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第16章 聖なる戦い
熱狂
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~アントニー~
「アントニー、準備はできたのかしら?」
「ああ、今行くよ、ニーナ」
僕はアントニー・ブランド。職業は魔法剣士だ。
かつてとある小国に生まれた僕は、冒険者としていろんな街を旅していた。
最後の依頼は、老竜の襲撃から街を守ること。だが、僕の命はそこで尽きた。
炎のブレスに倒れた僕は、気づいたらここ、アサルセニアに転生していた。
僧侶のニーナは、そのとき助けられてからの付き合いだ。
「まったく、遅いですよ。みんな準備できてるんですからね!」
「はは、ごめんごめん」
ぷんぷんと怒っているのは、ジニー・ペイジ。魔法使いだ。
僕はぽんぽんとジニーの頭を撫でながら謝る。
「ぶー、そんなんじゃごまかされないですー」
ジニーはまだ子供だが、優秀な魔法使いだ。この世界ではどうやら胸に魔力が宿るようで、胸の大きい女性のほうが、魔力が強くなりやすい傾向にある。
ジニーのように低年齢でこのような強い魔力を持つ女性はまれらしい。
「いつまでじゃれあってんだ。そろそろ気を引き締めろよ」
最後に声をかけてきたのは、ジャミル。最年長で、生粋の戦士だ。斧使いのジャミル・ソールといえば、冒険者の中には知らないものはいないくらい有名らしい。
ジャミル、ニーナ、ジニー、そして僕。
この4人が、今の僕のパーティー、『永遠の歌』だ。
彼らは、僕が魔法を使えることを知っている。
転生のことも話したが、偏見などなく、受け入れてくれた。
本当に僕にはもったいない、最高の仲間たちだ。
そして、そんな最高の仲間たちに、僕はたったひとつ、ウソをついている。
『ステータス・オープン』
小さな電子音とともに、ブルーのステータスウィンドウが表示される。
僕はそれぞれを確認していく。
横から見ていたジャミルが、野太い声で言った。
「おう、とうとうレベル45になったのか。すげえな、人間じゃ新記録じゃねえのか? こりゃあ、魔法なしで俺が負ける日も近いかもな。はっはっは」
「冗談でしょ、まだまだジャミルにはかなわないよ」
軽口を言う僕の心に少しだけ影が落ちる。
僕の本当のレベルは、65。ステータスの数値も偽装されている。
転生者である僕と、この世界の人たちとは、かなり力の差がある。
いっそ最初に話してしまっていれば、楽だったろう。
けれど、前世での苦い記憶が、それをさせなかった。
僕は仲間を、心の底から信じている。けれど、もし……、もしも、その信じている仲間に裏切られたとしたら。
いくつものifが、僕の心を塞いでいった。
今更、話せないよなあ。
深いため息。
ウィンドウを閉じ、僕は城の入り口に向かう。
かすかに聞こえていた喧噪が、次第に大きくなっていく。
ぎいいぃぃぃ
城の門が開くと、街道は勇者の出発を待つ市民であふれていた。
「うおー、勇者様だー」
「ジャミルだ、あいかわらずでけえなあ」
「がんばってー、魔王なんかぶっころせー」
「ジニーちゃん、まじロリ巨乳!」
「魔族にやられた息子の仇をとってー」
「「「「「わーわー、がやがや」」」」」
民衆の熱狂が渦巻いていた。
先日の王都の襲撃で、実際に被害を受けたものは多い。
だが、それ以外にも、『魔族』というこの世界のイレギュラー的存在に疑問を持つものもいる。
魔術研究社だ。彼らは、今回の僕らの遠征で、魔術研究への進歩に期待を寄せている。
単にお祭り騒ぎが好きなものもいるだろう。
それに、人が集まればそれだけで金になる。あくどいことを考えるものも。
さまざまな思惑のなか、僕らは旅立つ。
