凛子の婚活

東雲さき

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4 凛子、現実を知る⑵

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その日の夜、家事も落ち着き渋りながらも小森さんとメッセージのやりとりをしていた。
この時点で言えることは、もはやお見合い相手としての距離感ではないということ。
どう考えても合コンのノリ、気心の知れた学生同士のノリだった。
そんなもの私は望んでいない。
なぜこんなにも困ったことになっているのか…
そうして私なりに考えた結論がこうだ。

小森さんはお見合いを断られると思っていない、ということ。

なぜならこのお見合いは私から申し込んだからというのが大きい。
写真を見てプロフィールを見て実際に会って話した結果、私が好感触に思った。小森さんが私の好みであると思って自信を持ったとしたら?
それともうひとつ。
自意識過剰発言をしても許されるのなら言いたい。小森さんが私に惚れたとしたら?
結婚に焦っているようには見えなかったから、必死にアピールをしているというわけではないでしょう。年も一歳下の32歳らしいし。
人によるから何歳だから結婚に焦るとか決めつけないけれど、小森さんは絶対に違うと思う。

私の登録している結婚相談所(会員はサポートセンターと呼んでいる)は少々特殊だ。
全国に展開している大手結婚相談所とは違い、相手の写真とプロフィールはセンターでしか見ることができない。
お見合いの申し込みもセンターからすることになる。
私も申し込みをするときはセンターでタブレットを見て、昨今よくあるAI診断を参考にしていた。
申し込む側は写真もプロフィールも存分に見ることができるのだが、申し込まれた側は自分がお見合いを申し込まれたことと相手の簡単なプロフィールしか知ることができない。
詳細を知りたければ予約を取ってセンターに行くしかないのだ。
センターの相談員さん情報によると、大抵の人はセンターで写真とプロフィール等の詳細を見てからお見合いを受けるか受けないかを決めるらしい。かくいう私もそうだった。写真を見て好みでなければお断りした。

それがだ。
小森さんはお見合いの申し込みを即了承した。
申し込んだ当日の返事だったと思う。
相手(私)の詳細確認はしていないはず。
確認する時間を惜しむほど結婚を焦っているわけではないけれど、申し込まれること自体がないからこのチャンスを逃すまいと躍起になっている?
そしていざ会ってみたら私に一目ぼれしてしまったとか。
申し込んでくれたんだからこれはイケると自信を持っているのでは?

そうして出た結論が「小森さんはお見合いを断られると思っていない」だった。
まあ全ては私の妄想なんだけど。

 ◆ ◆ ◆

理想の1日1~3往復をはるかに超えたメッセージをやりとりして流れ的にも時間的にも「もう終わらせてもいいのでは?」と思い送信した。

『そうですね。それではまた明日。』

これに返信が来たとしても返事送らなきゃさすがに悟るでしょ。
こっちはお風呂に入りたいんだよ。

しかし、すぐにバスタイムに突入する予定がつい本を読み始めてしまった。
夢中になり30分ほど経過したところでそれはやってきた。

小森さんからのメッセージ。

えぇー、とげんなりしながらも開いてみる。

『休みが終わっちゃいますね』

ラインじゃなくてヨカッタ…既読つけたくない。
正直こんなのもらっても…という気持ちが強い。
そうだ、こんなことしている場合じゃない!
お風呂に入るんだった!
私は何も見ていない!
よって返信はしない!

 ◆ ◆ ◆

湯船に浸かっている間はなるべく頭を使いたくないのだが、スマホから離れたことで改めて今日のことを振り返ってみる。

小森さんにばかりメッセージ送りすぎと非難していたけれど、私も律儀に返信する必要なかったかも、と反省した。私が調子づかせてしまったも同然だ。
何度か着信に気付かず時間が経ってから返信したこともあったが、そんなことはまるでお構いなしだった。
人の都合を考えられない人なのかも。

この先が思いやられる…

 ◆ ◆ ◆

イヤな予感は当たるもの。
入浴している間に新しいメッセージが来ていた。

『いつも何時に寝るんですか?』

  キ モ チ ワ ル イ !

付き合ってすらいない、友達でもない相手に普通聞く?
こんなことで…と呆れる人もいるかもしれないけれど私はムリ!!

この瞬間一週間後のお茶を待つことなく「お断り」が確定した。

今日一日で一気にストレスが…カラオケ行って大声出したい、実家帰ってニャンズをモフりたい。
起きていても良いことがないので早々に就寝した。

ちなみに一週間後のお茶は断じてデートではない!

 ◆ ◆ ◆

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