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第13章 闇のとばり
私たちを疑わないでください
しおりを挟む朝が来て、イングウェイとレイチェルはタントゥーロに呼び出された。
天幕の入り口をくぐると、そこにはエドワードもいた。
「すまんな、昨夜は助かった。まさかホルスが敵だったとは。前々から有能な冒険者だと思っていたのに、残念だ」
先に口を開いたのはタントゥーロ。
イングウェイは適当に話しを合わせていく。
状況確認は済んだが、俺が欲しがっていた情報は、特に無かった。
タントゥーロは最後に、俺に軍に入らないかと聞いてきた。
「わしとしては、むしろ部下に欲しいくらいなのだが。どうだ、考えてみんか?」
「今回の遠征は、最後まで参加するさ。だが、軍というのは期待しないでくれ。冒険者という身分が気に入っているのでね」
その答えについては彼も予想していたのだろう。彼は「そうか」とだけつぶやくと、それ以上追求してこなかった。
タントゥーロの天幕を出ると、エドワードが聞いてきた。
「ところで、キャスリーは何をしている?」
「それが、ひどい状態で」
「なに、戦いでケガをしたのだな、大丈夫なのかっ!」
声が急に大きくなる。やはり父だな、心配していないふりをしつつ、気になるのだろう。
「いや、吐き気がひどく、一人では動けない状態だ」
「まさか、呪いか?」
「いや、二日酔いだ」
「……は?」
俺たちは事情を話し、キャスリーをエドワードに預けた。
事後処理はだいたい終わった。レイチェルが「どうしましょうね、これから」とぽつりとつぶやく。
イングウェイにもわからなかった。このまま軍に残り、何をすべきなのか。運命は自分に何をさせようというのか。そもそも――
「そもそも俺たちは、なんで軍に参加したんだっけ」
「なんでって、魔獣たちの討伐でしょう?」
イングウェイは重大なことを思い出した。
「いや、それもそうだが。魔獣の群れを魔族が率いているのでは、ということで、調査もかねて軍の遠征に参加したんだ」
「ああ、そういえば炎熱のなんとかさんっていましたよね?」
「そうだな。王城で出会った、キョニーという名の魔族はまた別のやつだ。しかし今回の件で強く思ったのだが、魔族たちの使う魔術系統は、人間と少し違うよな」
「え? そうですか、意識したことはなかったんですが。魔族のほうが魔力が高いから、雑なんですかねえ?」
「いや、逆だ。むしろ人間のほうが、魔力頼りな魔法の使い方をしているぞ。今まで会った魔族はそいつらくらいだが、やつらはちゃんと魔力を組み上げて事象を起こすという、しっかりした『魔術』を使っていたからな」
「ほええ、そうなんですか? イングウェイさんももしかして、魔力を組む? ってことをしてるんでしょうか」
レイチェルは驚いていた。なんてこった、こんな大切な基本が広まっていないなんて、どうかしている。
「まあ俺に比べると、全然たいしたことはないがな。……おい、メタ梨花」
「はい?」
「お前は常に俺と一緒にいたはずだ。誰かほかに怪しいやつはいなかったか?」
メタ梨花は少し考えて、ずばりと指摘した。
「一番というと、やはりイングウェイさんですね。男なのに魔力がーとかももちろんですけど、どう考えても今回の混乱の原因になってませんか? ……まあ、イングウェイさんが悪意でどうこうしているとは思っていませんけど」
怪しいのは、まさかの俺自身か。
客観的に見てみると、確かに言い訳できないことばかりだ。
ランクも低いギルドでありながら、軍のトップにいるエドワードに目をかけられている。襲撃の時は姿を見せないと思ったら、いきなり敵の大将と大立ち回りを繰り広げる。
そして、疑いの残るホルスらの殺害。口封じと思われても不思議ではない。
言い訳をするなら、俺は巻き込まれているだけなのだが。
「イングウェイどのー」
振り返ると、一人の兵士が向かってきた。
兵士は言った。手には一枚の書類を持っている。
「フロイドというギルドはご存知ですよね? あなたが昨夜倒したホルスが率いていたギルドですが。あのメンバーの取り調べが終わりました」
「ふむ。処刑でもするのか?」
ははは、と兵士は笑った。冗談だと思われたらしい。
「まさか。メンバーは三人いるのですが、全員人間で、ホルスの正体については何も知らなかったそうです」
「なるほどな。それで?」
「今回の冒険者組のリーダーは、ホルスでしたからね。で、今後の冒険者グループの指揮は、ギルド『ミスフィッツ』にお願いするということです。あ、これがその任命書ですね」
「「はいいいい??」」
「そちらのギルドも、現在は二人きりだと聞きます。どうです、『フロイド』の3人を足せば、ちょうどいいんでは。では、よろしく!」
兵士は書類をイングウェイに押し付けると、にこやかな顔で立ち去った。
書類には間違いなくタントゥーロの署名。任命と言いつつ、押し付けられてしまった。くそう、顔は怖いが、やることはせこい。
「とはいえ、やるしかないか。『フロイド』の他のメンバーはとばっちりだしな、これで死ぬことにでもなれば、夢見が悪い」
「まったくイングウェイさんは、お人よしなんですから。しかたないですね、とりあえずその3人に会ってみましょうか?」
俺とレイチェルが相談をしていたところ、メタ梨花がおずおずと話しかけてきた。
「あのー、リーダーが裏切ったギルドと、リーダーが怪しいギルド。二つバラバラよりも、まとめておいた方が、監視しやすいですよねえ」
「まあそうだろうが、何が言いたい?」
「ええと……もしかして、疑われているのは私たちも同じなのでは?」
「ははは、そんなばかなー」
レイチェルの乾いた笑いが、虚しく後を引いた。
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