「行ってくるよ、みんな」
「「「「「うおー、わーわー」」」」」
「アントニー、準備はできたのかしら?」
「ああ、今行くよ、ニーナ」
僕はアントニー・ブランド。職業は魔法剣士だ。
かつてとある小国に生まれた僕は、冒険者としていろんな街を旅していた。
最後の依頼は、老竜の襲撃から街を守ること。だが、僕の命はそこで尽きた。
炎のブレスに倒れた僕は、気づいたらここ、アサルセニアに転生していた。
僧侶のニーナは、そのとき助けられてからの付き合いだ。
「まったく、遅いですよ。みんな準備できてるんですからね!」
「はは、ごめんごめん」
ぷんぷんと怒っているのは、ジニー・ペイジ。魔法使いだ。
僕はぽんぽんとジニーの頭を撫でながら謝る。
「ぶー、そんなんじゃごまかされないですー」
ジニーはまだ子供だが、優秀な魔法使いだ。この世界ではどうやら胸に魔力が宿るようで、胸の大きい女性のほうが、魔力が強くなりやすい傾向にある。
ジニーのように低年齢でこのような強い魔力を持つ女性はまれらしい。
「いつまでじゃれあってんだ。そろそろ気を引き締めろよ」
最後に声をかけてきたのは、ジャミル。最年長で、生粋の戦士だ。斧使いのジャミル・ソールといえば、冒険者の中には知らないものはいないくらい有名らしい。
ジャミル、ニーナ、ジニー、そして僕。
この4人が、今の僕のパーティー、『永遠の歌』だ。
彼らは、僕が魔法を使えることを知っている。
転生のことも話したが、偏見などなく、受け入れてくれた。
本当に僕にはもったいない、最高の仲間たちだ。
そして、そんな最高の仲間たちに、僕はたったひとつ、ウソをついている。
『ステータス・オープン』
小さな電子音とともに、ブルーのステータスウィンドウが表示される。
僕はそれぞれを確認していく。
横から見ていたジャミルが、野太い声で言った。
「おう、とうとうレベル45になったのか。すげえな、人間じゃ新記録じゃねえのか? こりゃあ、魔法なしで俺が負ける日も近いかもな。はっはっは」
「冗談でしょ、まだまだジャミルにはかなわないよ」
軽口を言う僕の心に少しだけ影が落ちる。
僕の本当のレベルは、65。ステータスの数値も偽装されている。
転生者である僕と、この世界の人たちとは、かなり力の差がある。
いっそ最初に話してしまっていれば、楽だったろう。
けれど、前世での苦い記憶が、それをさせなかった。
僕は仲間を、心の底から信じている。けれど、もし……、もしも、その信じている仲間に裏切られたとしたら。
いくつものifが、僕の心を塞いでいった。
今更、話せないよなあ。
深いため息。
ウィンドウを閉じ、僕は城の入り口に向かう。
かすかに聞こえていた喧噪が、次第に大きくなっていく。
ぎいいぃぃぃ
城の門が開くと、街道は勇者の出発を待つ市民であふれていた。
「うおー、勇者様だー」
「ジャミルだ、あいかわらずでけえなあ」
「がんばってー、魔王なんかぶっころせー」
「ジニーちゃん、まじロリ巨乳!」
「魔族にやられた息子の仇をとってー」
「「「「「わーわー、がやがや」」」」」
民衆の熱狂が渦巻いていた。
先日の王都の襲撃で、実際に被害を受けたものは多い。
だが、それ以外にも、『魔族』というこの世界のイレギュラー的存在に疑問を持つものもいる。
魔術研究社だ。彼らは、今回の僕らの遠征で、魔術研究への進歩に期待を寄せている。
単にお祭り騒ぎが好きなものもいるだろう。
それに、人が集まればそれだけで金になる。あくどいことを考えるものも。
さまざまな思惑のなか、僕らは旅立つ。
「行ってくるよ、みんな」
「「「「「うおー、わーわー」」」」」
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