力者を集めることだった。
 最初に応募してきたのが、こいつ、塚田夢だった。

 氷キューブを口の中で転がしているうちに、突沸した感情は次第に冷静さを取り戻した。
 性格にかなり難ありとはいえ、「絶対温感」を持った人材を、見過ごしていいのだろうか? 夢の顔を思い浮かべると、僕の頭が再びピキピキきしみ始めた。それでも、なお――。

 二日後、僕は推敲に推敲を重ねたメールを夢に宛てて送信した。

 一向に返事が来ない、夢とはやはり縁がなかったのだろうか。ネットに再度、
『温感超能力者、募集中。仕事あります。 結城 学(ゆうき まなぶ)』
 投稿し、その画面を見つめていた。
 
 チャイムが鳴った。ドアを開けると、トランクを引っ張った夢がいた。
「ださっ」
 思わず出てしまった僕の言葉を受け流し、夢はニッと口角を上げた。
「社員寮はどこですか? 結婚は急いでするものでもありませんし」
 相性はやはり最悪だ、そう思いながら、僕は言う。
「ようこそ、『温感ラボ』へ」


(おわり)

 
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