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第11章 パペット・パニック!

つかいすてられたヒーロー!

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「そうだ、酒だ」
「へ?」
「マリア、焼酎をよこせ」
「ええ? なんでさ!」

 俺は酒を飲む。

「簡単な話さ。姿かたちがそっくりとはいえ、食べ物まで人間と同じとは思えない。酒を飲んだらきっと吐き出すだろう。
 そして、吐き出さないなら、酔って敵ではなくなる。酔っぱらった頭で化けられるはずがないだろう」

「なるほど、さすがインギーですわ。ぐびり」
「えー、私、そんなに飲めないんだけどなー。こくこく」
「あったまいいでちゅねー。ごきゅごきゅ」

 ダウトだ!
 俺はレイチェルに剣を向ける。

「なな、なんでちゅか! わたちはほんものでちゅよ!」

「ふん、ふざけるな。ビールがあるのに、あいつが焼酎から飲むわけがないだろう」

「くっ、しまった! ぎしゃああああっ!」
 レイチェルは耳まで裂けた口から、数メートルはあろうかという舌を伸ばして攻撃してくる。
 酔った俺では避けられないだろうとでも思ったか?

 俺が指をパチンと慣らすと、あらかじめ用意してあった魔法陣が、レイチェルを燃やす。
「ぐああ、やられたー」

「バカめ」
「さすがインギー! でも、とうとう喋るようになってきたね」
「トライアンドエラーを繰り返し、物まねの精度を上げているのだろう。侮れんな」

 俺たちは酒盛りを続ける。次にぼろを出すのはだれだ?

 気付くとサクラは二人になっていた。”サクラと二人”ではない、サクラが二人だ。
 まあ酔っているならよくあることだ。だが、俺の眼はごまかせない。

 隙を見て繰り出される居合を華麗にはじく俺。

「くっ、なぜわかった!」
「簡単だ。二人のサクラは、それぞれ別の動きをしていた。酔いが原因で二人に見えたのなら、二人は同じ動きを取るはずだ。ということは、片方は偽物なのは自明だろう?」
「くっ、こいつ、酔い慣れているっ!?」

 シャドウサクラはピンクサクラを抱きしめると、ダンスをするように二人でくるくると回り出す。
 まずい、これではどちらが偽物か、またわからなくなる。
「おい本物のほう、少しは抵抗しないか」

「む、むりですー、ただでさえお酒弱いっていったじゃないですかー。こんなに回されると、うう、うっぷ」
 二人のサクラは同時にふらつき、こちらに向かってくる。

 ふん、小細工だな。
 俺はサクラの魔力を、自らの手で確かめる。

 ふにゅう、もにゅう。もにー。

「「ひひやああっ、なに、ななななにするんですかあーーーっ!!」」

 二人のサクラは似たようなリアクションを取るが、
「ていっ!」
「びにゃあっ!」
 俺は右のサクラをげしっと蹴り飛ばす。
「俺がどれだけこいつを揉んで育ててきたと思ってる。姿は騙せても、体内の魔力までは変質できないだろう?」

 まったく、サクラの偽物とか、嫌なことを思い出させやがって。
 頭からすっころぶシャドウサクラに、とどめの氷塊を頭上から落とす。

「インギー、君、見た目がそっくりの相手にも容赦しないんだねー」
 何気ない、マリアのつぶやき。
 それを聞いたキャスリーが、ひらめいたように銃を取り出し連射する。

「それですのっ!!」
「え? ちょっとま、うあああっ」

 すぱぱんっ、っぱんっ!

「ちょっとキャスリー、何すんのさっ! インギーがっ!」

「心配ないですの。私の知っているインギーは、いくらモンスターとはいえ、私たちの姿をした奴らに気にせず攻撃するような薄情な人ではありませんの」
「でもっ!」
「だいたい本物のインギーが、酔っ払った程度で私の銃を避けられないとでも? 当たったってことは、それこそが偽物の証明ですのよ」

「「「なるほど」」」


 どくどくという音がやけに大きく聞こえる。酒のせいだろうか。酒のせいだろうな。
 ――まずい。意識が、やけに、……。
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