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第18章 サイレンス

愛の力

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 一人の力では解決できないと判断した俺は、その夜はとりあえず解散することにした。

 スターキーにはかなりしつこく「何とかしてください」と頼まれた。彼には悪いが、さっぱりいい考えは浮かばない。

 困った。賢者とまで言われた俺だったが、まさか恋愛相談という弱点があったとは。

 帰り道、俺は頭を冷やし、もう一度問題を整理してみる。
 アリサは、スターキーと一緒になりたい。スターキーは、アリサと一緒になりたくない。
 うむ、どう考えても平行線だ。

 普通に考えるとアリサに彼ぴをあきらめてもらうしかないのだが、会話で説得できるようなら苦労はしていない。となるとやはり荒療治しかないのだが、さすがに精神魔術メンタル・マジックを使用するのは、心が痛む。たぶん違法だしな。

「ただいま。帰ったぞ」
「おや、お帰り、イングウェイ。遅かったね」

「マリアか。相変わらず仕事熱心だな。根を詰めすぎると、脳が腐るぞ」

「あー、ひっどい言い方だなあ。大丈夫、もう寝るところだから。それよりどしたの? 珍しく困った顔して」

「実は恋の悩みを抱えていてな」
「はあ!? 恋?? イングウェイが?? うっそだー!」


 実はかくかくしかじかでな。
 まったく、俺にだって恋の経験の一つや二つくらいある。それを嘘だとは、なんて失礼な奴だ。
 とはいえマリアも麗しの乙女ゾンビ。恋愛には興味津々のようで、言い方はともかく、目を輝かせてこちらの話を聞いてきた。



「なーんだ、インギーが誰かに恋してるのかと思った。ボクの勘ではサクラだけど、レイチェルもありだよねー。なんてったって、あの二人は一番付き合いも長いしさ」

「お前かもしれないじゃないか、マリア」
「うええ? だって私、ゾンビーだよ!? ……え、もしかして本気にしていいの?」
「可能性の問題だ、マリアを除去するわけがないだろう」
「嬉しいなあ、ありがとうインギー。って、脱線しちゃったね。アリサだっけ? ギルドの受付嬢の子だったよね?」

 そういえばマリアはアリサとはあまり面識がなかったな。
 マリアは他のメンバーとは違って、冒険者ギルドに出向いて依頼を受けることはほとんどない。
 彼女はたいていは工房アトリエにこもって道具作りをしている。たまに鍛冶の依頼もあるのだが、実際に窓口でやりとりするのは俺たちだ。

「そんなに暴走するような人には見えなかったけどなあ。人は見かけによらないもんだねえ」

「そうだな。スターキーもなかなか良いやつだったから、勘違いしてしまったのかもしれない」

「えーと、要するにアリサがスターキーさんに夢中になり過ぎてるから、熱を冷ましてやればいいんだよねえ?」
「ああ、そうなるな。やはり精神魔術メンタル・マジックを使うしかないか」
「いや、だめでしょそんなの」
「しかし……」

「だーめ! インギー、そうやって自分の考えた解決方法を強引に押し付けようとするのは、キミの悪いクセだよ。魔術どうこうじゃなくてね」

 マリアは俺の言葉を遮り、真剣な表情で訴えた。俺はどきりとした。俺のふやけた脳髄を、マリアの言葉は的確にえぐったのだ。

「……すまない」

「うん、大丈夫、実際にインギーのそういうところに助けられてもいるから。でもね、人にはみんな心があって、それぞれの考え方があるんだ。結果だけに飛びついて過程をすっとばしちゃったら、気持ちは置いてけぼりになっちゃうんだよ」

「……そういうものなのか?」
「そういうものなの。だからね、アリサの気持ちも考えてあげなきゃ」

 俺はマリアの言葉を頭の中で反芻した。心がぎしぎしときしんでいるような音が聞こえた。

「でも、アリサももったいないよねえ。あの子、かなりモテるらしいよ」
「そうなのか? 意外だな。浮いた話はあまり聞いたことがないのが」
「あー、そりゃね。だってアリサがモテるのって、ギルドの冒険者連中だもん。ごっつい筋肉に汗臭い体に、あと年上ばっかりだろうし、なっかなかアリサ好みの冒険者はいないだろうからねえ」

「ふーむ。もったいないな、せっかく好意を寄せてくれる人物がいるというのに」
「そりゃ好みじゃないなら、仕方ないさ」
「好みか。……なあマリア、もし君が好みでない相手に好意を寄せられたら、迷惑か?」
「え? どうだろ。迷惑ー、ではないかなあ、たぶん。嬉しいとは思うよ」

 なるほど。
 アリサの気持ち。好みの問題。
 そして呪いの指輪カーシド・リング
 俺の頭にぼんやりとしたアイデアが形になろうとしている。

「マリア、君の鍛冶の腕を見込んで、頼みがある。これなら、解決できるかもしれない」
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