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第17章
走行車の意識と歩行者の意識
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第一段階の効果測定で2度試験に落ちていたので、学科に対して一切の甘い見通しは捨てていた。
教科書の文字や数字や図にまず目が滑る。目を通過しても、ザルと化した頭を全ての内容が素通りする。
そんなザルの頭に一発で入ってきた項目がある。
「歩行者の保護」だ。
その言葉は驚きとともに脳に一度で焼き付いた。
自動車学校に通い始める前の私は、道路は自動車の物で歩行者は道路の端を通る「邪魔者」扱いされている存在だと思い込んでいたからだ。
道路の真ん中は車が威張って走行しているし、歩行者は道路の端の歩道しか与えられていないではないかーそれが50年運転に関わらなかった者のひがみも入った認識だった。
ところが、学科で「歩行者保護」を学んだ時、その認識は180度ひっくり返された。
「自動車は歩行者を優先させ保護するため、一時停止または徐行して歩行者を安全に通行させる」
という内容だったからだ。
道路のど真ん中がいれば、歩行者の安全が確保されるまで、極端な話、車は一時停止しなければならないというのだ。考えれば当然のことではある、交通事故を起こさない大前提は「歩行者の保護」だ。
でもなぁ、今更「歩行者保護」とか言われても、ピンとこないし納得がいかない。
教科が終わって、帰宅途中、そんなことを考えながら交差点に差し掛かった時だった。
交差点でいつも癖でうつむいていた顔をあげ見回すと、何人もの運転手と目が合った。
何人もの運転手が、歩行者である私の動きを見ていた。どのタイミングでどこに向かって横断歩道を渡ろうとしているのかを判断しようとする視線だった。
横断歩道に対して正面を向かず、横断するのか立ち止まっているのか、迷うような態度で私は歩道に立っていた。
逆の立場で車から私を見たら、私は困って車を動かすことが出来ないだろう。
私は進行方向に体をきちんと向けた。
それまで歩行者用信号が青になれば、信号が変わると同時に歩き出していた。右折車や左折者の視線を気にしたことはなかった。
学科で学んだことで自分が「安全に歩行する気持ちが運転手に見えない」歩行者だったことを知った。
ほとんどの自動車は、交差点でもそうでないところでも、歩行者に注意を向け、歩行者の安全を守る運転をしているというのに。
50才まで歩行者感覚のみが染み付いた状態で、自動車学校に通い出したからこそ思うことがある。
こんな私のような状態の歩行者を放置していいのだろうか?
昨今、自動車免許を積極的に取得したいと思わない人が増えてきているときく。
自動車免許を大金払って取得する必要を感じないというのが理由だ。私自身、免許なんて必要ないと突っぱねてきた側だから、若者の免許離れにとやかく言う筋合いはない。
しかし、自動車はこれからもなくならない。人が暮らすライフラインや物流の末端はほぼ車が担っているからだ。
自動車免許が、物流を担う特殊な免許になっていくことも将来的にあり得るかもしれない中で、私が強く感じたのは「歩行者が守られている意識の欠如」だ。
結果的に、自動車学校で学ぶことが、歩行者としての自分の意識を変えるきっかけになった。
自動車学校で学ぶ以外で、「歩行者が守られている意識」を身に付けることは必要になってくるのではないだろうか?
