仮想空間の鳥

ぽんたしろお

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第3章

始まり

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香奈のニックネーム:きなこ@
美優のニックネーム:もじゃ@
謎のニックネーム:u


 時を遡ること数か月前ー。

「登録だけでいいから、お願いっ」
 塾の帰り美優は香奈に手を合わせた。
「この頃、何回もメールで招待きてるあれでしょ?うーーん」
「友達を招待するともらえるアイテムがあるんだー。どうしても欲しいんだ」
「何がもらえるの?」
「魔法の杖とマント…」
 あー、なるほどと香奈は納得した。美優は魔法アニメのファンだったっけ。だから急に招待メールなんか送ってきたわけか。
「会員登録自体は無料だから、お願いしますっ」
 また片目つぶって、もう片方で香奈を見ながら大げさに手をあわせる美優に香奈は、苦笑いするしかなかった。
「わかったよ。登録するよ」
「ほんとっ? やった! マントと杖ゲットだぁ!」
「マントは私ももらえるの?」
「うっ。実はマントと杖は私だけ…えへっ」
「えーっ!」
「あ、そのかわり、お礼にプレゼントアイテム送るから、ねっ?」

 帰宅して、塾の宿題を一段落させると、香奈はスマホの電源を入れ、美優からの招待メールを開いた。
「あのアドレスからインストールしないと、魔法の杖とマントが来ないから、そこだけは頼む!」
 美優はしつこく何度も念を押していた。そこまで欲しいものなのか、と香奈は呆れながらも美優からの招待メールをタップした。
 セキセイインコの羽太郎うたろうが飛んでくると香奈の肩にとまった。いつものことだ。香奈は勉強が終わると鳥かごの入り口を開ける。スマホをいじる香奈の肩で遊ぶのが羽太郎うたろうと香奈の暗黙のルールになっていた。オカメインコのきなこは、香奈のスマホの操作の邪魔を開始した。
きなこも香奈の肩に乗りたいのだが、セキセイインコの羽太郎うたろうが許さないのだ。香奈の肩は、先輩羽太郎うたろうの占有席なのだ。
「どれ、美優が待ってるから、登録するか。きなこ、邪魔するな~」 
 オカメインコのきなこがスマホのカバーを齧りだすのを阻止しながら、香奈は必要な入力をどんどんこなしていく、その指がとまった。
「ニックネーム? うーん……」
 香奈はクスッと笑ってスマホの邪魔に夢中のオカメインコのきなこを見た。
「あんたの名前借りるわ。羽太郎うたろうはオスだからね」
「びょ?」
 香奈はニックネーム欄を埋めた。
――きなこ@。
入力事項完了ボタンを押す。
画面上に
「ようこそ。きなこ@さん。星野遊び場の住民登録は完了しました。遊び場での生活をお楽しみください」
その画面が消えるとアバターのきなこ@は新しいページに立っていた。なにもない部屋らしい。ガランとした空間は、ほんとに、ここへ今入居した感覚になる。
「面白そうかも」
 あしたから、探検しよう。
ログアウト。





(つづく)


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