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第1章
星の遊び場
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「登録が完了しました。ようこそ星の遊び場へ」
画面が表示された。
現実の自分とは全く違う、それが彼のアバターだった。用意されている洋服から適当に選んで決定する。
画面がチュートリアルを表示した。
「はぁ、疲れる…」
彼は、チュートリアルをスキップする。遊び方は知っているのだ。
ユーザー検索をかける。「きなこ@」ヒット。
「いた。退会していなかった」
きなこ@の遊び場スペースに飛ぶ。
彼はきなこ@の遊び場に残されているメッセージには気が付かなかった。
「しばらくログインできないかもしれません、ごめんなさい」
日付は3か月前になっていた。
彼は考える、伝言を残そうか? いや、湧き上がる感情をメッセージにすることなど不可能だ、彼はきなこ@の遊び場から立ち去った。足跡が残ったー「u」。
きなこ@の遊び場を出ると、自分の遊び場に戻る。がらんとした空間。
「最初はこうなのよね~」
と笑う彼女の声とその当時の画面を思い出す。おんなじだ。ここから始まるんだ、と彼は思った。
彼はタウンに繰り出してみた。せわしなくアバターが行き来している。
つっ立っていると、
「邪魔っ」
怒られて、あわてて、彼はアバターの場所を移動した。彼女はあまりタウンに行きたがらなかったな。その理由が、ちょっとだけわかった気がした。
「こんにちは」
移動した場所で彼は声をかけられる。入会したばかりみたいの女の子のアバターだ。チャットは苦手だ。こんにちはの動作をするボタンで誤魔化す。しかし、女の子のアバターは
「わぁ、どうやったら、そんな動作できるんですか?」
何もかもが新鮮でワクワクしているのだ。彼はタウンの繰り出したことを後悔していた。
「入会したてなのに慣れてますね」
ん? ああ、そうだ、彼は自分も入会したてだったことに気づいた。彼にとってこの空間は見慣れたものだったので、入会登録したばかりなのを忘れていたのだ。うなづく動作をさせる。
「チャット苦手ですか?」
もう一度 うなづく動作をする。そして間髪いれずに手を振ってさよならの動作をして、逃げるように自分の遊び場に戻った。
タウンには、あまり行かない方がいいかもしれない。 部屋スペースでやることは、いっぱいあるのだ。彼は自分の部屋のインテリアを飾る作業に着手した。
タウンのインテリアショップに行かないとアイテムが足りない。大急ぎでタウンをすり抜けショップに滑りこむと家具を数点購入した。
部屋に戻ると彼はインテリアの配置に取り掛かる。しばらく作業をして彼は本日の作業を終了した。明日は、きなこ@に会えるだろうか?
ログアウト。
翌日も彼はログインした。
まず、きなこ@の遊び場を訪問する。ログインした痕跡はない。しょうがない。彼は自分の遊び場に戻った。やることはたくさんあるのだ。
家具はまだまだ足りない。購入して配置するにはゲームをやらなければいけないので、ちょっとげんなりする仕組みだ。
とはいえ、チャットよりはマシだ。家具のために不慣れなゲームに挑戦する。コツはわかっている。いつも彼女の画面を共に眺めていたのだから。
ゲームに惨敗した。今日はあまりインテリアを購入できない。彼は内心の焦りを押し殺した。混線がいつまで続くだろうか?
時間があるのかないのか、彼にはわからなかった。
それから3週間後ー
きなこ@の遊び場に立ち尽くす女性アバターのもじゃ@がいた。スマホの画面を見ながらアバターのもじゃ@を操作する美優は眉をひそめた。3か月ログインのない遊び場に足跡を残す者はほぼ皆無のはずだ。リアルできなこ@を知っている美優を除いては。きなこ@の持ち主は香奈という。美優の友人だ。
香奈は「星の遊び場」を積極的に楽しんでいるわけではなかった。美優が「星の遊び場」に誘ったから入会したのだ。
リアルでの香奈を知っている美優は、香奈が「星の遊び場」にログインしていないことは充分知っていた。
気まぐれで、香奈のアバターのきなこ@の様子を見に来たのだった。
美優はきなこ@の遊び場にここ最近連日のように「u」という足跡が残されいるのが気になった。 ネットストーカーだろうか?伝言も残さず、足跡だけがずらずら毎日並んでいるのが気味が悪かった。しかも、彼女のログインがなくなってから現れた謎のアバターである。
多少、不気味に感じたが、uの正体を調べたくて、足跡の「u」を、震える指で思い切ってタップした。
「u」の遊び場の自己紹介は空欄だった。3週間ほど前の登録。訪問客もいないひっそりとした遊び場だったが
uの部屋を見た美優は愕然とした。
家具の並べ方は幼稚で雑で配色が派手で、まだ未完成だが、明らかにきなこ@の部屋の模倣をしていることだけは理解できた。
uは、無人のきなこ@のサイトを歩き回り、同じ部屋を自サイトに再現しようとしてる。uの意図が全くわからない。何が起こっているのだろう? 何をたくらんでいるのだろう? 美優は背筋がザワザワした。
「と、とにかく、香奈に連絡しなきゃ…」
美優は震える指でラインを開くと、メッセージを打った。
