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第15章 再びアサルセニア
横たわったフィッツ
しおりを挟むジャミルという男が去ったあと、俺は庭に急いだ。
寝ているサクラとレイチェルはもちろん放置だ。
ぐったりと横たわったフィッツ。
「おい、大丈夫か、生きているか?」
「うう、その声は、インギーかにゃあん? ごめんにゃ、留守を守れなかったにゃ。くそう、あいつめええ、また負けたにゃぁぁ」
何ということだ。っておい、
「フィッツ、お前は今、「また負けた」と言わなかったか? あの男を知ってるのか?」
「知ってるにゃん? たまに街で出会う、強そうな筋肉男にゃん。なんでうちを知っていたかは知らにゃいけど、また負けたにゃん」
そういえば最近、町中でケンカに負けた話を聞いた気がする。
フィッツは素早さだけでなく、アリ由来の筋力も相当なものだ。ただ、技術面ではまだまだだ。
そんな彼女が何度も負けているということは、あいつは単純な筋肉だけでなく、格闘技術も相当なものだろう。
なかなか手ごわそうだな。
そういえばマリアたちは?
「ああ、マリアなら奥で寝てるにゃん。今日も徹夜で怪しい機械をいじってたにゃん」
まあ、ゾンビ―の彼女が出てきても、話がややこしくなるだけだ。
「そうか。えらいぞフィッツ、一人でよく我々のホームを守ってくれた。頑張ったな」
「えへへー」
とりあえずその日は体を休め、昼過ぎにギルドへと向かった。
まずは情報収集だ。
「デイヴィッド。久しぶりだな」
「おお、インギーじゃねえか。久しぶりだな。噂は聞いたぜ、遠征行く途中にドラゴンぶっ殺したんだってな」
「ああ。だが、そんなことはどうでもいい。聞きたいことがあるんだ」
デイヴィッドは、Sランクギルド『白蛇』のリーダーだ。おれが酒をおごってから仲良くなった。
「ジャミル・ソールという名前の男を知らないか? 筋肉達磨だ。むかつく顔をしている、常識と加減を知らないやつだ」
「はあ? あのジャミルかあ?」
「知っているのか、教えてくれ。なんなら報酬も払う!」
デイヴィッドは呆れた顔で言った。
「報酬なんかいらねえよ。だいたい有名人なんだから、みんな知ってるぜ。むしろ、お前はなんで知らねえんだよ」
「む、有名人だと?」
「そうだ。いいか、あいつはアサルセニア唯一のSSランクギルド、『永遠の詩』の前衛(タンク)だ」
「『永遠の歌』だと、聞いたことがあるな」
「そりゃそうだろ。単に勇者パーティーって言った方が早いだろうけどな」
「ああ、なるほど」
勇者パーティーなら知っている。以前キョニーとかいう魔族が攻めてきたときに、王の前でひと悶着あったパーティーだ。
たしか、優男の魔法剣士、斧使いのごつい戦士、そして女魔術師と女僧侶。
あのとき斧使いの戦士はサクラ相手にどたばたしていただけだと思っていたが、全然本気ではなかったということだろう。
俺は納得した。どうりで強いわけだ。
「どうしたんだよインギー、奴らと何か揉めたのか?」
「ああ、ちょっとな。仲間が世話になったんだ」
「そりゃ残念だったな、あいつら近いうちに王都を発つぜ。ほら、こないだお前さんらが出かけた北の遠征。そのさらに先にある、魔王城の調査だとよ」
なんだと?
◇◇◇◇◇◇
「というわけで、むかつくジャミルとやらは、北へ向かうそうだ。追いかけて仕返しをしてやりたい」
「はあ。 それはいいんですけど、いったいなんで急にそんなことに?」
レイチェルとサクラはぽかんとして聞いている。お前たちは寝ていたから、知らないのだ。やつがどんなにむかつくやつなのか。
王都を離れるのは、俺たちにとっては都合がいい。魔法を使って戦うなら、目撃者は少ないほうがいいからな。
よし、決まりだ。
「でもさー、インギー。そもそもそのジャミルって人は、うちにゾンビだのの調査で訪れたんだろ? そっちを疑われたまんまでいるのは、まずくない? ってゆーかボク、ゾンビだし機械作ってるし、家に踏み込まれたりでもしたら、めっちゃ危ないんだけどさ」
マリアの質問はもっともだ。
俺は考えた、そして閃く。
「ふむ、俺の昔いた世界での言葉だが。『木を隠すなら森』という言葉がある」
「ふむふむ? どういう意味です」
「要するに、うちのギルドが目立たなければ良いのだ。下手に隠さず、レイチェルの死霊術で、この付近の家に無差別にゾンビを沸かせるのだ。南に共同墓地もあっただろう。そちらで骸骨を大量発生させてもいい。それならうちにだけ調査をする理由もなくなるし、時間も稼げるだろう」
「「「却下!!」」」
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