上 下
139 / 200
第14章 サクラ、がんばる!

It's better to grope than to research

しおりを挟む

「サクラ、マリア、レイチェル――」
 男の言葉に、私は耳を疑った。が、問いただす暇はなかった。
 男がすぐにうめきながら倒れこんだからだ。
 思わずかけより、抱きとめるようにその体を支える。酒臭い息の不快さを脳みその奥に蹴り飛ばす。

 心配する私に、男はとんでもないことをしでかした。

 布の上から感じる、乱暴だがたくましい手の感触。
 骨どころか筋肉すらない私のそれは、無抵抗のままに、彼の手の中で形を変える。
 布越しなのがまずかった。ごつごつした指を上書きされ、全体を優しく包まれる感触がやってくる。余計な部分までがこすれてしまい、思わず体の芯が熱くなる。
 彼の手はよろける体の動きのままに、上から下までなぞるように円を描く。痛みを感じるギリギリまで強くすぼまったかと思えば、その後ゆっくりと弱められる。
「ひゃあっ、ああんっ」
 漏れる吐息をなんとかごまかすと、私は男を軽く突き飛ばし――本当に軽くだよ。だって、わざとじゃないってわかっていたから。
 そして、胸元を急いで両手で抑えると、息を整えようと頑張る。
 はあ、はあ。

「……ラ。君は、サクラ・チュルージョかい?」

 へ? その名前って……。
 彼は、今度こそはっきりと私の名前を言った。サクラ・チュルージョと。

「そうですよ。確かに私は美人の女サムライ、サクラ・チュルージョです。あなた、どうしてその名前を知っているんですか?」
 私は彼の目をじっと見つめながら聞いた。スカイブルーの瞳がぐりぐりとこちらをにらみ返してきて、少しだけたじろいだ。

 彼は言った。
「ダイヴしたときに、パーティーを組んでいた」

 私は聞き返す。
「ダイヴ? ですか。……聞いたことあるような、ないような。それはどんな魔法なんです?」

 彼は説明に困っているようで、眉間にしわを寄せ、怖い顔で首を振った。
 少しばかり黙りこくった後、今度は彼から聞いてきた。
「こちらからも聞きたいことがある。このドラゴンはなんなんだ? それと、お前が使っていた魔法も」
 なんだと言われても困ってしまう。
「ドラゴンはドラゴンでしょう。確かに昔と比べてずいぶん減っちゃったって聞きますけど、カルポス山脈にはまだ生息しています。ちょっと前に、村だって襲われたんですよ。見たことないんですか?」
「ああ、ないね。……少なくとも現実では」
「魔法も?」
「それは見たことがある。≪電撃ライトニング≫だろう? 俺もよく使っていた」
「やっぱり、知っているんじゃないですか」

 なんだろう、この人は。
 もしかして王宮とかでずっと何かの研究を続けていたのかもしれない。本で色々読んだことはあるけど、実際には見たことがないとか?
 私が不思議そうな顔をしていると、彼はイラつきが限界に来たのか、急に激しい口調で怒鳴るようにまくしたてた。
「だから! それはダイヴ内での話だろ? 俺は現実リアルの話をしているんだ! このクソでかい化け物はどこから来た? お前のライトニングは魔法か? それとも、どんな武器アイテムを使った? 俺はまだダイヴ中なのか、夢でも見てんのか? こんなクソみたいな虚構リアルの夢を!」

 うう、そんなに怒らないでくださいよ。私だって状況がよくわかんないんですからー。
 もう泣き出してしまいそうだ。

「クソが」

 彼は吐き捨てるように言うと、また変な車に乗ってどこかへ行ってしまった。
 いいな、あの馬車。便利そうだなー。

 それにしても、彼は誰なんだろう。 イングウェイさんと名乗っていたけれど、あの人とはあまり似ていない――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。 そんな兄妹を、数々の難題が襲う。 旅の中で増えていく仲間達。 戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。 天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。 「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」 妹が大好きで、超過保護な兄冬也。 「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」 どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく! 兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

うちの兄がヒロインすぎる

ふぇりちた
ファンタジー
ドラモンド伯爵家の次女ソフィアは、10歳の誕生日を迎えると共に、自身が転生者であることを知る。 乙女ゲーム『祈りの神子と誓いの聖騎士』に転生した彼女は、兄ノアがメインキャラの友人────つまり、モブキャラだと思い出す。 それもイベントに巻き込まれて、ストーリー序盤で退場する不憫な男だと。 大切な兄を守るため、一念発起して走り回るソフィアだが、周りの様子がどうもおかしい。 「はい、ソフィア。レオンがお花をくれたんだ。 直接渡せばいいのに。今度会ったら、お礼を言うんだよ」 「いや、お兄様。それは、お兄様宛のプレゼントだと思います」 「えっ僕に? そっか、てっきりソフィアにだと………でも僕、男なのに何でだろ」 「う〜ん、何ででしょうね。ほんとに」

処理中です...