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第14章 サクラ、がんばる!

The girl takes another bullet

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 状況もわからないまま、私は紫の靄パープルヘイズに飲み込まれる。
 時折ぱちぱちと爆ぜているのは、暴走しかけた魔力の奔流マナ・フレア
 誰が組んだか知らないが、ずいぶんと不安定な術式だ。
 足元に気を付けながら進む。まるで雲を踏んでいるように、ふわふわとした頼りない感覚

 どれほど進んだだろうか。遠くに、光で満ちたゲートが見えた。
 時間の感覚も、距離の感覚もなかった。
 立ち止まって見回すが、それ以外に道らしきものはない。

「やれやれだな」
 ため息交じりにつぶやき、歩き出す。

 身を包む光と、浮遊感――。

 次に私が立っていたのは、山の中にある広い畑の中だった。
 畑と言っても、”元”だと思う。長いことほっておかれたようで、草は伸び、荒れていた。使っていた形跡はない。

「ずいぶん暑いな」
 季節は夏なのだろうか。じりじりと肌を焼く日差しに、緑の木々。魔素マナは恐ろしく薄い。どうやらここは、元の世界からは遠く離れたところらしい。
 はっと気づいて後ろを振り向くと、すでに靄はかき消えつつあった。
 しまった、これでは戻れなくなる。 ――戻る? いったいどこへ?


 上空で、があがあとやかましい声がする。
 見上げるとそこには、巨大な深紅のドラゴンが飛んでいた。
 ごうという風の音。畑に落ちる黒い影。
 ドラゴンは空で何かを探しているかのように、大きく円をかいて旋回していた。

 心の奥に火がともる。
 あれは私の獲物だ。私はあれを狩りに来たのだ。
 頭の中で確認する。私が上で、あいつが下だと。

 すっと天にむけて右手を突き出し、唱える。
電撃ライトニング≫と。

 白い稲妻が、地から天へと上る。
 腹の底に響く雷鳴サンダークラップを息を止めて耐える。足を少しひらき、ふらつく頭を押さえる。
 ドラゴンが広げている翼から、幾筋かの白煙が見えた。バランスを崩し、傾きながら落ちてくる。
 必死で引力に抵抗しようとするのだが、その羽ばたきは落下速度をわずかに鈍らせただけで終わる。

 ドラゴンは落ちながらも、強く私を睨みつけた。どうやらやる気のようだ。
 大きく咢を開き、汚らしい火球を吐き出す。
 私はかわしつつも二発目の≪電撃ライトニング≫を打つ。
 細く頼りない電撃。魔力不足もあるだろうが、それよりもマナが薄いのがきつい。

 ドラゴンはほとんど落ちるように滑空しながら、何度も火炎ブレスを吐いた。
 かわしながら電撃ライトニングで応酬するが、どれほどの効果があったことか。
 私はとっさに腰に下げていたカタナ、モモフクを抜き、突っ込んでくるドラゴンを受け止めた。
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