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第14章 サクラ、がんばる!

Let the Show Begin

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 村を探しながら歩いていた私は、運良く日がくれる前に村を見つけることができた。さすが私。きっと日ごろの行いが良いせいだ。
 ただ、その村はやけに寂れていた。
 夕方だというのに子供の声ひとつ聞こえず、明かりがついている家も少ない。
 農機具もぼろぼろだし、よく見ると荒れている畑も多い。

「あのー、すみませーん」
 村の入り口にいた、元気のない老人に声をかける。

「ううむ、どうした、かわいいお嬢さん。ここはタコス村。見ての通り何もないところじゃ。道にでも迷いなさったのか?」
 かわいいかー。そういえば最近さっぱり言われていない。昔の、ギルドの仲間が少なかったあのころは、よく言われていたと思うけど。
 少し冷たい風が胸を吹き抜ける。ううん、ダメダメ、前向きにがんばらないと!

「……あのー、お嬢さん、聞いちょるか?」
「え? あ、はい! すみませんっ。実は旅の途中なんですけど、泊まる場所がないかなーって」
 あえて目的地は喋らない。ナイショで追ってきてるのだ、秘密がどこから漏れるかわからないからだ。

「ほう、宿屋かー。しかしここらへんは、西の街道ができてから、旅人がめっきりへってのう。どこもつぶれてしもうたのじゃ。どうしてもと言うなら、馬小屋が空いておるがのう……」
 おじーさんは考え込みながら、おヒゲをくりくりとねじっていた。
 街道というのは、さっきドラゴンが向かった例の道のことだ。

 私は、おじいさんが気にしないように、明るく笑いながら答えた。
「なあに、こっちだって冒険者やってるんです。馬小屋でも泊まれれば上等ですよ」
 実際、冒険者の間では馬小屋に泊まるというのは普通のことだ。
 お金がある熟練冒険者だって、指が勝手に馬小屋を選ぶことがあると聞く。馬小屋で寝ると年を取らないというジンクスまであるくらいだ。

「……お前さん、立派な武器を持っちょるのう。もしかして、強いのか?」
「え?」

 おじいさんの視線は、腰のモモフクに向かっていた。
 この国で、カタナを使う戦士は珍しい。おじいさんがカタナを知っているわけではないだろうが、名刀というのは素人にもわかるものなのだ。

「もちろんですよー。アサルセニアの美人剣士サクラさんといえば、私のことですから!」
 胸を張り、少しわざとらしいくらいに、元気に自信たっぷりに答えてみる。

「お嬢さん、なんならひとつ、仕事を引き受けてくれんか?」
「ふえ、仕事?」
「さよう。実は最近、カルポス山脈を降りてくるドラゴンがおってのう。悪いことに、この村が標的にされてしまったのじゃ」

「え゛」 

 私は言葉を失った。ドラゴンから逃げてきた先が、ドラゴンの餌場になっている村だったとは。
「あいつら、牛や馬を食いまくってのう。立ち向かった村人たちも……」
 おじいさんは目頭を押さえ、かすれる声で言った。

 旅人も通らない、おそらく商人もあまり来ないこの村では、農耕用の牛や馬がいかに大切か。田舎育ちの私には痛いほどよくわかる。そして、働き手も失われたとなると。
 この村を包むどんよりした空気の本当の理由が、やっとわかった。わかってしまった。

 ――しかし。
 なんとかしてやりたいのはやまやまだ。けれど、ドラゴン退治だって? この私が?
 そりゃ以前に比べてレベルもあがったし、イングウェイさんについて冒険している間に、強者相手の立ち回りも色々と教えてもらった。
 しかしそれでも、ドラゴン退治を気軽に引き受けられるかというと、それはまた別問題だ。

 うー、どうやって断りましょう。そうですね、イングウェイさんを連れて来れば、何とかしてもらえるかな。
 困っている私のところへ、一人の女の子がやってきて言った。
 女の子は物陰からずっと、おじいさんと私のやり取りを見ていたようだ。

「おねーちゃん、どらごん、やっつけてくれるのん? おとーさんのかたき、うってくれるのん?」

 ボロをまとった、ぼさぼさの髪をした女の子。その目には今にもこぼれそうな涙。しかし、女の子は必死に耐えている。

 もうだめだ、私の心のじくじくは、限界だった。
 私は女の子を抱きしめて、強い口調で約束した。

「おねーちゃんに任せておいて。ドラゴンは、私が倒してあげる。大丈夫、おサムライさんは強いんだ、負けないよ」
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