115 / 200
第12章 魔獣討伐
日常の終わりと、狂気への誘い
しおりを挟むその夜。エドワードとキャスリーの三人で、酒を飲んでいたときのことだ。
いや、キャスリーはあっという間につぶれて寝てしまったから、二人だな。
「いやいや、儂も気を付けてはいるんだ、しかしだな、最近はいろいろうるさい奴が増え過ぎで」
「ああ、わかるぞ、みんな細かいところを気にしすぎなのだ」
「だいたい胸や尻はでっぱっているのだ、たまたま手を伸ばしたら、ぶつかるのは当たり前ではないか。それをセクハラだのなんだの、ぶちぶちと。だいたいお前のようなババアの乳を狙いに行くかというのだ」
「ふむ、触って減るものではないからな。むしろ俺が触ればどんどん増えるぞ」
「はっはっは、イングウェイ殿がうらやましいわい。あのレイチェルとかいうおなごも、なかなかバイーンと立派な魔力を持っているのう」
「バイーンか」
「ばいーんじゃ、ばいーん」
「ん?」
唐突に頭がひりつくような感覚がして、俺は飲みかけていたグラスを置いた。
胸ざわめく。酔いのせいではない。
心配してエドワードが聞いてくる。
「どうしました、イングウェイ殿?」
「いや、何か嫌な感じがしてな」
立ち上がり、耳を澄ます。目を閉じて、魔力を聴覚に集中させる。遠くで何かが騒いでいるような気がする。
妙な胸騒ぎがして、俺は天幕の外へ出る。
風の強い夜だった。夜の闇の中、俺はある方向を向き、目を凝らす。
その時だった。わずかだが確かに聞こえた。金属音とどなり声だ。
「エドワード、聞こえたか?」
「ああ、もちろんだ」
さすがと言うべきか、彼の酔いはすでにさめていた。そこにいたのは酔っ払いおやじではなく、一人の屈強な戦士だった。
「俺は先に行く、キャスリーを見ていてくれ。できれば、レイチェルや俺の仲間たちのところへ合流させてやってくれ」
「わかった。すぐに部下をよこす、無理はするな」
「誰に言ってる、俺は賢者イングウェイだぞ」
軽く笑った俺に、エドワードも笑顔で返す。
「死ぬなよ、イングウェイ殿。君にはぜひとも、娘を貰ってもらわねばならぬからな」
おい、いつそんな話になった? だいたい転生時期を入れたら、俺のほうがお前より年上なのだぞ。
エドワードは部下を呼びつけて色々と指示を飛ばす。その様子を見届け、俺もすぐにその場を離れる。
走りながら、腰のメタ梨花に声をかけた。
「おい、戦闘になりそうだ。起きてるか?」
「当たり前ですよ、もともと私は戦闘用ゴーレムですからね。戦わない方が調子が悪くなります」
それはそれは、頼もしい限りだ。
ぎゃおーーす。
風に乗って届く、ドラゴンの叫び。
「妙だな」
「なにがですか?」
俺のつぶやきに、メタ梨花が反応した。
「ドラゴンさ」
「なぜです? ドラゴンは飛べるし、単独での戦闘力も高い。魔王軍が夜襲に使用しても、不思議ではないでしょう」
まあ、それは一理あるのだが。
相手の規模にもよるさ。俺は説明しながら、自分の頭の中を整理していく。
「確かにドラゴンは強力なモンスターだが、相手は王国の正規軍だぞ。ドラゴン殺しの騎士くらい、当然いると考えるのが普通だ」
「実際にインギーさんも、来る途中で一匹殺しましたしねえ」
「だいたい夜襲というのが気に食わん。夜の闇に紛れれば、確かにドラゴンも目立たず飛んでこれるだろうさ。しかし、ブレスは吐くわ咆哮を上げるわ。一度戦い始めたら、目立ってしょうがないだろう」
「ははあ、それは確かに。おまけにこんな中途半端なところを攻めるなんて」
「そうだな、俺なら本陣のど真ん中に降り立ち、一撃与えてすぐに逃げ出す。こんな中途半端な夜襲など、警戒されて逆に次の行動がとりにくくなるだけだ」
「と、言うことは――」
「おとり、か?」
俺ははたと立ち止まる。
しまった。
エドワードの天幕は、連合軍の北西付近にあたる。ドラゴンは、ほぼ真北から襲ってきた。
このまま応援に行くと、本陣からはさらに離れることになってしまう。
考えろ、俺が魔王軍ならどうする? ドラゴンを囮に使った目的は?
ドラゴンに対応する様子を観察し、頭となる存在を探すとするなら。奴らはどこに隠れる?
俺は空を見上げた。
はるか上空に、黒い人影が見えた。
本命は、あれか。
再度響く、竜の咆哮。微妙に声の高さが違う。
何匹いるかはわからんが、ドラゴンを放置することもできない。
腹は決まった。方向を変えて走り出す。
「おっとっと、今度はどこに向かってんですかあ?」
「ホルスのところだ。まずはレイチェルと奴を合流させ、ドラゴンを任せる。あいつは優秀だ、きっと何とかすると思う」
「じゃあ、イングウェイさんは?」
「大将の護衛だな」
「間に合うんですかあ?」
「相手がせっかく目立つところに陣取っているんだ、一直線に向かわせてもらおう」
空中戦は久しぶりだが、なんとかなるだろう。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる