賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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最終章 Bottom Of My Heart

シルバーバレット

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 それから三日後の夜。俺は再びドロシーの元を訪れていた。
 前回来た時に作り出した海は、古城オールドキャッスルの回りを申し訳程度に取り囲む程度の量まで減っていた。
 
 前回の時とは違い、一瞥を向けるだけで、城内へと向かう。焦る気持ちは歩きながら踏みつぶした。

 ドロシーは椅子に座っていた。
 目は閉じていたが、俺の気配に気づいたのか、すぐ目を開けた。

「あら、イングウェイ。早かったわね。もう少しかかるかと思ったわ」
「驚かないんだな」
「だって、助けに来ると思ってたもの。それで? 何かいい案でもあったの?」
 彼女は薄く笑った。獲物を見せびらかす猫を見るような表情で。
 その顔には優しさとともに、はっきりとあきらめの色がある。彼女にとって、イングウェイはすべて終わった話になっているのだろう。

「ドロシー、俺はあきらめてはいない。話を聞いてくれ」
「聞いてるわよ、イングウェイ」
「違う、もっと真剣にだ」

 ドロシーの目つきが変わる。生まれたのは苛立ちか不快さかのいずれかだと思った。
 座ったままで身を乗り出して、俺を睨んでいる。俺の瞳孔を通して、脳髄を覗こうとしている。

「私を期待させるだけのものが用意できたの?」
「ああ、そうだ」
「ぬか喜びさせたなら、残った魔力でこの街ニューフクオカを瓦礫にしてから死んでやるわ」
「その時は付き合うさ」

「あなたは、あの女の子たちと楽しく生きる未来もあるのに?」
「それでは、君との刺激ある日々が送れないだろう」

 ドロシーがギルドメンバーたちのことを話題に出すとは思わなかった。だが、知っているならむしろ好都合だ。

「その女の子たちが、君を助けたいと言ってくれたんだ。君からすると未熟な雛同然の女の子たちだろうけど、大切な仲間だ。一度だけでいい、信じてやってくれないか?」

 ドロシーは椅子に座り直し、爪を噛みながらじっと床の一点を見つめていた。
 彼女がどこまで考えを巡らせているのかは知らないが、やる気になってくれることを祈りながら待っていた。

 たっぷりの沈黙の後、ドロシーは言った。

「さっき言ったことは、守ってくれるかしら?」
「約束しよう」
 確実な自信など、俺にもない。哀れな住人達ジャンキーたちを巻き込むことになったときには、地獄で謝るくらいしかできないけれど。

「いいわ、話してみて」
 その言葉に、俺は安堵した。信じていた。君ならきっとそう言ってくれると。
 しかし、時間は少ない。

「まず確認しておきたいが、俺の肉体は保存してあるな?」
「は? まず聞くのはそこから? 呆れたわ、そんな大事なことを聞かずに返事をしたわけ? あそこまでもし「いいえ」って言われたらどうするつもりだったのよ」

「信じていたからな。君ならあの瞬間のまま、肉体を保管してくれると」
「……まあ、そりゃあね。あなたが精神体アストラルボディで戻ってくるなら、肉体が必要になるのはわかっていたもの。で、そのあとはどうするの?」

「ああ、単純な話だ。次元の移動に障害となっているのは、肉体のみ。ならば君の肉体はインベントリに突っ込んで、君は精神体アストラルボディのみでアサルセニアを目指せばいい」

 ドロシーは少しだけ眉を寄せ、考え込む。

「なるほど。インベントリには生物は入れないけれど、遺体ならばインベントリに収容できる。確かにそれなら、この体を持っていけるわね。――ただ、私の精神体アストラルボディは、錆びた釘でこの世界に打ち付けられているのよ。それはどうするの?」
「対策は用意した。あとは効果がどれだけあるか、だな」

 ダイヴシステムのジャックは、魔術を腐食させる金属の呪いだ。俺が用意した銀の銃弾シルバー・バレットは、世界とのつながりを断ち切る刃となるのだろうか。

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