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第15章

路上を走って、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!

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ねじれるような感覚が続いた日々を仮免合格で、ようやく脱出したばかりだった。
しかし、学校は安堵させてくれない。
急げるときは急げとばかり、仮免翌日に私は第二段階に突入した。

車に乗ると、一周教習コースを回りいよいよ、路上に出る指示を先生が出した。
こんなところに路上への出入り口があったのか。
正直、第一段階でコースを走っているとき、運転に必死すぎて気が付いていなかった。
結局、視野が狭く、車が出入りする動きを視野にいれていない、私の欠点はなんら変わっていないのだ。
内心そんなことを感じているが、車は路上に出てしまった。
一般道に一般の車が走り、歩道には人がいて本物の信号がある。

道路の真ん中を自分が運転する車が動いている。
まるで、道路の上を飛んでいるような感覚だった。免許がなくても車には乗っているが、運転している感覚は同乗者で車に乗っているのとは、全く違う世界だった。

そして私の「クリープ現象で走っているのか問題」のツケがここで回ってきた。
アクセルを踏むことに全然なれていないので、アクセルとスピードの感覚がからだにまったく刷り込まれていないのだ。
だからといって、路上は普通に車が走っているわけで、いくら「練習中教習車」の札を付けているからといっても、クリープ現象走行を許す空気はない。
アクセルを踏んでは離し踏んでは離し、速度を一定に保てない、まっすぐ走れない挙動不審車のまま、教習は続いた。
赤信号で止まるたび、ほっとする。教習コースの赤信号を大好きだったが、その比ではなかった。
その気持ちが強すぎて、信号が近づくと車のスピードを落として赤信号を待ちたい衝動にかられるクセが発覚した。
先生に注意され、ビクビクしながら青信号を通行する。
しかし、その一方で一般車のスピードに引っ張られた。
「スピード出しすぎです」
先生の指摘でメーターをちらりと確認すると50キロ制限の道路で54キロになっていたのだ。うそでしょ⁉
時速20キロが怖かった自分なのに、仮免検定で直線目標速度40キロもなかなか出せなかったのに。
「ゆっくり走ろう」が自分の信条だと思っていたのに。気が付いたら54キロ出ているショックは大きかった。
アクセルから足を離すと車はしぼむように30キロ代まで減速した。バックミラーが目に入った。後続を走っている車の運転手がいらついている気がした。ごめんなさい、ごめんさないと心の中であやまった
2車線の道路で、第2車線を車が通りすぎると横の圧が怖い。許してください、そう思うのがハンドル操作に現れてしまう。車が左に流れて白線を踏んだ。


教習車しかいない教習コースでは味わったことがない感覚だ。
自分のからだが道路の上を飛び、運転している人の感情が道路を交錯していた。
怒る人もいれば、下手な運転を許容する人もいる。
車内は先生の指示と私の返事だけの静けさなのに、人生初の一般道路の運転は、道路のにぎやかさと優しさとやかましさが、私の運転する教習車の横をどんどん通り過ぎていった。
道路はとてもおしゃべりだと私は思った。

教習コースの運転の忙しさはなかった(多分、先生が路上でも簡単なコースを選んだのだとは思う)が、一般車両が行き交い、歩行者が歩き自転車が走り、刻刻と状況が変わる一般の道路のスピードに判断が追いつかない。
判断が追いつかないまま、技術がないまま、自分の運転が呑み込まれていく。
周りの車と協調しながら、しかもマイペースで運転すること、その一瞬一瞬の判断を間違えてはいけない。
判断の連続が「自動車を運転する」ことなのだ。頭が追いつかないが、追いつかないでは許されない。

同時に第二段階の学科も開始した。
自動車学校の日々は忙しく過ぎていく。

路上での練習を始めて数日後、夫がしみじみと言う。
「お前みたいなのの横に乗らなければならない仕事って、命がけなんだなぁ。俺には無理だわ」
反論の余地はない、同感だ。
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