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第11章 パペット・パニック!
どりんきんぐ!
しおりを挟むニセインギーが皆の気を引いている間に、本物の俺が陰から束縛を唱える。
完璧な作戦だ。
唯一のミステイクといえば、キャスリーがあまり酔っていなかったことか。
逆に俺は、酔っ払いだ。重度の酔っ払いだ。それはそうだ、敵をあぶりだすためにまず自分から飲んだからだ。
飲んだ、そう、焼酎を!
敵をあざむくにはまず自分が酔わねばならない。仕方ないことであり、世界の真理でもある。
「きゃっ、なにをするんですの!」
ぱんっ、ぱんっ!
キャスリーは抵抗し、銃をパンパンと打ちまくる。
俺は、いや、ニセ俺は、あっさりやられた。ぐあああといううめきとともに、本体が明らかになる。
イングウェイ・ザ・シェイプシフターは、秘密のヴェールに包まれた本体を現す。
その姿は、なんとスライムのようなつるりんとしたスライム。
おもちのようなその姿、透き通るクリアブルーの肢体。手も足もないけれど。
「くっ、何をするのだぁ!」
口調だけは俺なのだが、やけに高い声で偉そうにぴきーぴきーわめいている。
俺はなんだかムカついて、蹴っ飛ばしてやった。そうだ、そもそもこいつを持って帰ったイングウェイとか言う奴が悪い。遺跡に封じておけば、こんなやっかいなことにもならなかったのに。
イングウェイは悪いということは、つまり、ニセの俺も悪い。俺が正当にうっぷんを晴らすには、ニセモノの俺を蹴っ飛ばしてやるしかない。
ぶにん、と鈍い音がして、つま先にスライムがまとわりついた。
気持ち悪いが、ここは我慢だ。燃やすのだ。燃えろ。
俺は炎の術を唱えようとした。
その瞬間、スライム状の俺は跳ねて室内に逃げ込もうとする。
俺は追わない。酔っているからむりなのだ。走るのは、まずい。
今走るととてもいい気分になり、天国に旅立ってしまう。今も必死で正気にかじりついているのだから。
ああ、おつまみに何か、ください。俺は虚空にお願いする。
素敵だ。この世は光に満ち溢れておる。そう、空を見上げると無数の星々が俺を祝福している。
と、そこで俺の脳天にも弾丸が撃ち込まれる。
すんでのところでかわす俺。さすが俺。
「なんですの、あなた! あなたもニセインギーですの?」
「そうだ、俺もニセインギーでございます」
俺は酔いのせいで、嘘をついてしまう。いや、嘘ではない。酔っ払いの行動とは、相手の行動の鏡写し。すなわち、俺はこのモンスターと同じ状態にある。
相手の行動をそのまま真似で返す癖のある酔っ払いは、言葉の意味など考えずに適当な返事を返すのだ。
そして、そのことを一切覚えていない。
これは危険だ。
俺は思い出す。俺はニセキャスリーを探していたのではなかったか?
このキャシーは本物だ。英語で言うと、モノホンだ。
つまり、偽物ではない。
では偽物はどこだ。
決まっている、こういうときはこういうのだ。
「あなたの心の中にいるのです」と。
フィッツが聞く。
「なにが心の中にいるんだにゃん?」
決まっている、偽物だ。
「つまりインギーは、みーたちのニセモノを探しているんだにゃん?」
「そうだ、酒が飲めない。奴らは酒が飲めない」
「なぜにゃん?」
「酔うからだ」
「じゃあ、さっきから全然飲んでないやつが偽物かにゃん?」
「そうだ」
「それはみーだにゃん」
「うそだ」
「うそにゃん」
「「ははははは」」
フィッツも酔っていた。
いい気分になった俺は、適当にニセモノを探すことにした。もう、俺がにせものと思ったやつがにせものだ。それでいいではないか。
一番酔っているだろうというやつを探す。つまり、俺だ。 俺がにせものなのだ。
俺は俺をポカリと叩く。
ああ。やられた。眠い。
――偽物は、本当に俺だった。
俺は、偽物だった。ただし半分だけだ。
やけに体が重たい。庭で目覚めた俺は、体の上にゼリー状の物体が乗っかっていることに気付く。
なんだこれは?
変な顔でそれをつまみ上げようか悩んでいると、騒ぎの元の変態鉱石が言った。
「ありがとうございます。それこそが、私の半身。私の探していた、最後の偽物です」
「お前は、鉱石魔人」
「鉱石ではありません。せめて魔法生物と言ってください。まあいいです。探していた偽物は、どうやらいつのまにかイングウェイさんにへばりついていたようですね」
「では、奴のあの奇行も?」
「おそらく、あなたの酔っ払いとしての思考をそのままトレースしてしまったのでしょう。嘆かわしいことです」
なるほど、思考すら真似してくるということか。たしかに、酔っ払いの思考で混乱するのは当然だ。
とはいえ、眠気がひどい。まずい。
俺は再び眠りに落ちる。目を開けたら幸せのお花畑が広がっていることを信じて。
うっぷ、気持ち悪い。
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