「香奈、星の遊び場のきなこ@のところに変なアバターが来てい
(つづく)
画面が表示された。
現実の自分とは全く違う、それが彼のアバターだった。用意されている洋服から適当に選んで決定する。
画面がチュートリアルを表示した。
「はぁ、疲れる…」
彼は、チュートリアルをスキップする。遊び方は知っているのだ。
ユーザー検索をかける。「きなこ@」ヒット。
「いた。退会していなかった」
きなこ@の遊び場スペースに飛ぶ。
彼はきなこ@の遊び場に残されているメッセージには気が付かなかった。
「しばらくログインできないかもしれません、ごめんなさい」
日付は3か月前になっていた。
彼は考える、伝言を残そうか? いや、湧き上がる感情をメッセージにすることなど不可能だ、彼はきなこ@の遊び場から立ち去った。足跡が残ったー「u」。
きなこ@の遊び場を出ると、自分の遊び場に戻る。がらんとした空間。
「最初はこうなのよね~」
と笑う彼女の声とその当時の画面を思い出す。おんなじだ。ここから始まるんだ、と彼は思った。
彼はタウンに繰り出してみた。せわしなくアバターが行き来している。
つっ立っていると、
「邪魔っ」
怒られて、あわてて、彼はアバターの場所を移動した。彼女はあまりタウンに行きたがらなかったな。その理由が、ちょっとだけわかった気がした。
「こんにちは」
移動した場所で彼は声をかけられる。入会したばかりみたいの女の子のアバターだ。チャットは苦手だ。こんにちはの動作をするボタンで誤魔化す。しかし、女の子のアバターは
「わぁ、どうやったら、そんな動作できるんですか?」
何もかもが新鮮でワクワクしているのだ。彼はタウンの繰り出したことを後悔していた。
「入会したてなのに慣れてますね」
ん? ああ、そうだ、彼は自分も入会したてだったことに気づいた。彼にとってこの空間は見慣れたものだったので、入会登録したばかりなのを忘れていたのだ。うなづく動作をさせる。
「チャット苦手ですか?」
もう一度 うなづく動作をする。そして間髪いれずに手を振ってさよならの動作をして、逃げるように自分の遊び場に戻った。
タウンには、あまり行かない方がいいかもしれない。 部屋スペースでやることは、いっぱいあるのだ。彼は自分の部屋のインテリアを飾る作業に着手した。
タウンのインテリアショップに行かないとアイテムが足りない。大急ぎでタウンをすり抜けショップに滑りこむと家具を数点購入した。
部屋に戻ると彼はインテリアの配置に取り掛かる。しばらく作業をして彼は本日の作業を終了した。明日は、きなこ@に会えるだろうか?
ログアウト。
翌日も彼はログインした。
まず、きなこ@の遊び場を訪問する。ログインした痕跡はない。しょうがない。彼は自分の遊び場に戻った。やることはたくさんあるのだ。
家具はまだまだ足りない。購入して配置するにはゲームをやらなければいけないので、ちょっとげんなりする仕組みだ。
とはいえ、チャットよりはマシだ。家具のために不慣れなゲームに挑戦する。コツはわかっている。いつも彼女の画面を共に眺めていたのだから。
ゲームに惨敗した。今日はあまりインテリアを購入できない。彼は内心の焦りを押し殺した。混線がいつまで続くだろうか?
時間があるのかないのか、彼にはわからなかった。
それから3週間後ー
きなこ@の遊び場に立ち尽くす女性アバターのもじゃ@がいた。スマホの画面を見ながらアバターのもじゃ@を操作する美優は眉をひそめた。3か月ログインのない遊び場に足跡を残す者はほぼ皆無のはずだ。リアルできなこ@を知っている美優を除いては。きなこ@の持ち主は香奈という。美優の友人だ。
香奈は「星の遊び場」を積極的に楽しんでいるわけではなかった。美優が「星の遊び場」に誘ったから入会したのだ。
リアルでの香奈を知っている美優は、香奈が「星の遊び場」にログインしていないことは充分知っていた。
気まぐれで、香奈のアバターのきなこ@の様子を見に来たのだった。
美優はきなこ@の遊び場にここ最近連日のように「u」という足跡が残されいるのが気になった。 ネットストーカーだろうか?伝言も残さず、足跡だけがずらずら毎日並んでいるのが気味が悪かった。しかも、彼女のログインがなくなってから現れた謎のアバターである。
多少、不気味に感じたが、uの正体を調べたくて、足跡の「u」を、震える指で思い切ってタップした。
「u」の遊び場の自己紹介は空欄だった。3週間ほど前の登録。訪問客もいないひっそりとした遊び場だったが
uの部屋を見た美優は愕然とした。
家具の並べ方は幼稚で雑で配色が派手で、まだ未完成だが、明らかにきなこ@の部屋の模倣をしていることだけは理解できた。
uは、無人のきなこ@のサイトを歩き回り、同じ部屋を自サイトに再現しようとしてる。uの意図が全くわからない。何が起こっているのだろう? 何をたくらんでいるのだろう? 美優は背筋がザワザワした。
「と、とにかく、香奈に連絡しなきゃ…」
美優は震える指でラインを開くと、メッセージを打った。
「香奈、星の遊び場のきなこ@のところに変なアバターが来てい
(つづく)
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