105 / 200
第11章 パペット・パニック!
つかいすてられたヒーロー!
しおりを挟む「そうだ、酒だ」
「へ?」
「マリア、焼酎をよこせ」
「ええ? なんでさ!」
俺は酒を飲む。
「簡単な話さ。姿かたちがそっくりとはいえ、食べ物まで人間と同じとは思えない。酒を飲んだらきっと吐き出すだろう。
そして、吐き出さないなら、酔って敵ではなくなる。酔っぱらった頭で化けられるはずがないだろう」
「なるほど、さすがインギーですわ。ぐびり」
「えー、私、そんなに飲めないんだけどなー。こくこく」
「あったまいいでちゅねー。ごきゅごきゅ」
ダウトだ!
俺はレイチェルに剣を向ける。
「なな、なんでちゅか! わたちはほんものでちゅよ!」
「ふん、ふざけるな。ビールがあるのに、あいつが焼酎から飲むわけがないだろう」
「くっ、しまった! ぎしゃああああっ!」
レイチェルは耳まで裂けた口から、数メートルはあろうかという舌を伸ばして攻撃してくる。
酔った俺では避けられないだろうとでも思ったか?
俺が指をパチンと慣らすと、あらかじめ用意してあった魔法陣が、レイチェルを燃やす。
「ぐああ、やられたー」
「バカめ」
「さすがインギー! でも、とうとう喋るようになってきたね」
「トライアンドエラーを繰り返し、物まねの精度を上げているのだろう。侮れんな」
俺たちは酒盛りを続ける。次にぼろを出すのはだれだ?
気付くとサクラは二人になっていた。”サクラと二人”ではない、サクラが二人だ。
まあ酔っているならよくあることだ。だが、俺の眼はごまかせない。
隙を見て繰り出される居合を華麗にはじく俺。
「くっ、なぜわかった!」
「簡単だ。二人のサクラは、それぞれ別の動きをしていた。酔いが原因で二人に見えたのなら、二人は同じ動きを取るはずだ。ということは、片方は偽物なのは自明だろう?」
「くっ、こいつ、酔い慣れているっ!?」
シャドウサクラはピンクサクラを抱きしめると、ダンスをするように二人でくるくると回り出す。
まずい、これではどちらが偽物か、またわからなくなる。
「おい本物のほう、少しは抵抗しないか」
「む、むりですー、ただでさえお酒弱いっていったじゃないですかー。こんなに回されると、うう、うっぷ」
二人のサクラは同時にふらつき、こちらに向かってくる。
ふん、小細工だな。
俺はサクラの魔力を、自らの手で確かめる。
ふにゅう、もにゅう。もにー。
「「ひひやああっ、なに、ななななにするんですかあーーーっ!!」」
二人のサクラは似たようなリアクションを取るが、
「ていっ!」
「びにゃあっ!」
俺は右のサクラをげしっと蹴り飛ばす。
「俺がどれだけこいつを揉んで育ててきたと思ってる。姿は騙せても、体内の魔力までは変質できないだろう?」
まったく、サクラの偽物とか、嫌なことを思い出させやがって。
頭からすっころぶシャドウサクラに、とどめの氷塊を頭上から落とす。
「インギー、君、見た目がそっくりの相手にも容赦しないんだねー」
何気ない、マリアのつぶやき。
それを聞いたキャスリーが、ひらめいたように銃を取り出し連射する。
「それですのっ!!」
「え? ちょっとま、うあああっ」
すぱぱんっ、っぱんっ!
「ちょっとキャスリー、何すんのさっ! インギーがっ!」
「心配ないですの。私の知っているインギーは、いくらモンスターとはいえ、私たちの姿をした奴らに気にせず攻撃するような薄情な人ではありませんの」
「でもっ!」
「だいたい本物のインギーが、酔っ払った程度で私の銃を避けられないとでも? 当たったってことは、それこそが偽物の証明ですのよ」
「「「なるほど」」」
どくどくという音がやけに大きく聞こえる。酒のせいだろうか。酒のせいだろうな。
――まずい。意識が、やけに、……。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる