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第16章 聖なる戦い
聖なる戦い
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~アントニーその2~
王城を出立した僕らは、レノンフィールド領のさらに北、魔王城を目指していた。
すでにここは、王国の土地ではない。
「ねえニーナ、このあたりって元々は隣国の土地だったんだろ? 魔王が去ってからって、どういう扱いになってたの?」
「ずっと空白地帯ですね。魔王が去ったといっても、魔族も魔物も多数生息してますからね。おまけに土地としては、森や荒れ地ばっかりです。アサルセニアとしても隣国としても、手を出すうまみがあんまりないんですよ」
僧侶のニーナは博識だ。冒険者なんてやっているけど、もともとは貴族の娘だから、政治事情にもすごく詳しい。
「まあ、お互い下手に手を出すよりゃあ、緩衝地帯ってことにしといたほうが都合がいいんだろうよ。そもそも魔族から見たら、人間の国に挟まれてるわけだしな。三すくみになって、それなりにバランス取れてんだろう」
なるほどね。理屈は通るんだけど、気になることもある。
「そんなどの国の影響も受けづらいところに転生者がよく現れるってのも、都合のいい話だよね」
「そりゃそうかもしれねえが。考えてもきりがねえぞ?」
「ジャミルは考えなさすぎですよ。まったく、戦うことしか頭にないんですから」
「がっはっは。しかし世の中、強くなんなきゃ話にならねえことも多いからな。ニーナも少し、あの猫娘を見習った方がいい。あいつは強くなるぜえ」
最近ジャミルは、町で猫娘の少女によくからまれているらしい。
面倒くさそうに話すけれど、その少女の話をするときのジャミルは、いつも嬉しそうだ。
前より動きがよくなっているとか、俺の動きを利用して一発当ててきたとか。
乱暴な性格に見えて、ジャミルは面倒見がいい。きっと猫娘の冒険者がダンジョンで死なないように、弱点をうまく鍛えてやっているのだろう。
「いいですよーだ、私は筋肉なんて鍛えませんから!」
ニーナはすねたよう言う。が、ジャミルは言葉を続けた。
「力の話じゃねえよ、向上心の話だ。お前、さっさと冒険者を引退してアントニーと結婚したいのがバレバレなんだよ!」
「ななな、なに言ってるんですかジャミルぅ! そそそ、そんなわけないじゃないですか!!」
「ははは、まあまあ」
ニーナと僕は一応恋人同士だ。ニーナには悪いけど、僕はまだ冒険者をやめるつもりはない。
転生者という特殊な立場には、きっと何か意味があると感じているからだ。
それが解決しない限りは、戦うことをやめるわけにはいかない。
――転生者。
それがどれだけ特殊な存在なのか、僕は身に染みてわかっているつもりだ。
この地に転生して、すでに10年近くが経とうとしているが、今のところ自分以外の転生者に出会ったことはない。
転生者の一番の特徴は、その戦闘能力。
女性しか魔法を使えないこの世界で、僕は魔法を使うことができる、唯一の存在だ。
(普段は魔道具の力ということにして、うまくごまかしている)
そして、300年前に現れたという魔王。彼もまた、魔法を使う男性だった。
そして、魔族。魔族は魔力に長けた種族だそうだ。女性の魔族はほぼ例外なく、見た目でわかるくらいに魔力が高い。そして、魔族は男性も魔法を使う。
これを偶然で片づけていいのだろうか?
繰り返すが、転生者の多くは、高い戦闘力を持っている。
転生者がみんないい人なら、それでも何も問題はないのだけど。けれど、力の誘惑は絶大だ。
魔王の例を見るまでもなく、人は、その誘惑には抗えない。
僕だって、ニーナがいなければ、道を踏み外していたかもしれないのだから。
僕がこの世界に転生した意味は、今、この戦いのためだと思っている。
旅の先で何が待っているかわからない。もしかしたら、僕の力が及ばない敵が待っているのかもしれない。
それでも、逃げるわけにはいかないのだ。
僕を生かしてくれた、この世界。アサルセニアの国のみんな。
そして何より、仲間たち。 ジャミル、ジニー。 そして、愛するニーナ。
みんなのためにも、僕は戦いから逃げるわけにはいかないのだ。
王城を出立した僕らは、レノンフィールド領のさらに北、魔王城を目指していた。
すでにここは、王国の土地ではない。
「ねえニーナ、このあたりって元々は隣国の土地だったんだろ? 魔王が去ってからって、どういう扱いになってたの?」
「ずっと空白地帯ですね。魔王が去ったといっても、魔族も魔物も多数生息してますからね。おまけに土地としては、森や荒れ地ばっかりです。アサルセニアとしても隣国としても、手を出すうまみがあんまりないんですよ」
僧侶のニーナは博識だ。冒険者なんてやっているけど、もともとは貴族の娘だから、政治事情にもすごく詳しい。
「まあ、お互い下手に手を出すよりゃあ、緩衝地帯ってことにしといたほうが都合がいいんだろうよ。そもそも魔族から見たら、人間の国に挟まれてるわけだしな。三すくみになって、それなりにバランス取れてんだろう」
なるほどね。理屈は通るんだけど、気になることもある。
「そんなどの国の影響も受けづらいところに転生者がよく現れるってのも、都合のいい話だよね」
「そりゃそうかもしれねえが。考えてもきりがねえぞ?」
「ジャミルは考えなさすぎですよ。まったく、戦うことしか頭にないんですから」
「がっはっは。しかし世の中、強くなんなきゃ話にならねえことも多いからな。ニーナも少し、あの猫娘を見習った方がいい。あいつは強くなるぜえ」
最近ジャミルは、町で猫娘の少女によくからまれているらしい。
面倒くさそうに話すけれど、その少女の話をするときのジャミルは、いつも嬉しそうだ。
前より動きがよくなっているとか、俺の動きを利用して一発当ててきたとか。
乱暴な性格に見えて、ジャミルは面倒見がいい。きっと猫娘の冒険者がダンジョンで死なないように、弱点をうまく鍛えてやっているのだろう。
「いいですよーだ、私は筋肉なんて鍛えませんから!」
ニーナはすねたよう言う。が、ジャミルは言葉を続けた。
「力の話じゃねえよ、向上心の話だ。お前、さっさと冒険者を引退してアントニーと結婚したいのがバレバレなんだよ!」
「ななな、なに言ってるんですかジャミルぅ! そそそ、そんなわけないじゃないですか!!」
「ははは、まあまあ」
ニーナと僕は一応恋人同士だ。ニーナには悪いけど、僕はまだ冒険者をやめるつもりはない。
転生者という特殊な立場には、きっと何か意味があると感じているからだ。
それが解決しない限りは、戦うことをやめるわけにはいかない。
――転生者。
それがどれだけ特殊な存在なのか、僕は身に染みてわかっているつもりだ。
この地に転生して、すでに10年近くが経とうとしているが、今のところ自分以外の転生者に出会ったことはない。
転生者の一番の特徴は、その戦闘能力。
女性しか魔法を使えないこの世界で、僕は魔法を使うことができる、唯一の存在だ。
(普段は魔道具の力ということにして、うまくごまかしている)
そして、300年前に現れたという魔王。彼もまた、魔法を使う男性だった。
そして、魔族。魔族は魔力に長けた種族だそうだ。女性の魔族はほぼ例外なく、見た目でわかるくらいに魔力が高い。そして、魔族は男性も魔法を使う。
これを偶然で片づけていいのだろうか?
繰り返すが、転生者の多くは、高い戦闘力を持っている。
転生者がみんないい人なら、それでも何も問題はないのだけど。けれど、力の誘惑は絶大だ。
魔王の例を見るまでもなく、人は、その誘惑には抗えない。
僕だって、ニーナがいなければ、道を踏み外していたかもしれないのだから。
僕がこの世界に転生した意味は、今、この戦いのためだと思っている。
旅の先で何が待っているかわからない。もしかしたら、僕の力が及ばない敵が待っているのかもしれない。
それでも、逃げるわけにはいかないのだ。
僕を生かしてくれた、この世界。アサルセニアの国のみんな。
そして何より、仲間たち。 ジャミル、ジニー。 そして、愛するニーナ。
みんなのためにも、僕は戦いから逃げるわけにはいかないのだ。
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