そんな「自覚のない歩行者の自分」を激しく反省した状態での路上実習は、歩行者が歩道にいるだけで緊張した。
歩道を歩いている歩行者が飛び出してきたら、と思うと怖くて減速しそうになった。
歩行者を怖がりすぎる運転を、先生はうるさく注意はしなかった。慣れるしなないと思ったのかどうか、私にはわからない。
ただ、歩行者を抜いても後ろの歩行者を気にしていた私に先生は言った。
「通り過ぎた過去に気をとられてはいけません」
ああ、そうだった。安全にやり過ごした対象は、人だろうが不動物だろうが頭からすぐ追い出さねばならない。車の進行方向に常に意識を持つというのは、そういうことだ。
でも心の中の歩行者の私はちょっと思う。
「過ぎ去った歩行者は忘れさられるのみなのね」
歩行者としての意識を変えた身としては、ちょっと複雑な気持ちではある。
教科書の文字や数字や図にまず目が滑る。目を通過しても、ザルと化した頭を全ての内容が素通りする。
そんなザルの頭に一発で入ってきた項目がある。
「歩行者の保護」だ。
その言葉は驚きとともに脳に一度で焼き付いた。
自動車学校に通い始める前の私は、道路は自動車の物で歩行者は道路の端を通る「邪魔者」扱いされている存在だと思い込んでいたからだ。
道路の真ん中は車が威張って走行しているし、歩行者は道路の端の歩道しか与えられていないではないかーそれが50年運転に関わらなかった者のひがみも入った認識だった。
ところが、学科で「歩行者保護」を学んだ時、その認識は180度ひっくり返された。
「自動車は歩行者を優先させ保護するため、一時停止または徐行して歩行者を安全に通行させる」
という内容だったからだ。
道路のど真ん中がいれば、歩行者の安全が確保されるまで、極端な話、車は一時停止しなければならないというのだ。考えれば当然のことではある、交通事故を起こさない大前提は「歩行者の保護」だ。
でもなぁ、今更「歩行者保護」とか言われても、ピンとこないし納得がいかない。
教科が終わって、帰宅途中、そんなことを考えながら交差点に差し掛かった時だった。
交差点でいつも癖でうつむいていた顔をあげ見回すと、何人もの運転手と目が合った。
何人もの運転手が、歩行者である私の動きを見ていた。どのタイミングでどこに向かって横断歩道を渡ろうとしているのかを判断しようとする視線だった。
横断歩道に対して正面を向かず、横断するのか立ち止まっているのか、迷うような態度で私は歩道に立っていた。
逆の立場で車から私を見たら、私は困って車を動かすことが出来ないだろう。
私は進行方向に体をきちんと向けた。
それまで歩行者用信号が青になれば、信号が変わると同時に歩き出していた。右折車や左折者の視線を気にしたことはなかった。
学科で学んだことで自分が「安全に歩行する気持ちが運転手に見えない」歩行者だったことを知った。
ほとんどの自動車は、交差点でもそうでないところでも、歩行者に注意を向け、歩行者の安全を守る運転をしているというのに。
50才まで歩行者感覚のみが染み付いた状態で、自動車学校に通い出したからこそ思うことがある。
こんな私のような状態の歩行者を放置していいのだろうか?
昨今、自動車免許を積極的に取得したいと思わない人が増えてきているときく。
自動車免許を大金払って取得する必要を感じないというのが理由だ。私自身、免許なんて必要ないと突っぱねてきた側だから、若者の免許離れにとやかく言う筋合いはない。
しかし、自動車はこれからもなくならない。人が暮らすライフラインや物流の末端はほぼ車が担っているからだ。
自動車免許が、物流を担う特殊な免許になっていくことも将来的にあり得るかもしれない中で、私が強く感じたのは「歩行者が守られている意識の欠如」だ。
結果的に、自動車学校で学ぶことが、歩行者としての自分の意識を変えるきっかけになった。
自動車学校で学ぶ以外で、「歩行者が守られている意識」を身に付けることは必要になってくるのではないだろうか?
そんな「自覚のない歩行者の自分」を激しく反省した状態での路上実習は、歩行者が歩道にいるだけで緊張した。
歩道を歩いている歩行者が飛び出してきたら、と思うと怖くて減速しそうになった。
歩行者を怖がりすぎる運転を、先生はうるさく注意はしなかった。慣れるしなないと思ったのかどうか、私にはわからない。
ただ、歩行者を抜いても後ろの歩行者を気にしていた私に先生は言った。
「通り過ぎた過去に気をとられてはいけません」
ああ、そうだった。安全にやり過ごした対象は、人だろうが不動物だろうが頭からすぐ追い出さねばならない。車の進行方向に常に意識を持つというのは、そういうことだ。
でも心の中の歩行者の私はちょっと思う。
「過ぎ去った歩行者は忘れさられるのみなのね」
歩行者としての意識を変えた身としては、ちょっと複雑な気持ちではある。
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